プロ野球パ・リーグで2年連続最下位からの巻き返しを期す日本ハムが、本拠地球場「エスコンフィールド北海道」での秋季キャンプを終えた。11月1日から12日まで、休養日を除く11日間。秋季キャンプは例年、若手を対象に沖縄県国頭村で実施していたが、今秋は沖縄組と並行して、主力組が本拠地に集まって大きなテーマに取り組んだ。守備練習の徹底だ。
今季は開業1年目の新球場に対応できず、ホームゲームでの失策がかさんだ。そのためキャンプ期間中のおよそ半分は、練習時間の全てを守備に費やす「ディフェンスデー」。シーズン中、本来あるはずの「地の利」を生かせなかった。なぜ内野守備が難しかったのか。そこには、はた目では分かりにくい微妙な現象があった。(時事通信札幌支社編集部 嶋岡蒼)
日本ハムは今季、12球団ワーストの94失策。パ・リーグの球場別シーズン失策数を見ると、最も多かったのがエスコンフィールド北海道で85失策(6球団合計)だった。エスコンフィールドと同様、天然芝と土のグラウンドの楽天モバイルパーク宮城も83失策と多い。最少の福岡ペイペイドームは34失策で、ほぼ全面が人工芝のドーム球場との差が明白に数字に表れている。
エスコンフィールドでは、試合が多い本拠地球場とあって45失策を記録。トータル失策数のほぼ半分に上り、これが足かせとなった。一方で、試合が少ない他球団もオリックスと西武が2桁(ともに10失策)。日本ハムだけが「拙守」だったとは言い切れないようだ。
長い天然芝と硬い土
エスコンフィールドの内野グラウンドは、北海道の寒さにも対応できる「ケンタッキーブルーグラス」という寒冷地型の芽が長い天然洋芝と、米国の球場でも使われている硬い土で構成される。走路やベース周辺が土で、それ以外の部分は芝。遊撃手や二塁手はゴロを土の部分でさばくケースが多い。そこに特異現象が潜んでいた。
内野ゴロは、洋芝がクッションのような働きをして、打球の勢いが吸収されて弱まる。しかし、硬い土の部分では弾むから、球足は弱まらない。むしろ加速して向かってくるように感じる選手もいるという。芝を転がってきたリズムに合わせてゴロを処理しようとしたら、予測以上にはねてグラブをはじくシーンもあった。一見何でもないゴロに、落とし穴があったようだ。
バウンドを合わせにくい
今季まで日本ハムで内野手としてプレーし、現役引退した谷内亮太内野守備走塁コーチは、他球場と比べて「(エスコンフィールドは)球足の緩急が一番あると思う。芝での打球の緩み方は一番じゃないかな」と語る。その上で、打球の勢いが弱くなった後に硬い土で強く弾むため、捕球の直前で「差し込まれることがある」と説明する。
バウンドを合わせるのが難しく、これが内野手を悩ませていたようだ。軽快な守備が持ち味の上川畑大悟内野手でも「このバウンドで合うと思って捕球体勢に入っても、合わないことがあった」と振り返る。
米大リーグは天然芝の球場が多いが、日本のプロ野球では球場の多くが人工芝のグラウンド。人工芝はイレギュラーが少なく、内野ゴロの弱まり方もほぼ一定だから、野手にとって予測がしやすい。本拠地とするチームの守備力にもよるが、今季のパ・リーグで球場別失策数が少なかった京セラドーム大阪、ベルーナドーム、福岡ペイペイドームはいずれも内野に人工芝を張っている。
「天然芝と土」にも違い
エスコンフィールドと同じく天然芝と土の内野グラウンドとして、楽天モバイルパーク宮城がある。ただ、土と芝の種類が異なるから難易度も変わる。楽天モバイルパークは黒土を使用しているため、「日本の野手が慣れているバウンドをする」と谷内コーチ。ベテランの中島卓也内野手も「楽天の球場とエスコンは似ているけど、向こう(楽天)の方が守りやすい」と話す。
日本ハムにとって、シーズン143試合の半数を戦うホーム球場でグラウンドに対応できるか否かは、勝敗にも大きく関わってくる。谷内コーチは、内野ゴロに対し「どういう用心の仕方で前に出ながら捕球するかを考えないといけない」と指摘。芝で球足が弱くなる分、前に出て捕らないとアウトのタイミングにすることが難しい。一方で、前に出過ぎると硬い土で弾む打球に差し込まれてしまう。ゴロに対する見極めや対応力を磨いていく必要があるようだ。
荒木臨時コーチの指南
秋季キャンプでは第1クールに、中日で名手として鳴らした荒木雅博さんが臨時コーチで指導にあたった。かつて井端弘和さん(現日本代表監督)と二遊間を組み、「アライバ」コンビの堅守がファンを沸かせた。その荒木さんでも、やはり難しさを感じたようで「これはエラーするだろうな、と。今までやってきたような股を割ってバウンドを合わせて『こうやって捕りなさい』というのは、通用しづらい球場だと思う」。その上で、選手にポイントを指示した。「とりあえずは前に出る。バウンドがどうなるかが頭に入り過ぎて、待って構えるところがあった。その間に前に出られるじゃん、と伝えた」
キャンプ中、内野手は通常のノックだけでなく、守備の形を意識するための緩いゴロ捕球や、ポケットの浅い特殊なグラブを使ったノックを受けるなど徹底して課題克服に取り組んだ。谷内コーチは「根気強くやっていきたい。まだ探って守っているところはあるけど、足は動いてきている」と手応えもつかんだ様子だった。
「いいキャンプになった」
ベテランも主力も参加し、守備練習に重点を置いた今回のキャンプは、新庄剛志監督の希望も反映させた。対応は決して容易ではないが、みっちりと練習できたことに、同監督は納得の表情でこう語った。「前に出てボールを合わせるというところも練習して、選手の身体が覚えてくれたと思う。本当にいいキャンプになった」
一部を除き無料で観客も入れ、11日間で計10万1600人を動員した。好プレーには拍手、ミスにはため息。緊張感のある環境で練習させ、新庄監督は「大正解だった。選手もやる気しかなかったと思う」。まずは守りから―。低迷脱却はもちろん、さらなる高みを狙う来季に向け、一歩を踏み出した。