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“うそつき”は誰だ? 旧文通費改革先送り ⾃⺠vs維新、合意から「⼤げんか」の舞台裏【解説委員室から】

2024年07月09日12時00分

 永田町ではだました方より、だまされた方が悪いのか―。裏金事件を受けた先の国会での政治資金改革をめぐり、自民党と日本維新の会はいったん党首会談で合意した。しかし、国会終盤に約束はほごにされ、自民は調査研究広報滞在費(旧文通費)改革を先送り。維新は「だまされた」「うそつき内閣」と猛反発し、両党には不信感と深い亀裂が残った。協議の舞台裏を探った。(時事通信解説委員 村田純一)

 岸田文雄首相(自民党総裁)は5月31日、公明党の山口那津男代表、維新の馬場伸幸代表とそれぞれ党首会談を開き、政治資金規正法改正の自民案修正に合意した。首相の決断により公明、維新の修正要求に自民が応じた結果だ。これにより衆院採決で修正案は自民、公明、維新などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。だが、後に維新は党首会談での合意をほごにされたとし、参院では一転して反対に回った。なぜこのような展開になったのか。

 自民・維新両党の協議は当初、国対委員長間で始まった。自民党の浜田靖一国対委員長から維新が「のめる」具体案を求められ、維新の遠藤敬国対委員長は5月21日、①旧文通費の改革②政策活動費の見直し③企業・団体献金の禁止―など10項目の要求を出した。

 数日後、首相側近の木原誠二幹事長代理が遠藤氏に電話で「維新の要求は高過ぎてのめない。なかったことにしてくれ」と伝えた。維新は規正法改正の自民案に反対する意向を伝え、自民と維新の協議はここでいったん決裂した。

「首相の指示」で再交渉へ

 しかし、5月29日夜、岸田首相と自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長の会談の場で「維新との再交渉」方針が決まった。参院で過半数の議席がない自民党は、与党の公明党が反対する場合にも備え、維新も取り込もうと判断したようだ。

 当時、パーティー券購入者の公開基準額を「5万円超」に引き下げるよう求める公明党が態度を硬化させており、維新への再交渉は公明党をけん制する狙いもあったとみられる。

 その夜、木原氏は「総理の指示で電話しました」と遠藤氏に再交渉を求めてきた。

 遠藤氏は「一回要求を断られたのに、今さら言っても無理やで。そもそも旧文通費(改革)ができないなら、交渉のテーブルには乗れない」と突き返した。

 国会議員1人当たり月100万円を非課税で支給されている旧文通費は使途公開の義務もなく、維新が21年11月から問題視。使途公開や未使用分の返還という見直しは自民の消極的な姿勢でずっとたなざらしにされてきたが、改革を党是とする維新は「一丁目一番地」の最重要課題に位置付けてきた。

 その旧文通費改革について、木原氏は「総理もやると言っているから頼むよ」と懇願。「政策活動費の議論もさせてくれ」と求めたという。

「(旧)文通費をやるという前提で進めるんやな。分かった。藤田(文武幹事長)につなぐわ」と遠藤氏は応じた。それでも木原氏の発言に疑念を持った遠藤氏は自民党の森山裕総務会長に電話し、「ほんまに総理がそう言っているのか確認してください」と頼んだ。

 翌30日朝、森山氏は「本当です」と返事。「(旧)文通費前提で進めていいですね」と言う遠藤氏に、「総理もそう言っているので、できることであればやってください」と森山氏は要請した。

木原氏、「今国会中」の文言削除求める

 5月30日、衆院政治改革特別委員会で与野党の質疑が行われる一方、水面下では木原氏と維新の藤田氏が一対一で協議を進めた。電話やメールでもやりとりが続いたという。

 木原氏は「旧文通費、政策活動費、寄付控除(の見直し)。維新案をベースに全部のんで踏み込むから、やってくれ」と維新案の重要項目を事実上「丸のみ」する方針を示した。

 木原氏はそれ以前に「企業・団体献金禁止は絶対無理」と藤田氏に伝えていたが、旧文通費改革と政策活動費の10年後の使途公開といった一連の維新案に、今回初めて応じる考えを示してきた。

 ただ、旧文通費改革について、合意文書案から「今国会中に」という文言は外してほしい、政策活動費について「領収書」の言葉は入れない―という要求もあり、文言調整で攻防が続いた。

 藤田氏は「領収書を外すのは絶対無理。領収書という言葉を入れて公開することを明記しないというのは、認められない」と主張。木原氏は領収書明記には応じた。

 一方で、旧文通費改革の関連法改正時期について、木原氏は「国会の日程は国対(委員長)間で妥結してもらわないと、勝手に期限を入れるのは難しい」と文言の削除を求めた。

「ほんまに大丈夫ですか」と聞く藤田氏に、「大丈夫」と木原氏は何度も繰り返した。

 岸田首相の自民党総裁としての任期は今年9月まで。総裁選で再選されない限り、岸田首相としては最後の通常国会となる。もともと「旧文通費改革は今国会中の実現が大前提」と藤田氏は認識し、それ以外は頭の中になかった。首相は4月24日の参院予算委員会で、維新の片山大介氏の質問に対し、旧文通費改革について「この国会で結論を出せるように各党と議論を行っていく」とも答弁していた。

