「ファンクラブ会員9万人」「女性の憧れのファッション」「69億ウォンの資産家」…。韓流スターの話ではない。にわかには信じられないだろうが、韓国のファーストレディーである金建希(キム・ゴンヒ)氏のことだ。5月10日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任して以来、韓国の全メディアが金建希氏に注目していると言っても過言ではない。外部活動をめったに行わない金建希氏だが、メディアは連日、彼女について報道している。それも公務日程とは全く関係のない内容なのだ。「金建希ファッション分析」「韓流スターレベルの美貌」などの見出しで、彼女の華麗なビジュアルと、登場するたびに新しく変わる衣装など、ベールに包まれた私生活に注目している。(ソウル在住ジャーナリスト ノ・ミンハ)
〔写真特集〕世界のファーストレディー・ファーストジェントルマン
金建希氏に注目しているのは、メディアだけではない。一般国民も彼女をファーストレディーというよりはSNSの人気セレブであるかのように、外見や私生活など一挙手一投足にかなりの興味を持っている。韓国人の代表的なポータルサイト「ネイバー」のコミュニティーには、昨年12月「ゴンサラン(建愛)」という名のファンクラブが開設された。今年7月末まででなんと9万1000人以上の会員が集まり、日夜活発な活動を続けている。ファンたちは彼女の日常を捉えたスナップ写真を載せ、応援メッセージを書き込む。かつては彼女の顔写真入りマグカップやTシャツ、マスクなどの商品が販売されたこともある。
金建希氏に関しては、男性よりも女性のほうが興味を持っているようだ。尹大統領の当選直後、金建希氏のファンコミュニティーに掲載された写真が、ネット上のショッピングモールを騒がせた。金建希氏が写真の中で着ていた服と靴が話題になり、どこの商品なのかというコメントがSNSにあふれた。ネイバーのショッピングコーナーには「キム・ゴンヒの靴」というキーワードとともに複数の業者がリストアップされ、販売量が急激に増えて、あっという間に完売。尹大統領の就任式で着用したドレスや、6月にスペインでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため夫に同行した際の服装も話題になり、「キム・ゴンヒ・スタイル」「キム・ゴンヒ・スカート」「キム・ゴンヒ・ドレス」といったキーワードが、女性ファッションのショッピング・カテゴリーで浮上した。「私もファーストレディーになった気分」というコメントが散見される。
派手な外見と違い、暗い過去の行跡
韓国の歴代ファーストレディーの中で最も若くて美しく、韓国中の注目の的である金建希氏。残念ながら、これは夫である尹大統領にとっては、さほど愉快なことではない。大統領選で争った「共に民主党」の陣営から、金建希氏は常にスキャンダル攻撃のターゲットにされてきたからだ。彼女の過去の行跡に関してはさまざまな論議や疑惑が提起され、「トラブルメーカー」「疑惑のかたまり」と呼ばれるほどである。最も大きな問題になったのは、学歴や経歴などの捏造(ねつぞう)疑惑だ。
金建希氏は2013年、大学兼任教授に志願する際、「ソウル大学経営学修士卒業」と書いて履歴書を出した。しかし、本当はソウル大学経営専門大学院、つまり短期教育コースを修了したにすぎなかった。2001年と04年に応募した大学講師の採用においても、小・中・高校の教師だった経歴を履歴書に書いたが、実際は勤務経験がほとんどなく、勤務していたと書いた高校でも正規教員ではなく、非常勤の「時間講師」だった。
そのほか、勤めていない会社で3年間の勤務経験があると証明書に書いたり、会社の監査だったのに理事であると職責を偽って志願書を作成したりした。2001年には大学の講師に応募したが、履歴書に書かれていた受賞履歴もウソだった。学歴や経歴、受賞履歴の偽造疑惑については、現在確認されているだけでも10件以上ある。
実はこれらは氷山の一角にすぎない。過去にはキャバクラで「ジュリー(Julie)」という源氏名で働いていて、ここの客だった検事たちを人脈として利用し、さまざまな優遇を受けていたとうわさされたりもした。大統領選の期間中、「共に民主党」はこの「ジュリー疑惑」を攻撃したが、本人は強く否認。この疑惑はほぼウソであったということで落ち着いている。
金建希氏本人だけでなく、母親もターゲットになった。69億ウォン(約6億2300万円)以上もの財産を持っていることで知られる金建希氏だが、不動産投資詐欺事件で有罪判決を受けた母親から不正に金銭を受け取ったのではないか、という議論も依然として残っている。
米大統領も「beautiful」と称賛
金建希氏は大統領選の期間中だった昨年12月26日、記者会見を行った。彼女の経歴に関する疑惑が連日メディアで報道され、夫の支持率が下がってしまったためで、この時、金建希氏はおおむね疑惑を認めて謝罪した。そして、会見の最後に「もし夫が大統領になっても妻の役割だけに専念する」と述べた。
この宣言のあと、尹大統領の選挙期間中は全く外に現れなかった。「共に民主党」が攻撃のターゲットにしてきた金建希氏の姿が見えなくなったおかげで、尹大統領の支持率は安定し、接戦を制して当選が決まった。
すると、金建希氏はそれまで非公開設定にしていたSNSアカウントを活性化し、日常のスナップ写真を掲載し始めた。大統領就任式には芸能人にも劣らぬ華やかな姿で現れて注目され、5月22日にバイデン米大統領が来韓したときも尹大統領に同行し、バイデン大統領から「beautiful」と称賛されたりもした。
尹大統領の支持率は8月に入り20%台へ急落、低迷しているが、ファーストレディーの評判も同様だ。世論調査機関である「メディアトマト」が7月12~13日に行った調査によれば、金建希氏の活動に否定的な回答はなんと64.9%に達した。
ある政治評論家はラジオ放送で、NATOサミットに岸田文雄首相夫人の裕子氏が参加しなかったことを引き合いに、金建希氏に向かいこう言った。「首相である夫にメディアと各国首脳を集中させるため、彼女は同行しなかった。そんな日本のファーストレディーを見て気づくことはないか」。大統領の夫以上に大衆の注目を浴びたがる彼女を批判したのである。
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ノ・ミンハ ジャーナリスト。韓国ソウル出身。日本の大学を卒業後、韓国の新聞社に勤務し、国際部の記事を担当。現在は日韓の芸能、政治、時事分野のフリージャーナリストとして活動中。
(2022年8月12日掲載)
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