金澤美冬・おじさん専門ライフキャリアコンサルタント
私は、20代の頃から職場や街中で“おじさん”をウオッチする「おじさん研究家」を自認してまいりました。世の中の人はみんな私と同じく“おじさん”に興味を持ち、好きだろうと考え、友人には『おじさん図鑑:なかむらるみ 絵・文』(小学館)を勧めたり、同僚には職場のおじさんについてのオモシロ情報を伝えたりしてきました。私としては良いことをしているつもりでしたが、友人からは「美冬、そんな本読むのやめた方がいいよ」と勧告されたり、同僚からも「一体、何が面白いの?」と心配そうな顔をされたり、これまではなかなか理解が得られず、孤独な中での研究でした。しかし、最近になって高校の先輩女性が同志であることが分かり(もちろん『おじさん図鑑』も愛読)、孤独感からも解放され、さらに自分では収集することのできない情報を得たり、議論を交わしたりできるようになりました。
先日、その情報交換の場で話題になったのが先輩の職場の50代男性についてです。その50代男性は夕方になると「顔がなんだかベタベタするなあ」と、職場に置いてある消毒液を顔にバシャバシャかけて「あ~さっぱりした」と喜んでいるそうなのです。顔がパサパサにならないのかしら?、と心配になりつつも、男性の洗顔料や整髪料はスーッとする系が多いから、刺激をどんどん求めるようになり「もっと強いのをくれ!」となっているのかもしれないと、先輩と推測しました。イマドキの50代60代はこのようなワイルドな美容法を取り入れている方ばかりなのか気になったため、今回は“おじさんの美容事情”について、お肌のお手入れや髪形などを考察してまいりたいと思います。
お肌重視もパックには抵抗
まずお肌のお手入れについて。今回も私が運営するおじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)メンバーにヒアリングしてみました。さすがに消毒液を顔面にバシャバシャというワイルドな方はいないにしても、「何もやってないよ」という答えが大半かな、と予想していました。しかし、予想に反して多くの方が何かしらお手入れをしているというのです。それどころか「お風呂上がりはヴァセリンをそのまま顔に塗っている」という私の発言に、「化粧水も付けずに?」「ん?、僕がかかとに塗ってるやつだ」など、私よりも断然意識が高い反応が返ってきました。その上、「女性は髪の毛が長くて、乾かしたりケアしたり大変だから、なかなか時間かけられないよね」と頑張ってフォローしてくれるという優しさ。フォローを無駄にしないためにも、髪のケアはおろか乾かさないこともあるという事実は言わずに、(そうそう、女性は大変なんですよ)という顔をしておきました。
お手入れの内容を聞いてみると、化粧水、乳液、シミ取り(予防)美容液、たかの友梨式リンパマッサージなどなど多岐にわたりました。ただ、興味深かったのが、みなさん一様にパックだけは抵抗があるということでした。自分がするのも考えられないし、奥さんがしているのを見るのも嫌だから見ないように違う部屋に移動する、と口をそろえて言うのです。何がそんなに嫌なのでしょうか。「女性の美の裏側を見るのがタブーだと思うからですか?」「金田一耕助シリーズのスケキヨマスクみたいで怖いんですか?」などなど、いくつか質問をしましたが、「いや、そういうわけではない。ただただ引いちゃう」「薄気味悪く感じる」などと顔を曇らせるばかりで、謎の解明ができないままになってしまいました。今後の宿題としたいと思います。
そして、お手入れを始めたきっかけを聞くと、「“オヤジとおじさんの違いは?”という数年前の花王ニベアのCMを見てドキッとして」や「竹野内豊が渋くてカッコいいから資生堂ウーノ」「最近だとサントリーのヴァロンも良さそうだけど、ちょっと高いんだよなあ」など、CMに影響されたケースが多いようです。男性用化粧品が当たり前になり、売り上げも上がっている、と聞くとイマドキの20代30代の男子は美意識が高くなってるのね、と思いがちですが、それだけではなくイマドキの50代60代男性も、売り上げに大いに貢献していることが分かりました。20代30代の若者に、「男がそんなことやって」と言うどころか、「女性はメークもできて色々隠せるからうらやましい」という60代もいて、柔軟な姿勢に驚くばかりでした。
床屋さん、美容院の追加サービス
次に、髪形についてです。50代60代男性の髪形と言えば、ほとんど変わることがない、という印象があります。職場のおじさん同士で「あ~髪形変わってるぅ~」「分かる?、イメチェンしてみたんだ~」という会話は聞いたことがありません。実際に変えていないのか、変えていないとすれば何かポリシーがあるのか、変えているとすればきっかけはあったのか、など気になったためヒアリングしてみました。
