鼎談「経済安全保障は『安全保障』なのか」

2024年07月05日11時00分

 2023年9月12、13両日、経済安全保障対策会議・展示会「ECONOSEC JAPAN(エコノセック・ジャパン)」が東京都中央区の時事通信ホールで開催された。2日目午前の鼎談(ていだん)のタイトルは「経済安全保障は『安全保障』なのか」。エコノセック実行委員会副委員長を務める地経学研究所長の鈴木一人氏がホストを務め、いずれも同研究所に所属する元航空自衛隊補給本部長・空将の尾上定正氏、経営共創基盤共同経営者の塩野誠氏がゲストとなり、経済安全保障について、国家安全保障や企業経営の観点から議論した。

「富国強兵」「技術覇権」「軍民両用」

 鼎談では、鈴木氏が「経済安全保障の問題というのは、分かりにくい。どういうものなのかつかみにくい」と指摘。「(国家)安全保障や企業経営の観点から見るとどうなのか」と、尾上、塩野両氏に問いを投げ掛ける形で口火を切った。

 まず尾上氏は「富国強兵」「技術覇権」「軍民両用(デュアルユース)」の三つのキーワードを掲げた。「富国強兵」については、中国の経済発展をベースとした軍事力強化などを踏まえ、「経済力で得た富を軍事力に転化する、軍事力の強化に使うというのは普遍的な国家安全保障の基本ではないか」と述べた。

 「技術覇権」に関しては、グローバル・サプライチェーン(世界的供給網)を通した経済的な相互依存関係の高まりを前提に、中国が相互依存の「武器化」を表明していることを紹介。「日本は政府も企業も相互依存の武器化を前提とする経済安全保障の戦略を考えていくことが求められている」と訴えた。

 「軍民両用」については、IT(情報技術)をはじめとした民間技術が軍事技術に応用できる軍民両用技術となっている現状から、「政府や軍だけではなく、民間企業や大学、研究機関も(軍事技術の)競争に巻き込まれることが避けられない」と、エコノセック参加者に覚悟を促した。

 そして日本の戦略として、尾上氏は「米中が決定的に重要だとみなす軍事技術の優位性を得るための技術、それは一体何なのかをしっかり見極め、それを育て、守り、活用していくことが必要だ」と強調。さらに「レアアース(希土類)など戦略物資の中国依存を減らしていく。欧米などと協力して、サプライチェーンを強靭(きょうじん)化する取り組みが必要だ」と語った。

やっていない企業は、全然やっていない

 塩野氏はまず「さまざまな企業が、経済安全保障、(国家)安全保障について、自社の経営上、どう考えていくか悩んでいる」と指摘した。また、「日々、経営の現場で営業秘密をどう守るか。産業スパイにどう対応していくか」と問い掛けた。いずれも、軍民両用技術の拡大を踏まえてのことだ。

 その上で、経済安全保障への対策を「しっかりやっている企業は、経営企画や経済安全保障室などが連携して、プランを立てて事業部門に浸透させている。逆にやってない企業は、全然やっていない」との現状認識を示した。

 両氏の発言を踏まえ、鈴木氏は「軍民融合、政治と経済が混在している状況が出てきて、それが新しい考え方、新しい経営の在り方につながっている」と強調。「だからこそ日本だけでなく世界で経済安全保障が論じられるようになってきた」と続けた。

威圧に対して無力化、抑止はできる

 続いてディスカッションに入り、鈴木氏は、中国を念頭に「経済的な威圧は回避できるか」と、相手の行動を抑止する可能性について尾上氏に問うた。尾上氏は抑止の手段として「経済制裁」と「経済安全保障」の二つを挙げ、特に経済安全保障について「被害を極力減らす手段を持つことが大事だ」と強調。戦略物資の自律性や技術の不可欠性を高めていくことで、「相手のさまざまな威圧を無力化する、抑止することはできると思う」と応じた。

 鈴木氏はまた「リスクに対してどう備えていけばいいのか」と塩野氏に質問した。塩野氏は「経営者が安全保障に対して考えていなかったと言うのは許されない」と断言。「平和な相互依存環境で構成されたサプライチェーンは非常に脆弱(ぜいじゃく)だった。いったんやり直しというのが現状だ」と、サプライチェーンの洗い直しなどが不可欠との考えを示した。

防衛産業のサプライチェーンの「見える化」を

 鈴木氏はさらに、サプライチェーンの強靭化に伴って発生するコストについて、塩野氏に問うた。それに対し塩野氏は「中国で販売する製品は中国国内でサプライチェーンを完結することによってリスクを軽減できないか」と指摘した。また、コスト上昇を踏まえ、事業ポートフォリオの見直し、取引先や消費者への転嫁を理解してもらうことの重要性を訴えた。

 これを受けて鈴木氏は「安定した供給を続けていくことが付加価値になる」と強調。「コスト第一とか、とにかく安ければいいんだというマインドではなく、多少高くてもサプライチェーンが安定しているとか、人権の問題がクリーンであることが価値になる」と語った。

 一方、尾上氏は「国として、防衛産業や重要インフラをしっかり守っていくことが必要。そのため、補助金を出すとか規制をかけていくという選択肢もある」と指摘。特に、「防衛産業のサプライチェーンの見える化」の重要性を訴えた。

台湾有事、インテリジェンスが経営に直結

 台湾有事への対応について鈴木氏に問われた尾上氏は「そういう事態を起こさせないことが重要」と、真っ先に政治的・軍事的な抑止を挙げた。その上で経済安全保障では「日本の中国依存のレベルをできるだけ下げることが必要。逆に中国が使う戦力やその技術で、日本がボトルネックを握るものを、できるだけ増やしておくことも重要だ」と述べた。「間接的な抑止効果」として、台湾海峡やバシー海峡などの封鎖を見据え、重要物資の備蓄や生産能力強化のほか、代替輸送手段や海上輸送網を確保する必要性も唱えた。

 塩野氏は「しっかりインテリジェンス、情報を取って分析することを怠らない。それが経営に直結すると考えていくことだ」と強調。台湾有事のシミュレーションでは、邦人退避が遅れる恐れが大きいとして「少し安全(な方向)に振っておく」と、情報を確保し、早めに行動することを勧めた。

 最後に鈴木氏は「これまでわれわれは世界が平和で、誰と取り引きをしても、どこに投資をしても安全であると仮定して行動をとってきたが、もうその仮定自体が成り立たなくなってきている。そういう時代ゆえに、経済安全保障という問題が大きくなり、大きく取り上げられている」と指摘。鼎談のタイトル「経済安全保障は『安全保障』なのか」にも触れ、「答えはイエス。安全保障の問題がわれわれの経営、経済や経営に直接影響してくる。エコノセックを通じて、経済安全保障の問題を深く考える機会になればと考えている」と締めくくった。

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