 結局、藤田氏は「分かりました」と文言の削除に応じ、「日程のところは外すけど、絶対にやってくださいね」と念を押した。

 ところが、木原氏は、国会の日程については国対権限とまたも強調した。ここは、ある意味、「逃げの姿勢」を示していた。つまり、もし国会日程の都合で旧文通費改革が実現できなかったとしても自分に責任はない、ということだ。木原氏があれだけ「大丈夫」と繰り返した言葉は何だったのか。藤田氏がここで「ちょっと待った」と合意文書案を破り捨てる手もあったが、この時点ではまだ木原氏への信頼感が勝っていたようだ。ここは後に「詰めの甘さ」を指摘される場面でもある。

 翌31日の「自民・維新」の党首会談が先に決まったことで、その前に行う「自民・公明」の党首会談も急きょセットされたという。

維新・藤田氏、「もう大げんかだ」

 その後も、政策活動費の「10年後の領収書公開」について、自民党が「50万円超」に限るとした自民案を踏襲したことに維新が反発。領収書の保存義務なども自民が難色を示す場面もあった。これらはいずれも木原氏と藤田氏の協議で決着を図り、6月3日夕に木原氏は「分かった」と応じた。

 さらに、自民の再修正案提出と質疑・採決の日程をめぐり、与野党間の迷走は続いたものの、規正法改正案は同6日に衆院を通過した。

 ところが6月11日、自民党の浜田国対委員長が旧文通費改革を巡り、国会会期中の関連法改正は「日程的に厳しい」と発言。これに対し維新は「話が違うだろ」と猛反発し、馬場代表 が記者団に「うそつき内閣だ」とまで強調した。

 維新の遠藤氏は「ここまでやってきたんだから、何とかやってくださいよ」と自民側に根回しに動き、藤田氏は首相周辺に対し、「首相から参院のコアメンバーに電話してください」と首相の指導力発揮を求めたが、首相が動いた形跡はなかった。

 自民側は森山総務会長、渡海紀三朗政調会長、山口俊一衆院議運委員長が調整に動いたが、参院側の国会日程は動かせなかった。

 藤田氏が17日の衆院決算行政監視委員会で「いちるの望み」を懸けて、岸田首相に会期内の旧文通費改革の実現を迫った。しかし、首相は「ゼロ回答」。藤田氏は「約束は履行されなかったと思わざるを得ない。もう大げんかだ」と全面対決する姿勢を鮮明にした。

「俺はうそついていない」と木原氏

 馬場氏は「わが党との交渉に当たった方は(その後)音信不通という状況だ。人の道を外れている」と木原氏を念頭に批判した。だが、木原氏はある維新関係者にはこう伝えてきた。

「自分のせいみたいになっているけど、俺はうそついてない。なぜなら、(国会の)日程は国対の権限だからできない、俺の権限じゃないとずっと伝えている」

 旧文通費改革の実現について「大丈夫」と言った発言を指摘されると、木原氏は「そりゃ言ったけど、最後、日程のところは外すことで(お互い)了承した」と悪びれずに語ったという。

 藤田氏は「木原さんは首相特使、自民党幹事長代理として維新と交渉に臨んだのだから、党に帰ったら組織としてまとめてほしかった。首相も党をまとめる力はないし、ガバナンスの欠如だ。(首相から維新に)『大変申し訳ない』と言われたら、僕らも『しゃあないかな。大変ですね、大組織は』という気持ちになるが、首相から『具体的な実現時期は合意文書に書いてない』とか言われると、『話が違うやろ』となる」と憤りを隠さない。

「永田町ではだまされた方が悪い」?

 6月中旬、国会の廊下で維新の馬場代表と木原氏が擦れ違った。目撃者によると、馬場氏は「おいコラ木原! もう二度とお前の話聞いたらんからな!」と怒鳴り上げた。木原氏は携帯電話を耳に当てながら、その場を離れていったという。

 国会閉幕後の6月28日、木原氏からようやく遠藤氏に電話があり、釈明の言葉があった。遠藤氏は「永田町では『だまされた方が悪い』とか言われているが、それで世の中は通用しないし、日本の政治家は信用できない、ということになりかねない。最初からだまそうとしたとは思わないが、結果的に(維新に)迷惑を掛けたと思わないか。そこは道徳的、人道的にどうなんか」とただした。

 木原氏はなお説明を続けたが、最後は「遠ちゃん、ごめん。いろいろ言い訳してもしょうがいないから。俺が悪い、申し訳ない」と謝ったという。

 しかし、「謝ったから、これで終わり」というわけにはいかない。引き続き非課税で使途を公開しないで済むお金(手当)が毎月100万円、国会議員に支給されるのだ。この既得権益をいつまでも維持したいという政治家は少なくない。だが、非課税の恩恵を受けるなら、使い道を公開するのは当然だ。それとも非公開のまま事実上の「裏金」として使用したいのか。自民党が改革に前向きな姿勢を示さない限り、次の国会以降も旧文通費改革は先送りされるだろう。

◆自民・維新交渉の流れ
 5月21日 維新が旧文通費改革など10項目を自民に要求
   23日 自民が拒否
   29日 自民の木原誠二幹事長代理が維新の遠藤敬国対委員長に協議再開を提案
   31日 岸田文雄首相と馬場伸幸代表が旧文通費改革などで合意
 6月3日 自民が衆院に修正案提出。政策活動費の公開対象を「50万円超」としたことに維新反発
    5日 自民が「50万円超」を削除した再修正案提出。維新は賛成
   11日 自民の浜田靖一国対委員長が旧文通費改革について「日程的に厳しい」と発言。馬場氏「うそつき内閣」と批判
   17日 首相が衆院決算行政監視委で改革時期明言せず
   19日 維新が参院本会議で反対。吉村洋文共同代表が「総括」要求
   26日 維新が地方議員ら向けの「説明会」開催

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