今や注目のデジタル資産として、売買が盛んになりつつある「NFT(非代替性トークン)アート」。その国内時価総額ランキングで2位(10月時点)に輝いた「CNPJ」というNFTコレクションを生み出した人物が、実はわずか半年前まで貯金389円の売れない営業マンで、NFTの知識もまったくなかったと聞くと、驚く人も多いことだろう。
そんな現代のシンデレラストーリーを実現するまでの軌跡と、NFTに関する基礎知識をまとめて評判を呼んでいるコミックエッセー『底辺営業マンがNFTに出会い100日で人生が変わった話』(時事通信社)を上梓(じょうし)したうじゅうな氏に、なぜNFTクリエイターとして成功できたのか、話を聞いた。
年間契約ゼロの営業マンの人生を変えた「軽率力」
―クリエイターとして独立を目指す経過をリアルタイムで4コマ漫画に描き、かつNFTとして販売するというアイデアで、人気者になりました。うじゅうなさんがNFTを知ったのはいつ頃で、何がきっかけだったんですか?
去年(2021年)の12月ごろ、偶然見ていたYouTubeで知りました。調べてみると、国内でも個人の作品が数十万~数百万円で取引されている事例がありました。私は小さい頃は絵描きになりたいと思っていたのですが、いつの間にか夢を諦め、大学卒業後は普通に就職して営業マンをしていました。でも、NFTの存在を知って、これなら私も作品として発表できるかもしれないと考え、作り始めました。
―NFTの存在を知ってわずか数カ月で、会社を辞めてクリエイターとして独立されました。NFTを始めた当初、こんな未来を想像していましたか?
いえ、全然です。そもそも、NFT自体「よく分かんないけど、何か面白そう」と思って、軽率に始めたんです。
営業マンとしての私は、年間契約ゼロで、後輩よりも成績が悪くて上司には叱られ、会社の「お荷物」でした。給料も上がらず、貯金もなくて弁当も買えないという時もありました(笑)。
そんなダメな自分を変えたくて、NFTの以前にも、ブログやライブ配信などにも手を出してきました。結果、ブログは広告料500円、ライブ配信は2万円の収入で終わり、大した成果は出ませんでした。でも、ブログは文章、ライブ配信はネットでコミュニケーションを取る練習になったので、その後クリエイターとして活動する際の役に立っています。ですから、そんな遠回りも、今となっては必要なことだったと感じています。いろんなことに挑戦してきてよかった、「軽率は力なり」だなって思っています。
―うじゅうなさんのNFTは、「ジェネラティブ」と言って、プログラムを使ってキャラクターやアイテム、背景などをランダムに組み合わせる仕組みを採用しています。プログラミングの知識は最初からお持ちだったのですか?
いえ、ありませんでした。そんな私がジェネラティブのNFTを発行できるようになったのは、DAOというコミュニティーのおかげです。DAOとは「自律分散型組織」というもので、特定の誰かが権限を握るピラミッド型の組織ではなく、一人ひとりが自発的に活動する組織のことです。Web3.0の世界で主流になっていく組織の形態だと言われています。
私はNFTを始めて、「CryptoNinja」というNFTのDAOである「Ninja DAO」に入りました。入るといっても資格などが必要なわけではなく、チャットで会話するだけです。そこでNFTの作り方をいろんな方に教わり、ジェネラティブも発行できるようになったのです。Ninja DAOがなければ今の私はいないので、感謝してもし切れません。
「人を喜ばせる方法」を考え抜いてギャグにたどり着く
―うじゅうなさんのNFTは、「ギャグ」がモチーフになっています。どうしてこのアイデアにたどり着いたのですか?
私は最初、「忍者」をモチーフにしたNFTがあるなら、「侍」もありだろうと軽率に考えて、侍をモチーフにしたNFTを作りました。でも、まったく売れませんでした。その後は、美少女が流行しているから受けるだろうと思って、NFTにしてみました。でも、これもまったく売れませんでした。何で売れないか悩みに悩んで考えて、当たり前のことに気付きました。自分が本気で描きたいと思うモチーフではなかったから、作品自体の魅力がなかったのです。
私より上手なクリエイターさんはいっぱいいます。一枚のイラストで圧倒的な世界観を持った作品を作る方もいて、画力では太刀打ちできないと思っていました。でも、私は絵を描くのがたまらなく好きです。営業マン時代も趣味で描き続けていましたし、数えるほどしかいませんが、私から商品を買ってくださったお客さんにも絵を描いてプレゼントしてきたほどです。
私が絵を好きな理由は、絵を描くと人が喜んでくれるからです。だったら、徹底的に人を喜ばせたり、なごませたりする作品を作ろうと思って、ギャグに行き着きました。それで、私がNFTで悪戦苦闘する日々自体もギャグにしちゃえと思って、今回『底辺営業マンがNFTに出会い100日で人生が変わった話』として書籍化された4コマ漫画を1日1話ずつ描いて、NFTとして販売するようになったのです。
―この漫画が当たり、独立につながったということですね?
100日で一年分の生活費と活動費の300万円をNFTで稼げたら会社を辞めようと思って始めたのですが、結局、300万円を稼ぐ前の60日目くらいに、見切り発車で軽率に辞めちゃいました(笑)。怖くなかったと言えばうそになるのですが、行動しなくちゃ何も変わらない、ダメでもそれをギャグNFTにして笑ってもらえればいいや、と思いまして。
でも、不思議なことに、自分が楽しんで好きなギャグを描いているうちに、NFTを買ってくれる人も増えていきました。最初に販売した4コマは1話1500円前後くらいだったのですが、最終的には20万円くらいになりました。転売して130倍以上の利益を得たホルダーさんもいます。応援してくださった方にリターンができたということなので、作者としてもとてもうれしかったです。
―NFTに興味を持っている方に、何かアドバイスはありますか?
NFTは投資の側面に注目されがちなのですが、好きな作品を楽しむというスタンスで扱うことをお勧めしたいです。DAOなどのコミュニティーでクリエイターを応援し、みんなで楽しんで盛り上がった結果として作品がたくさん売れれば、自分の所有している作品の価値も上がり、リターンも期待できます。その一連の活動を楽しんでもらうと、少し楽しみの多い人生になるかもしれません。あと、貯金389円だった私が言うのも何ですが、余剰資金で楽しむことです(笑)。
うじゅうな 1994年生まれ、宮城県出身。ギャグNFTクリエイター。幼い頃からイラストレーターを夢見ていたが挫折し、某業界に就職。売れない営業マンとして死んだ目で会社勤めをしていたある日、NFTの存在を知り「自分も絵で稼げるかもしれない」と感じ、触り始める。試行錯誤していたあるNFTプロジェクトが、ソーシャルメディアインフルエンサーのイケハヤ氏の目にとまり、人気プロジェクトに。貯金ナシ・採算の見通し不明ながら、2022年春に思い切って会社を辞め、フリーランスとして独立し疾走中。同年9月にスタートしたNFTプロジェクトであるCNPJは10月時点で国内時価総額ランキング2位。