謎だらけの主要閣僚解任 混乱続く習近平政権【中国ウオッチ】
2023年10月30日14時30分
中国の李尚福国防相兼国務委員と秦剛国務委員(前外相)が解任された。いずれも習近平国家主席(中央軍事委員会主席)の大抜てき人事で任命されてから数カ月しかたっておらず、その失脚には謎が多い。国防相の後任は決まらず、習政権は混乱が続いているようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)
主流派の「内ゲバ」?
李国防相らの更迭は10月24日の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で決まった。李氏は中央軍事委員も解任された。中央軍事委の装備発展部は7月下旬、過去の装備調達に関する不正の調査を始めると発表。調査対象期間は、李氏が同部の部長に就任した2017年秋以降で、李氏を狙い撃ちにした形となった。
中国の「反腐敗闘争」は通常、政権主流派が汚職摘発を口実に非主流派に打撃を与えるものなので、今回のように、主流派で重用された高官が相次いで粛清されるのは極めて異例。李氏は、習主席の盟友といわれてきた張又侠中央軍事委副主席(軍制服組トップ、元装備発展部長)の弟分だったので、なおさらだ。
上級閣僚である国務委員のような高官の粛清は事実上、所属機関ではなく、共産党の指導部で決定する。現指導部に習近平派以外の大勢力はないので、今回の人事は習派の「内ゲバ」だった可能性がある。
秦氏は外相と国務委員の解任時期をずらしたのに、李氏は国防相と国務委員を同時に更迭した理由は、はっきりしない。また、閣僚など国家機関の高官が反腐敗で失脚する場合、党中央規律検査委の調査→解任→党規・法律による処分という流れになるのが普通だが、この2人は調査発表のないまま解任された。段取りを変えたのか、それとも、腐敗行為の公表・処分はしないのかは分からない。
高官が左遷という形で事実上失脚するケースもある。しかし、2人は転任先が明らかになっておらず、公の場にも全く姿を見せないので、完全に粛清されたとみられる。
人事の調整能力欠く
外相・国防相と国務委員の更迭人事は完了したものの、意外なことに新しい国防相は任命されなかった。習政権中枢とパイプがあるといわれる香港紙・明報は10月25日の論評で「適任者がいなかった」「国防相の役割は儀礼的なものだから」と解説したが、習政権の苦しい言い訳を代弁するかのようだ。
中国では、軍隊は政府ではなく中央軍事委が動かすとはいえ、国防相には軍事外交など対外的役割があるので、長期の不在は好ましくない。要するに、後任人事について意見をまとめることができなかったわけで、習主席は調整能力を欠いていると言わざるを得ない。習主席の部下に対する疑心暗鬼が高じて、人選が難しくなっているという事情もあるのかもしれない。
香港メディアなどでは9月から、軍事委連合参謀部の劉振立参謀長(参謀総長に相当、中央軍事委員)が国防相に転じると報じられたが、その後、制服組ナンバー2の何衛東中央軍事委副主席が国防相を兼務するという説も流れている。後者の場合、中央軍事委副主席の国防相兼任は習政権では初めて。王毅氏の外相再任と同様、誰も昇格させず、どこからも文句が出にくい人事だ。
習氏は党総書記と中央軍事委主席を10年以上務め、昨年秋の党大会から今年春の全人代にかけて思い通りの人事を断行してきたのに、夏以降、高官人事で四苦八苦しているのは不可解なことだ。
国務院、さらに地盤沈下
一連の人事は、李強首相率いる国務院(内閣)にも影響を与えている。秦、李尚福の両氏がいずれもいなくなったため、3月に就任したばかりの国務委員は5人から3人に減少。国務院指導部は外交、軍事担当の責任者が不在になった。
国務院は全体会議ではなく、首相と副首相(4人)、国務委員から成る常務会議で基本方針を決める。しかし、外相に復帰した王氏は現在、国務委員ではないので、国務院常務会議には出ない。国務委員は基本的に党中央委員が就くポストだが、王氏は既に格上の党政治局員。中央軍事委の何副主席(政治局員)が国防相を兼ねる場合も同様だ。
党主導の体制下でも、国務院は外交・安全保障分野で一定の役割を果たしてきたが、国務委員2ポストの空席で地盤沈下が一層進んだ。習政権は「党高政低」を極端に進めて、「党の指導」を絶対化する方針とみられ、その政策はより硬直化していく可能性が大きい。
(2023年10月30日掲載)

















