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「何でもできる」感動も、ヒヤリ連発 テスラ「自動運転」車に乗ってみた

2024年07月07日08時00分

 米電気自動車(EV)大手テスラは、「フルセルフドライビング(FSD)」と称する運転支援機能サービスを北米で提供している。和訳で「完全自動運転」を意味するこの機能は、発進や停止、右左折などすべての操作を車が肩代わりするのが売りだが、安全性を巡る懸念も強い。実際どれほど使えて、危ないのか。記者が乗車し、確かめてみた。(時事通信社ニューヨーク総局 武司智美) 

【目次】
◇ 「おばあさんのよう」な出だし
◇ 飛ばす車に譲る芸当も
◇ 後ろからクラクション
◇ 勝手にFSDオフ
◇ 最もヒヤリとしたのは…
◇ どこでも利用可能
◇ ウェイモとの優劣は?
◇ 完全な自動運転はいつ?

「おばあさんのよう」な出だし

 協力してくれたのは、2022年にテスラのセダン「モデル3」を購入した会社員のアレックスさん(38)。24年6月のある平日、米ニューヨークのマンハッタンから電車で40分ほど離れたニュージャージー州のベッドタウンで待ち合わせし、愛車に乗せてもらった。

 アレックスさんは、ダッシュボード中央に置かれたiPad大の画面をタップし、FSDサービスを始めた。FSDは一括購入すると8000ドル(約128万円)かかるが、サブスクリプション(定額制)サービスも提供されている。定額サービスは当初月額199ドルだったのが、4月に値下げされ、半値の月額99ドル(約1万6000円)になった。

 行き先を設定し、いよいよ出発。と思ったら、駐車場の出口で止まったまま数秒間動かなくなった。出口の手前左側で、伐採した木の枝をまとめている作業員を検知して停止し、判断を迷っているようだ。作業員が木の枝を路肩に置いて視界が開けると、そろりそろりと進みだし、やっと路上に出た。「まるでおばあさんのように運転する」。事前のリサーチで聞いていた、そんな表現がぴったりな、やや慎重過ぎるとも言える動きだ。

飛ばす車に譲る芸当も

 スタートは少々ぎこちなかったが、FSDは道路の形状に合わせて直進するのはもちろん、信号や標識に従って停止や発進を行った。他の車の流れを見ながら適切なタイミングで右左折し、車線変更もスムーズだ。交差点の見通しが悪かったり、車の流れがなかなか途切れなかったりする場合は、人間の運転と同様、少しずつ前にせり出して様子を見ながら進んだ。

 高速道路では、基本的に一定の速度で一定の車間距離を開けて走行。後ろから飛ばしてくる車が来た際に、わざわざ車線を変えて譲るという、まるで人間のような芸当も見せた。当たり前かもしれないが、道順や分岐点、出入り口を間違えることはなかった。

 駐車時の「オートパーク」(和訳で「自動駐車」)機能も便利だった。画面で駐車したい場所をタップするだけで、指定した区画に自動で駐車する。非常にゆっくりと動き、自転車や人が近づくと止まる。運転がうまい人からすると遅くていらいらするかもしれないが、一発で正確な場所に入れてくれた。

 これらの動きを、FSDが自動で行う。ドライバー(運転手)が操作していないのにハンドルはぐるぐると回り、ブレーキペタルは沈み込んでいく。不思議な感覚だ。

後ろからクラクション

 「ここまで何でもできるのか」と、技術の進み具合に筆者が感動を覚えたFSDだが、「初心者」ドライバーのような運転は、出発直後に数秒間固まったとき以外でも目に付いた。

 まず、対向車の通行が多い交差点で左折をするとき。米国は右側通行のため、日本の右折時と同じように対向車線への注意が必要になる状況だ。慣れているドライバーなら進行するような車間距離が対向車線で生じても進まず、後ろの車から「早く行け」とばかりにクラクションを鳴らされた。ただ、進むと決めた後は勢いよく進行し、初心者離れした「強気」さも見せた。

 ぎこちない動きは、片側1車線の道に左折待ちの車が停まっている場面でもあった。前の車は右側の路肩との間に生じたスペースを通り抜けて進行。私たちの車も追随するかと思いきや、途中で停止し、左折車が去るまで動かなかった。狭くて路肩に接触すると判断したようだ。

 状況判断の遅さは、青信号の交差点に進入する直前に停止したときも感じた。通過した先に車列はあったものの、ゆっくりと進んでおり、慣れたドライバーならもっと早く進入していた。

 高速道路の本線からランプに外れる際には、ハンドルの切り方が急だと感じた。忠実に車線に沿って進行したためだ。車線内を走るのは運転の基本ではあるが、人間なら急ハンドルにならないよう臨機応変に車線をまたいだりゼブラゾーンに入ったりするだろう。

勝手にFSDオフ

 最も頻繁に起き、動揺させられた問題はFSDの自動解除だ。1回目は出発から2分ごろに発生。車内に「ポポン」と通知音が鳴った。「これがFSDの悪いところだ」。アレックスさんはぼやきながら、やや焦った様子でハンドルを握り直す。何が起きたのか。「ドライバーがきちんと状況を監視していない」と判断し、勝手にFSDをオフにしてしまったのだという。

