「ギュイーン」急加速で一気に空へ! 減圧装置で事前訓練◆空自「T4練習機」に乗ってきた(前編)【自衛隊探訪記】

2024年07月01日11時00分

 日本の空を守る航空自衛隊の戦闘機パイロットが研修課程で初めて乗るジェット機が「T4中等練習機」だ。空自の花形「ブルーインパルス」の乗機としても有名で、優れた運動性能に定評がある同機に体験搭乗した。2人乗りの後席に乗って体感した大空の世界や、搭乗に備えた過酷な訓練とは。(時事通信社会部 釜本寛之) ※記事末尾に動画へのリンクがあります

「ギュイーン!」大空へ急上昇

 訪れたのは空自の航空教育集団司令部がある浜松基地(静岡県)。プロペラ機による初級課程を終えたパイロット候補生が約10カ月間、T4を使ってさらに高度な操縦技術を学ぶ。飛行中は同乗した教官や機内のカメラで常にチェックされる。ミスや不手際が重なれば「容赦なく退校を告げられ、二度と戦闘機パイロットにはなれない」という厳しい世界だ。

 フライトスーツに着替え、救命胴衣や耐Gスーツを身に着ける。耐Gスーツは旋回や急上昇などの激しい動きで血液が下半身に集中し、脳が酸欠になって失神するのを防ぐ装備だ。酸素マスク付きのヘルメットをかぶり、後部の操縦席でベルトを締める。見た目は「紅の豚」な記者だが、気持ちは「トップガン」だ。

 操縦かんを握るのは第31教育飛行隊飛行隊長の岡田真貴2等空佐(44)。F15戦闘機に乗って那覇で領空侵犯対応などに当たったベテランだ。通信などに使う愛称「TACネーム」は「ヘンリー」。人気アニメ「きかんしゃトーマス」のキャラクターが由来という。軽妙な口調で私に説明してくれるのと並行して、管制とのやりとりや各種チェックをすごいスピードでこなしていく。滑走路へと機体が向かい、キャノピーが閉められた。

 エンジン音がうなりを上げ、体がシートに押し付けられる。「F15などと違い、アフターバーナーもないので大したことはない」と聞いていたが、旅客機とは全く違う加速だ。機体が浮くや、グングン上昇していく。上昇ペースは1分間に5000フィート(約1530メートル)という急角度。「ギュイーン」という擬音を人生で初めて体感した。3分足らずで高度1万3千フィート(約4000メートル)へ達し、眼下に浜名湖が見えた。

雲に挟まれ、まるで「雪の壁」

 離陸後、機体はまず北東方向の富士山へ向かった。最高速度マッハ約0.9で飛行可能なT4。燃費などを考え、巡航飛行はマッハ0.5(時速約600キロ)程度というが、それでも浜松基地から富士山までの100キロ余りが10分足らず。地上や雲との距離があるため、それほど実感はないが、考えれば新幹線の倍という猛スピードだ。

 基地上空は青空だったが、道中は雲が多く、離陸前に「日本アルプスから富士山まで、最高の景色ですよ」と岡田2佐が話していた「絶景」は残念ながら拝めなかった。切れ間から一瞬だけ富士山頂を見下ろすことができ、高度を実感した。

 とはいえ、抜けるような青空をバックに一面に広がる白い雲海の上を飛ぶのも何とも言えない爽快感だ。T4は有視界飛行が原則で、パイロットは雲の発達などを見極めながらルートを決める。「あの雲が大きくなってきそうなので少し左に行きます」。岡田2佐の予測通り、モクモクと立ち上がった雲の間を縫うように飛ぶ。両サイドを雲に挟まれた光景はまるで立山黒部アルペンルートの「雪の壁」のようだ。当然安全な距離は保っているのだろうが、旅客機の窓からは決して見ることのない迫力ある景色で興奮した。

