新型コロナウイルスの感染低下を受け、行動制限なき就職活動が復活した。2024年卒学生らを対象にした大規模な合同会社説明会が開かれ、リアル面接も増える見通し。「売り手市場」とされる就職戦線はコロナ前に戻るのか。就活の現場に行ってみた。(解説委員・樋口卓也)
コロナ禍2年目、採用活動に異変 増える「ガクチカ」なき就活生【けいざい百景】
対面とウェブがスタンダードに
「気持ち的には(雰囲気が分かる)対面の方がいいのですが…」。3月2日、長野県から合同会社説明会「マイナビ就職EXPO 東京会場」を訪れた理系の男子大学生(22)は、リアル面接について複雑な心境を語った。往復交通費は高速バスで5000円以上、電車で1万円を超す。「企業側が出してくれるのであればいいですが、そうでないと家庭の事情でオンラインにせざるを得ません」。
東京都内在住でも「オンラインの方がいろいろな会社が見られていい」(21歳の男子大学生)という声がある。
リクルートの研究機関、就職みらい研究所は2月、23年卒予定の就活生を対象にした「就職白書2023」を公表した。この中で「就職活動プロセスでウェブと対面どちらが良いか」を聞いたところ、合同説明会・セミナーで52.0%、個別説明会・セミナーで52.4%がウェブの方が良いと答えた。面接選考でも27.9%はウェブが良いと回答している(対面が良いは43.3%)。同研究所の別の調査によれば、23年卒の大学生が就職活動全体にかけた費用は平均7万5245円(22年6月12日時点)で、オンライン普及などによりコロナ前と比べ約4割減ったという。
マイナビが主催するマイナビ就職EXPO東京会場は、コロナ感染拡大が始まった直後の20年は中止となり、21、22年は来場制限を実施した。同社によれば、人数制限のない開催は4年ぶり。3月1~3日はのべ約1万2900人が訪れた。19年(3月9日・来場約3万6680人)には及ばないものの、22年(3月2日・来場約3420人、オンライン約4770人)を大きく上回った。
会場となった東京ビッグサイトのホールは、自分に合う企業を探す就活生と、ビラを手に呼び込もうとする採用担当者の活気にあふれていた。旅行や食品、アパレル大手、総合商社に立ち見が出る一方、あまり有名ではないのに満席という企業もあった。熱気や雰囲気など、言語化できない情報を肌で感じられるメリットは大きい。
また就職情報サイト「マイナビ」編集長の高橋誠人氏は、リアル就活のメリットとして、「偶然性」を挙げる。オンラインでは興味のある業界ばかりになりがちだが、「ふらっと立ち寄ったブースの企業の人が良かったとか、行くことによって自分の興味がある業界が分かったとかといった声を聞いた」。
一見するとコロナ前の就活風景だが、変化もあった。会場でリアルとオンラインを併用する企業の姿だ。24年卒を対象としたマイナビの調査によると、採用を増やすと回答した企業の割合は文系、理系ともに3割近くまで上昇し、2年連続で前年を上回った。「売り手」市場の就活生を逃すまいと、オンライン要望に応える企業は少なくない。オンラインで学生とつながった地方の企業もある。オンラインとリアルの使い分けは、ポストコロナの「スタンダード」(高橋氏)になってきた。
一方で、「『パワポ(パワーポイント)紙芝居』だけなら、オンラインでもいい」という声もあるという。資料を読み上げるだけのセミナーならリアルの意味はないと学生は見抜いており、企業にも工夫が求められそうだ。
内向き志向が加速か
コロナが影響を及ぼしたと思われる、気になる変化もある。それは、就活生の内向き志向の加速だ。マイナビ就職EXPOに出展した企業の採用担当者は「海外勤務もありますか?」とよく質問される。「したい」からではなく、「できればしたくない」趣旨だという。留学が中止された影響なのか、海外での仕事に不安を抱いているらしい。
埼玉県から訪れた、食品企業を志望する理系の女子大学生(21)は「海外勤務は希望していない」と話し、関東で勤務できる企業を探している。マイナビによれば、2023年卒マイナビ大学生Uターン就職に関する調査によると、「現在あなたが最も働きたいと思う勤務地」(47都道府県+海外で一つ選択)の設問で、海外はわずか0.4%だった。地元就職の意向に重きを置いた調査とはいえ、極めて低い数字だ。一方で「現時点で地元(Uターン含む)就職を希望しますか」という問いに対しては「希望する/どちらかというと希望する」が62.6%に達し、22年卒調査(57.8%)を4.8ポイント上回った。
少子高齢化で縮小する国内市場に見切りを付け、海外の成長市場に活路を見いだそうとする企業は少なくない。マイナビ就職EXPOの会場でも多くの企業が売り上げに占める海外事業の割合が高まっていることを説明していた。就活生の内向き志向はコロナ前から言われていたが、海外との往来がほぼ途絶えた3年間で加速した可能性がある。国際人材を採用したい企業側とのミスマッチは一段と広がりつつあるようだ。
どうしたらいいのか。高橋氏は「自分のキャリアに海外経験が生きるという採用PR」だと話す。会社任せではなく、キャリアは自分で築きたいと考える就活生は多い。海外経験がプラスだと「腹落ち」さえすれば、希望者は増える可能性がある。
「ガクチカ」は必ず見つかる
就活生の大半は大学入学時からコロナ下の行動制約に直面。留学や海外旅行だけでなく、大学に通うことすらままならなかった。エントリーシート(ES)に書く「ガクチカ」(学校生活で力を入れたこと)に悩む学生も多いという。
だが取材に応じてくれた神奈川県の女子大学生(21)は、「大学で授業を受けられず、家で時間を過ごすことが多かった」としつつも、「自分の強みは何だろうと考え、資格の勉強をした。コロナ下だからこそ、自分を見つめ直すことができました」とポジティブに捉える。カード会社を考えている東京都内の女子大学生(21)も「コロナで活動の幅は狭まりましたが、短期留学とかでがんばったことを話したい」と語る。
高橋氏は「自己肯定感の低い学生が多いが、全く何もない3年間ではなかったはずだ。自分がやってきたことを(第三者に)客観評価してもらう機会を作れば、ガクチカは必ず見つかる」と励ます。コロナ下でESのガクチカが乏しいのはみな同じ。若者らしい「ひたむきさ」があれば、さほど心配することはないような気もする。場違いな老記者は、社会への切符をつかもうともがく就活生の前途と、彼らが背負う日本の未来が明るいことを祈らずにはいられなかった。
(2023年3月18日掲載)