日本旅行禁止の提案も 過熱する中国の「処理水」非難【中国ウオッチ】

2023年08月29日13時00分

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 東京電力福島第1原発で生じた処理水の海洋放出開始に対する中国の非難キャンペーンが過熱している。政府が日本産水産物の輸入を全面停止する事実上の経済制裁を発動したほか、主要公式メディアが連日、日本政府の対応を批判。国政諮問機関では日本旅行禁止の提案も出ている。(時事通信解説委員 西村哲也)

習主席のお気に入り

 日本旅行禁止を提案したのは、「愛国」が売り物のインターネット作家で、国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)委員を務める周小平氏。習近平国家主席お気に入りのタカ派論客として知られている。周氏は処理水放出翌日の8月25日、ネット上で次のように「追加制裁」を提案した。

 一、核汚染水(処理水を指す)放出は反人類の犯罪行為だ。

 一、日本当局は国際社会が止めようとするのも聞き入れず、世界海洋環境・資源を破壊した。核汚染水の長期放出は人類文明に対する重大な破壊につながる可能性がある。

 一、日本が核汚染水放出を完全停止しない限り、日本への団体旅行と個人旅行を停止するよう提案する。

 一、事は文明の存続に関わる。劇薬でなければ、重病は直せない。提案が採用されることを望む。

 周氏は、銃殺の対象とする台湾独立派のブラックリスト作成を主張して、物議を醸したことがある。

「日本は国際被告席に」

 中国外務省の孫衛東次官は22日、垂秀夫駐中国大使を呼んで、処理水の海洋放出中止を要求。放出すれば「中国を含む周辺諸国や国際社会に核汚染リスクをもたらす」「世界海洋環境と全人類の健康を賭けの対象とすることになる」と主張した。

 共産党機関紙の人民日報も25日、「海洋放出で日本は自らを国際被告席に置いた」と題する論評を掲げ、日本側を「利己的、傲慢」「生態環境の破壊者、世界海洋の汚染者」とののしった。

 垂大使は中国外務省に対し、海洋に放出するのは「汚染水」ではなく、「ALPS(多核種除去設備)処理水」という言葉を使うべきだと申し入れたが、中国側は全く無視している。

 また、北京の日本大使館が在留邦人に対し、外出時には不必要に大きな声で日本語を話さないなど慎重な言動を心掛けるよう注意を喚起したところ、人民日報系の有力紙・環球時報の前編集長でオピニオンリーダーとして有名な胡錫進氏は、中国側に対する挑発だとして問題視。「小日本」という蔑称まで使って、この問題で日本が中国に対し、いかに敵対的かを強調した。

 胡氏は中国の記者としては珍しく、個人の政治的意見を大々的に公表することを許されており、習政権の一部の意向を代弁する役割を担っているとみられる。

視線そらす狙いか

 中国政府は、福島第1原発処理水の海洋放出について「国際的安全基準に合っている」と結論付けた国際原子力機関(IAEA)報告書の信頼性を全面否定。しかし、その根拠となる具体的事実やデータは何も提示していない。

 習政権はなぜ、処理水問題でここまで大騒ぎするのか。このように不安をあおれば、中国の漁業や水産業界にも悪影響を与え、国内経済にマイナスとはならないのか。日本政府に対しては近年、台湾問題、防衛費大幅増額の決定、対中輸出規制とさまざまな不満があると思われるが、それにしても、あまりにエキセントリックで尋常ではない。

 「反日に利用すると同時に、民衆の視線をそらすことができる」。中国当局・メディアとの付き合いが多い香港の消息筋はこう指摘し、日本たたきで国内経済失速への不満を抑えるのが目的の一つだとの見方を示した。

 何事も「政治」優先ということであろう。いかにも習政権らしい対応である。

(2023年8月29日)

西村哲也(解説委員)

1962年生まれ。千葉県出身。85年時事通信社入社。大阪支社、外信部を経て、94年から北京特派員、中国総局長、編集委員、香港支局長、外信部長。2019年から現職。

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