すると、ほとんどの方が20年以上変えていない、という返答。理由としては、「薄くなってから選択肢が無くなった」が1番多かったのですが、「オールバックが似合う髪質、と美容室で言われたから」など似合う髪形があるからという方もいました。オーダーの仕方は「暑くなってきたからいつもより短めに」「寒くなってきたから長めに」という“季節対応型”と、「後ろと横を刈り上げ3ミリ、上は適当に」という“部分オーダー型”、「いつも通りで」という“お任せ型”があるようでした。事細かく指示を出さないのは、みなさん大体行きつけのところがあって、10年以上通っているからこそできることだと思います。興味深かったのが、女性のようにカタログを見てオーダーすることは全くないということでした。例えば、頭髪が薄くなってきた方用に“ブルース・ウィリスタイプ”とか、“ジュード・ロウタイプ”などからマッチするものをオーダーするということも想像していたのですが、そういうことは全くないのだそうです。
驚いたのは、床屋さんや美容院がエステのような存在になっていることです。髪を切ってもらうついでに、ヘッドスパをしたり、シェービングも1ランク上のお肌に優しい化粧水付きプランを選択したり、夏は南極シャンプー(シャンプー自体キンキンに冷えている)でスースーにしたり、耳エステなどもついでにしてもらったり…とエンジョイしているというのです。確かにエステにわざわざ行く、というのはおっくうだったり照れがあったりすると思いますが、床屋さんや美容院でついでにということであれば、気軽でちょっとした楽しみにもなります。ひそかにこんな楽しみを見つけていたのか、となんだかうれしくなりました。
残すべきか残さざるべきか、髪の毛とヒゲ
育毛についても聞いたところ、「30代頃からお風呂上がりにシューッとやっている効果が出ていてフサフサ」という声もあり、最近の育毛剤は効くようです。一方、「遠い昔に諦めた。バリカンで1ミリにそろえている」という方もいました。世界一格好いいハゲと言われるジェイソン・ステイサムは「そもそも俺には、頭の毛なんて似合わねぇ」ということを言っているらしいですが、確かにスキンヘッドが似合ってますし、その潔い姿勢がまた格好良さを増強させています。さらに、最近私の周りでは、“ハゲにはヒゲ“という言葉がスローガンのように広まっており、薄毛の男性はヒゲを生やすことでおしゃれになるからと、生やし始めた方も何人かいます。一昔前と違って、バーコードヘアとか、すごく分かりやすいカツラとか見なくなったのはなぜだろう?、育毛剤やカツラの進化だろうか?、と不思議に思っていましたが、薄毛に合う髪形をしたり、ヒゲを伸ばしたりすることで、薄毛を生かしたおしゃれを楽しんでいる方が増えたからなのかもしれません。
ヒゲに関しては、テレワークになってからあまりそらなくなったという声もあって、会社でTeamsなどのグループチャットを使っている方の場合、顔出しをしないことが多いからその傾向が高いようです。ただし、同じテレワークでもZoomをはじめとしたウェブ会議ツールを使っている方の場合、顔出しをすることが多いためこれまで通りヒゲをそり、整えることが多いことも分かりました。それどころか、画面に映る自分の顔を見るようになったので、表情やたるみなどが気になるようになり、リンパケアなどの美容をさらに意識するようになったという方もいて、使うツールにより意識が違ってくるということが面白い発見でした。
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最後に、こうしたお手入れをする目的について聞いてみたところ、「汚いジジィは嫌だ、小ぎれいにしたい」「モテたい(でもモテない、とも)」「自分の気持ちを上げるため」などさまざまでした。リンカーンは「40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」と言ったそうです。年を取ってくると今までやってきたこと、性格、品性が顔に出るから内面を磨き続けろ、という意味だと思ってきましたが、今回ヒアリングしてみて、内面はもちろん外面も磨いているから、いい顔、いい表情、いい雰囲気になっているということが分かりました。そして目的はそれぞれ違っても、努力が結果として表れるということを体現してくれる存在がいるというのは心強いものです。
とはいうものの、おじさん研究仲間の先輩とは、「きちんと身ぎれいにしている美容への意識が高い方々はすてき。でもちょっと無精ヒゲになっていてそのヒゲがウレタンマスクからツンツン出てしまっているくらい無頓着な方々も無防備でいい」という意見で一致しました。多様性の時代、“おじさん”もさまざまです。この時代の恩恵を享受し、今後もさまざまな事例を研究してまいりたいと思います。
(2023年3月19日掲載)