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政変はいつも参院選から始まる【解説委員室から】

2022年01月17日12時00分

 2022年の政治日程で最大のイベントは夏の参院選だ。岸田文雄首相(自民党総裁)にとって、勝利すれば安定政権への道が開ける重要な選挙となる。ただ、参院選には衆院選とは異なる難しさがあり、過去を振り返れば政権与党に致命的な打撃を与えたケースも多い。直近2回の政権交代は、いずれも参院選での与党敗北に端を発した。昨年10月の衆院選で勝利し、追い風に乗ったようにも見えた首相だが、足下では新型コロナウイルス感染が「第6波」の局面に入り、緊迫感が高まる。対処を誤れば、首相が参院選で窮地に陥る可能性もある。(時事通信解説委員 水島信)

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「7月10日投開票」の日程有力

 参院選の難しさとは何か。まず、衆院と違って参院には解散がないことが挙げられる。衆院では、時の首相が与党にとってベストのタイミングを選んで解散に打って出ることができるが、任期6年の議員が3年ごとに半数ずつ改選される参院選の時期は機械的に決まる。1月17日に通常国会が召集された今年の場合、会期延長がなければ閉会日は6月15日。公職選挙法は参院選を国会の閉会日から「24日以後30日以内に行う」と規定しており、この期間中の日曜日は7月10日に絞られる。何らかの理由で与党に逆風が吹いていたとしても、恣意(しい)的に時期をずらすことはできない。

 小選挙区制の衆院では、候補者がきめ細かい日常活動を通じて地域の有権者への浸透を図るが、全県が選挙区の参院選は「候補者の顔が見えない選挙」になりがちだ。政権選択が懸かる衆院選とは異なり、中間選挙的な性格の参院選では、有権者心理として与党への批判票を投じやすいという面もある。与党から見たとき、衆院選よりも制御しにくいのが参院選なのだ。

安倍氏も苦杯

 そして、2000年以降の大政変はいずれも参院選を起点として生じた。09年と12年の政権交代は、その前に行われた参院選での与党敗北がなければあり得なかっただろう。第1次安倍政権下の07年の参院選では、小沢一郎氏が率いた民主党が躍進。自民党は歴史的大敗を喫し、公明党と合わせた与党議席が参院で少数となる衆参「ねじれ」現象が発生した。首相だった安倍晋三氏は一時続投を表明したものの、健康問題もあって退陣。後継首相の福田康夫、麻生太郎両氏も国会運営に苦しみ、09年の衆院選で民主党に敗れ、自民党は下野する。

 民主党の菅直人政権の下で行われた10年の参院選では、消費税増税に関する菅氏の発言などで民主党が失速。野党・自民党に惨敗し、今度は民主党が参院で少数与党に陥る。国会での主導権を自民党に握られた民主党は機能不全となり、菅氏の後継の野田佳彦氏の下で行われた12年の衆院選で自公に政権を奪還された。

懸念材料はコロナ、経済

 定数の見直しにより、今年の参院選で総議席数は248に増える。改選される124議席に加え、神奈川選挙区で欠員1を補充する選挙も実施されることから、与野党は計125議席を争う。1月1日時点の参院勢力で見ると、与党の非改選議席が68あるため、自公で57議席を獲得すれば参院での過半数(125)は維持できる。昨年10月の衆院選で敗れた立憲民主党の代表が枝野幸男氏から泉健太氏に交代し、野党陣営の共闘構築への筋道がまだ不透明なことを考えても、今の岸田首相にとって、高いハードルのようには思えない。

 しかし、22年は自公が政権に返り咲いてから10年の節目に当たり、自公政権に対する国民の「飽き」が指摘される。沈静化傾向にあった新型コロナウイルスに関しては、変異株「オミクロン株」の影響で感染が急増。原油高に伴ってインフレ圧力が強まっていることも気掛かりだ。コロナや経済で政策のかじ取りを間違えたとき、国民の不満の矛先は与党に向く。仮に衆参「ねじれ」に至るような大敗を喫すれば、首相の退陣すらあり得る展開となる。

カギ握る通常国会

 参院選の重みは首相も十分承知だ。昨年12月に海外でオミクロン株が確認された段階で、全外国人の入国を原則禁止する厳格な水際対策を敷いたのは、コロナ対応が後手に回ったと批判され、支持率を低下させた菅義偉前首相の轍(てつ)を踏むまいと考えたからだろう。年明けに感染が急拡大した沖縄など3県に対しては、使用病床数の余裕を理由として政府内にあった慎重論を押さえ、7日に「まん延防止措置等重点措置」の適用を決定。11日にはワクチンの3回目接種の前倒し加速や、2月末までの水際対策の骨格維持などを発表、「先手の対応」を演出した。

 ただ、いったん風が吹き始めると、コントロールが効かなくなるのが参院選。長丁場の通常国会で地雷を踏めば、岸田政権を取り巻く空気が一変する可能性もある。国会議員に月額100万円支給され、使途の報告や領収書の提出義務がない文書通信交通滞在費の見直し問題や、衆院小選挙区の「1票の格差」是正のための「10増10減」案の具体化などをめぐり、自民党の取り組みが消極的とみなされるようなら、参院選に大きく響く。

 3回目接種のためのワクチン供給や、さらなる感染増加に備えた医療提供体制の整備などでも、不手際は許されない。自然災害の発生や国際情勢の激変を含め、不測の事態への対処も求められ、首相としては気が抜けない日々が続くことになる。

(2022年1月17日掲載)

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