オナラにゲップ、体内ガスが止まらない

 急激なG(重力加速度)や気圧の変化を伴う戦闘機の飛行。搭乗前には健康診断や事前訓練を受ける必要があり、記者も何とかパスした。少し脱線して、訓練の様子を紹介する。

 空自入間基地(埼玉県)で受けたのは「減圧装置(チャンバー)」を使った「低圧訓練」。戦闘機と同じヘルメットと酸素マスクを着け、最大14人が入れる大きなカプセルの中で、高度の上昇に伴う気圧の減少を再現。急な気圧の変化や酸素濃度の減少など上空の環境が人体に与える影響を体験し、緊急時の対処法を学ぶ。

 午前中みっちり座学を受けた後、チャンバー訓練に移った。空自隊員やメーカーの担当者も一緒だ。気圧が下がり始め、徐々に高度3万6000フィート(約1万1000メートル)まで「上昇」する。空気がひんやりし、耳鳴りもしてくる。唾をのんだり教えてもらった「バルサバル法」というやり方で耳抜きを繰り返す。普段と違うマスクでの呼吸で過呼吸になったり、どうしても耳が抜けなかったりして、この段階でリタイアする隊員もいるそうだ。

 記者は耳抜きは成功したものの、体にある異変が生じた。「ゲップ」が止まらないのだ。ほどなく教官からも「オナラとゲップをしっかりしてください」と指示が出た。減圧で体内のガスが膨張するためで、我慢すると失神することもあるという。「大丈夫。ヘルメットで音は聞こえないし、酸素マスクで絶対臭いもしないから」と言われ、思い切って「放出」した。

低酸素訓練で精神に異変が

 猛烈な勢いで噴き出す酸素を吸入する「与圧呼吸」を経験し、次に高度2万5000フィート(約7600メートル)で、マスクを外し、低酸素症を体感する訓練を行う。内容は5分間簡単な計算をするだけなのだが、酸素不足で思考力の低下などさまざまな症状が出るという。

 記者も順調に計算をこなしていたものの、1カ所ミスをした途端に焦燥感に駆られ、周囲でリタイアする人が相次ぐと、半ばパニックのようになった。ほどなく指に着けたパルスオキシメーターの数値が規定値を下回り、途中終了に。時間にして2分8秒。始める前は「温度や色の感じ方も変化する」というのを確かめようと思っていたのだが、そうした余裕を失ったのも低酸素の影響だったのだと思う。ちなみに異常を体感することが目的なので、作業を完遂できなくても不合格にはならない。

 最後にやったのが「急減圧訓練」。キャノピーに穴があくなど、コックピット内の与圧が失われて気圧が急変するトラブルを想定したものだ。8000フィート相当から1秒で2万2000フィート分気圧を減少させる。

 突然爆発したような音が鳴り、瞬時に視界がホワイトアウトする。空気中の水蒸気が溶け切れなくなって霧のようになる現象だ。同時に肺の空気も膨張し、一気に口から放出される。危ないのでうつむいたり唾をのんで我慢したりしてはいけないといわれていたが、とても止めることなどできない。マスクがずれて外れるほどの勢いで、口から何かの塊を吐き出したような感覚に目が白黒した。

 その後、酸素をゆっくり吸入して回復を待ち、訓練は終了。座っているだけで自覚はないが、体には全力疾走と同程度の負荷がかかったという。「きょうの晩酌はコスパ良く、すぐに酔えますよ」と教官。疲弊していたのか確かに回りが良かった。前編はここまでとし、後編では訓練の成果を発揮して、満喫したアクロバット飛行体験の様子を詳報する。

【動画】「ギュイーン」急加速で一気に空へ! 航空自衛隊「T4練習機」搭乗記

〈後編⇒「3G→4G→5G! 空ではカメラが『鉄アレイ』、360度視界回転のアクロバット飛行◆空自『T4練習機』に乗ってきた」を読む〉

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