サウナブームの熱い波が国会にも押し寄せている。サウナ愛好家の国会議員が超党派の「サウナ振興議員連盟」(会長・自民党の武田良太元総務相)を立ち上げ、より多くの人がサウナを楽しめるよう、法改正を含めた規制緩和策を打ち出す方針。与野党の垣根を越えて具体策をまとめるには、文字通り調整のためにどれだけ汗をかくかが問われそうだ。(時事通信政治部・大沼秀樹)
【目次】
◇1600万人がととのう
◇地域振興・地方創生に
◇法規制が錯綜
◇国会も裸の付き合いで
【政界Web】前回は⇒なぜウクライナ訪問なのか デヴィ夫人が語る現地のいま
1600万人がととのう
日本サウナ・温冷浴総合研究所の調査によると、2022年の日本のサウナ人口は推計で約1681万人に上る。利用頻度に応じて、①月4回以上楽しむヘビーサウナーが約287万人②月1回以上のミドルサウナーが約547万人③年1回以上のライトサウナーが約845万人―と分類している。
サウナが日本に定着するまでにはいくつかの波があった。1964(昭和39)年の東京オリンピックの際、競技選手の要望で選手村にサウナ施設が造られたことが第1次サウナブームのきっかけになったという。現在は第3次ブームで、漫画家タナカカツキさんの作品「サ道~マンガで読むサウナ道~」の影響が大きいとされる。テレビドラマ化され、東京をはじめ全国各地のサウナ施設が紹介された。とりわけ静岡市駿河区のとある施設は聖地と呼ばれ、全国から愛好家が集う。
「サ道」では、「サウナ→水風呂→休憩」のサイクルを繰り返してリフレッシュすることを「ととのう」という言葉で言い表し、流行語にもなった。これまでどちらかと言えばおじさんイメージが根強かったサウナだが、健康や美容への効果がクローズアップされ、若者や女性も注目するようになった。最近では、個室型貸し切りサウナや屋外で楽しむテントサウナ、移動式のトレーラーサウナなど多種多様な楽しみ方が紹介されている。
地域振興・地方創生に
「若い世代を中心にサウナ需要が高まっており、この人気を地域振興・地方創生に役立てていきたい」。毎日のように通うヘビーサウナーの武田氏は、議連を発足させた理由をこう話す。
議連は国会議員のサウナ仲間の間で構想が持ち上がり、自民、立憲民主、日本維新の会など各党の愛好家約50人が名を連ねた。
武田氏はサウナの魅力について、「30分もあれば安らぎと爽快感を味わえる魔力がある」と語る。最近のサウナブームには「ストレス社会の中でゆとり、安らぎ、ととのい、そうしたものを求めている現象ではないか」と分析する。議連メンバーは、サウナ巡りをしながら普及に向けた議論を重ねたいとしている。
法規制が錯綜
サウナ振興を後押しするために議連はどういう役割を果たすのか。武田氏は「サウナは法律の制限が錯綜(さくそう)している業界だ」と指摘する。サウナに関する規制は公衆浴場法や消防法、下水道法など数多くにわたり、所管も総務省や厚生労働省といった複数の省庁にまたがる。
こうした法律、役所の縦割りによる手続きの煩雑さが普及の足かせになっているという。武田氏は「不必要な規制を撤廃し、もっと自由に事業を展開できる仕組みを作っていく」と意気込む。
ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰でサウナ業界も打撃を受けているといい、支援策にも取り組む考えだ。
国会も裸の付き合いで
サウナ発祥の地フィンランドでは、「サウナ外交」という言葉がある。日本サウナ・スパ協会によると、同国の外務次官を務めたトルスティラ氏はかつて国際会議で同国では難しい交渉はサウナ内で行われるとして、「サウナの中では心のよろいが溶け、問題が解決しやすい。裸の時に何かに同意したなら、人はその約束を守り続ける。裸のつながりほど強いものはない」と話している。
「裸の付き合い」は日本でも深い人間関係を言い表す。武田氏も「スーツを着て国会で話し合うより、それぞれの党が抱える問題などについてもいろいろな情報交換ができる」とサウナの効用を説く。
国会では与野党が激論を交わし、歩み寄りが難しい対決法案では乱闘騒ぎになることもかつてあった。あえて超党派の議連にしたのは、野党議員と文字通り裸の付き合いをして共に汗を流すことで一致点を見いだそうとの思惑もありそうだ。
(2023年3月24日掲載)