均衡崩れる習近平指導部 首相落ち目、蔡書記が実質ナンバー2に【中国ウオッチ】

2023年10月11日12時30分

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 今春に3期目の体制を整えて本格始動した中国の習近平政権は、早くも指導部内のバランスが崩れつつある。序列2位の李強首相の存在感がますます薄くなる一方、序列5位で共産党中央書記局の筆頭書記(幹事長に相当)を務める蔡奇氏が勢力を増し、実質的なナンバー2の役割を果たしているようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)

巨額資産疑惑の怪文書も

 中国の国慶節(10月1日)を前に北京の人民大会堂で恒例のレセプションが開催されたが、政権を代表して演説したのは李強首相ではなく、習近平国家主席だった。この演説は昨年まで、建国65周年、70周年(2014年、19年)と節目の年に習主席が行ったのを除けば、李克強首相(当時)の役目だった。首相の「見せ場」の一つが減ったことになる。

 今年3月に首相となった李強氏は中央政府である国務院の活動規則を大幅に改訂。「毛沢東思想」などを削って、歴代最高指導者の指導理念の中で「習近平の新時代における中国の特色ある社会主義思想」だけを指針とした。また。国務院の新指導部は初の会議で政治重視を強調し、何よりも習主席への忠誠を優先する方針を示した。

 こうした方針に沿って、国務院が運営する公式ウェブサイト「中国政府網」の内容も、李克強時代の首相中心から習主席中心に変わった。首相関連情報のコーナーは廃止された。李克強前首相の地方出張は習主席と同じ「視察」とされていたが、李強首相は他の指導者と同じ「調査・研究」に格下げとなった。首相外遊の移動手段も専用機からチャーター機に変更になった。

 李克強前首相はさまざまな面で序列3位以下の指導者たちとは別格扱いだったが、李強首相は3位以下と同格。あえて保守的な習主席と異なる改革志向の発言をすることがあった李克強前首相とは対照的に、経済の苦境が続く中でも李強首相に経済・社会政策で目立ったコメントはない。

 李克強前首相は昨年5月、ゼロコロナ政策で打撃を受けた経済にてこ入れするため、大規模な緊急対策会議を主宰したが、李強首相には何の動きもない。首相はもはや、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員長や人民政治協商会議(政協)主席と同様の名誉職になったかのようだ。

 李強首相を巡っては、電子商取引大手アリババ関係の投資などで800億~900億元(1兆6600億~1兆8700億円)もの資産を一家で所有しているとする怪文書が9月下旬からインターネット上で広がっている。

 文書は真偽不明だが、李強首相の妻子がこれまで手掛けてきたビジネスについて、極めて具体的に詳述。何者かが政治的思惑から関係者の情報を基に作成した可能性がある。

 この文書によれば、李強夫人は、習主席が民営企業叩きで目の敵にしたアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏とビジネス面で非常に密接な関係にあるという。

指導部分裂を防げるか?

 一方、中央指導部で党務を担う筆頭書記の蔡氏は、党総書記の首席秘書官に当たる中央弁公庁主任を史上初めて兼務した上、これまでの筆頭書記と違って、党中央国家安全委員会の副主席も兼ねた。同委員会の弁公室副主任(事務局次長)を務めた経験があることから、党務だけでなく、国家安全保障政策にも影響力を持っているようだ。

 9月13~14日には全国党委員会・政府秘書長会議が開かれ、蔡氏が中央弁公庁主任として出席。党委と政府機関の秘書長両方を前に演説した。党委と政府機関の秘書長会議はこれまで別々だったが、統合された。過去の政府秘書長会議を仕切っていた国務院秘書長(官房長官に相当)は今回、会議にナンバー2として参加した。国務院秘書長は現在、李強氏の江蘇省時代からの側近である呉政隆氏だが、この会議では蔡書記に仕える形となった。

 3期目の習指導部の要は、国務院を率いる李強首相、党務を担当する蔡書記、軍の制服組トップに立つ中央軍事委の張又侠筆頭副主席。習主席は福建省長や浙江省党委書記を歴任しており、李首相は「之江新軍」と呼ばれる習主席の浙江省人脈、蔡書記は福建省人脈に属する(浙江省勤務の経験もある)。張副主席は、父親も将軍で、習主席の父親である習仲勲元副首相と同郷(陝西省出身)かつ戦友。革命時代に2人は西北地方における共産党・軍の主要指導者だった。

 つまり、習体制は主に之江新軍(浙江閥)、福建閥、陝西閥の有力者に支えられているわけだが、前述のように李首相は明らかに落ち目。昨年の第20回党大会で70歳という高齢にもかかわらず現役を続投するほど習主席の信頼を得ていた張副主席も、反腐敗闘争で同じ装備調達部門の後輩である李尚福国防相が事実上失脚した上、さらに同部門の複数の高官が粛清されるという説もある。張副主席に対する政治的打撃は小さくないと思われる。

 第20回党大会は習近平派が人事で大勝利を収め、政局という面から見ると、文化大革命中の第9回党大会(1969年)や文革後の第12回党大会(82年)に匹敵する会議だった。それぞれの党大会で勝者となった文革派と改革派は、いずれも数年以内に林彪事件や天安門事件で分裂し、政局は大きく混乱した。習主席は毛沢東や鄧小平の失敗を避けることができるだろうか。

(2023年10月11日掲載)

西村哲也(解説委員)

1962年生まれ。千葉県出身。85年時事通信社入社。大阪支社、外信部を経て、94年から北京特派員、中国総局長、編集委員、香港支局長、外信部長。2019年から現職。

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