 ほとんどの操作をドライバーに代わってシステムが担ってくれるFSDだが、現段階ではあくまで運転を支援する機能にとどまる。FSDの和訳は「完全自動運転」なのでややこしいが、自動運転の国際的なレベル「1(運転支援)」~「5(完全自動運転)」のうち、FSDは「2(高度な運転支援)」に該当。運転主体はシステムでなく人が負う決まりで、運転席に座る人(ドライバー)は、常に交通状況を監視しなければいけない。

 このため、ドライバーの目線を車内のカメラがチェックしたり、ハンドルに手を置いているか否かをセンサーが感知したりしており、「監視を怠っている」と判断されるとFSDはオフになる仕組みだ。サボっていないかを確かめるかのように、数分ごとにハンドルを少し左右に振るよう要求される。この対応に遅れたり、振る力が弱かったり強すぎたりしても解除されてしまう。

最もヒヤリとしたのは…

 アレックスさんは慣れた手つきで再びFSDをオンにしたが、「勝手にオフ」は計1時間のドライブ中、5回発生。最もヒヤリとした瞬間も、この機能が原因となった。高速道路を走行中、右側を走っていた車がこちらに近寄ってきたタイミングで勝手にFSDが解除されたのだ。アレックスさんがすぐにハンドルを取ったため大事に至らなかったが、対応が遅れていれば衝突していたかもしれない。

 米国の運転免許を持つ筆者が運転席に座った際も「勝手にオフ」を経験した。ハンドル振りを要求され、すぐ応じたのだが、力が足りなかったようだ。この現象については、利用者の不満がSNS上に相次いで投稿された。テスラ最高経営責任者(CEO)のマスク氏は、最新バージョンのFSDでこの問題を「修正した」と説明。最新バージョンの利用者が投稿した動画を見ると、ドライバーに動作を求める頻度は減っている様子がうかがえた。

 FSD解除とは関係ないが、ヒヤリとした局面は他にもあった。高速道路を走行中、路肩に止められた大型トラックのタイヤ横に人がしゃがんでいたが、検知できなかったようだ。前を走る車は少し膨らんでよけたのだが、私たちの車はまっすぐに走り抜けた。

どこでも利用可能

 ライバルの動きはどうか。ホンダやドイツ大手メルセデス・ベンツの一部車種は、高速道路などで渋滞している際にレベル3の機能を使えるようにしている。レベル3より上になると、交通状況を監視する主体がドライバーからシステムに移るため、起動時には読書や映画鑑賞が可能となる。

 米グーグル親会社アルファベット傘下のウェイモや、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズは、米国の一部都市でレベル4の無人タクシーを始めた。クルーズは人身事故や車との衝突事故が相次ぎサービスを停止中だが、中国でも現地企業が無人タクシーを展開している。

 ただし、これらのサービスは、3次元の高精度マップに道路工事や事故車両などの交通情報を加えたものに加え、車に取り付けられたカメラや高性能センサーから得られるデータを活用。人工知能(AI)が予測や判断を行って自動運転を実現している。このため、マップが整備された範囲にサービスは限定されている。対して、テスラのFSDは3次元高精度マップを使わず、カメラからの映像を基にAIが運転操作を決定するため、基本的にどこでも利用できるのが強みだ。

ウェイモとの優劣は?

 「テスラとウェイモ、どちらがすごいの?」と読者は疑問に思うだろうが、単純な比較は難しい。ウェイモはレベル4だが、3次元高精度マップのない地域では使えず、現時点でカリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルス、アリゾナ州フェニックスに限られている。テスラのFSDは米国とカナダのどこでも利用可能だが、ドライバーは交通状況を監視し続けなければならず、読書や携帯操作はもってのほかだ。

 ちなみに、FSDはレベル2であるにもかかわらず、「完全自動運転」を意味する名前が付けられていることへの批判も強い。米の運輸省や司法省は、テスラがFSDの能力を誇大に宣伝した疑いで調査している。システム起動中の事故などに関連した訴訟も多い。

 今後、ウェイモなどレベル4の勢力はサービス範囲をどれほど拡大していけるかどうか、テスラはドライバーの監視がなくても使えると規制当局に認められるかどうかが勝負となる。

 完全な自動運転はいつ?

 マスク氏は、たびたび構想を語ってきた自動運転の「ロボタクシー」事業について、近く「お披露目」する。当初は24年8月に発表する予定だったが、10月に延期されると報じられた。ロボタクシーの運行には当然、完全自動運転が欠かせず、その達成見通しについて具体的な説明があるかが注目される。

 専門家や投資家は完全自動運転の実現までにはなお数多くの困難があり、何年もかかるとみている。ただ、マスク氏は強気だ。24年6月の年次株主総会でこう豪語した。「監視を必要としない完全自動運転に飛躍的なペースで向かっている」

(「発表を延期」の報道を踏まえ、末尾から2段落目を加筆修正しました=7月12日)

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