愛兎との別れ、癒やした「アバター」 ◆ペットロスに効果?専門家解説【時事ドットコム取材班】

2024年05月26日11時00分

 2024年4月、「お月さまから配信している」と話す1匹のウサギの動画がSNS上で拡散しました。投稿したのは、2年前にこのウサギを亡くしたかつての飼い主。一時は「ペットロス」の状態に陥り、食事も取れないほど憔悴したそうですが、愛兎そっくりな「アバター」(画面上で動く分身)を制作したことで、悲しみが癒やされたといいます。(時事ドットコム編集部 太田宇律)

「かいぬしがぼくのアバターを…」

 「みなさんこんにちは、むーたです」。X(旧ツイッター)上に投稿された2分ほどの動画は、ウサギの「むーた」が視聴者にこう語り掛ける場面で始まる。画面の中のむーたはまばたきをしたり、耳や鼻を揺らしたりと本物そっくりに動き、時には悲しそうに見える表情をすることも。「ぼくは2022年1月にお月さまに旅立ってしまったんですけど、かいぬしがぼくのアバターをつくってくれたんです」と語り、生前のむーたの姿を「Live2D」という技術で再現した動画であることが明かされる。

 Live2Dはバーチャルユーチューバー(VTuber)のように、アニメ風のイラストを動かすのに使われることが多い技術だ。なぜ、こうしたリアルなアバターを作ろうと考えたのか。動画を投稿した「うにゃ」さんこと、山梨県富士吉田市で活動しているゲームグラフィックデザイナーの渡辺芳勲さん(仮名)に話を聞くことができた。

「ペットロス」で体重7キロ減

 むーたが渡辺さんの家族になったのは、2012年春のことだ。ネザーランドドワーフという品種のむーたは「子ウサギのころから物怖じしない性格」で、バナナやイチゴといったフルーツが大好き。寝転んだ渡辺さんの体に乗って甘えたり、帰宅した渡辺さんの足音を聞き分けて喜ぶ仕草を見せたりすることもあり、渡辺さんも同居の母親も「とてもかわいがってきた」という。

 2021年の暮れ、むーたはてんかんの症状が悪化し、ケージの中でつらそうに震えるようになった。渡辺さんは「ウサギとしては既に長寿で、悲しいお別れではなかった。飼い主として見送る覚悟もできていた」と振り返るが、約1カ月後にむーたが旅立つと、体重が7キロ落ちるほど深い悲しみに襲われた。

 こうした「ペットロス」のつらさは、羊毛フェルトなどを使ってよく似た人形を作ると緩和することがあるそうだ。そう知った渡辺さんは、すぐに羊毛フェルトのキットを購入してみたが、むーたそっくりには作ることができず、断念。そのとき思い出したのが、ゲームグラフィックの制作で普段から触れていたLive2D技術だった。

「むーちゃん戻ってきた」涙した母

 Live2Dは、イラストなどの画像を加工することで、ゲームキャラクターのように自由に動かせるようにする表現技術の一つだ。渡辺さんは「元気だったころのむーたの写真を、この技術を使って自由に動かせるのではないか」と着想。寝る間も惜しんで制作に励み、2週間ほどで試作品を作り上げた。

 アバターをタブレット端末に表示させてみると、本物のむーたとほとんど同じ大きさに。生前と同じように鼻をぴくぴくと動かす様子を見た渡辺さんの母親は、「むーちゃんが戻ってきた」「お帰りね、お帰りね」と言って、涙を流して喜んだという。

 渡辺さん自身も、本物のむーたに似せようと苦心しているうちに、だんだんと喪失感が和らぎ、食事も取れるようになっていった。「本物ではない『ごっこ遊び』だと分かっていても、母も私もこのアバターに救われた。喜ぶ母の姿を見て、ああ、良いものを作ったなと思えた」と感慨深そうに振り返る。

恥ずかしくない生き方を

 渡辺さんはこのアバターを使って、「むーたが月から配信している」という設定で動画を制作。むーたの声は、ボイスチェンジャーを使って渡辺さん自身が吹き込んだものだ。これまでにSNSに投稿した動画の中には、2万件を超える「いいね」が集まったものもあり、「泣いてしまった」「うちの子もこれ(アバターの姿)で帰ってきてほしい」といった感想が寄せられた。

 誕生日や命日には、好きだったフルーツをアバターの口元へ差し出して、おいしそうに口を動かすむーたの様子を見ることもできる。「こうしていると、むーたは今も自分を見守ってくれていると感じられる」と話す渡辺さん。「いつか自分も月へ行ったとき、むーたに恥ずかしくないような生き方をしたい。そう前向きに感じられるようになった」と、穏やかな表情で語った。

喪失感なぜ和らいだ?専門家解説

 アバター制作を通じて、渡辺さんの喪失感が和らいだのはなぜなのだろうか。獣医師で「ペットロス専門士」「グリーフ専門士」としても活動している先崎直子・日本グリーフ専門士協会理事に話を聞いた。

 ―まず、ペットロスとグリーフケアについて教えてください。

 私たちの協会では、喪失による悲嘆反応のことを「グリーフ」、ペットを失うことによるグリーフを「ペットロス」と定義しています。大切な存在を失うと、喪失感や罪悪感、孤独感といった感情面の影響だけでなく、食事や睡眠が取れない、人に会いたくないなど、体調や人間関係、仕事などの社会活動にも影響が出ることがあります。それらの生きづらさを支える取り組みが「グリーフケア」です。

 ―ペットロスのつらさは、どうすればケアできますか。

 ペットとの思い出を語ることや、なんらかの形にすることで、気持ちの整理がつくことがあります。例えば撮りためた写真をアルバムにしたり、手紙を書いたり、羊毛フェルトを用いてペットを模したものを作るなど、実際に手を動かすことで癒やされる方もいるでしょう。人の死と同様にお別れ会をしたり、月命日などの節目に供養をしたりすることも、気持ちの整理を進める方法の一つです。

 ―ウサギのむーたくんのケースは、どのように受け止めていますか。

 亡くなった子に会いたい気持ちは何年も続くものです。むーたくんのことを思いながらアバターを作ったことや、むーたくんが動く姿をいつでも見られるようになったことで、喪失感が和らいだのだと思います。動画投稿を通じた交流で、悲しい気持ちを他の人と共有できたことも、癒しにつながったのではないでしょうか。

 ペットは言葉を話せないので、飼い主さんは自分をどう思っていたのか知ることができません。それが罪悪感につながってしまうこともあるのですが、アバターであってもむーたくんの肯定的な言葉は飼い主さんが自分を責める気持ちを和らげる働きがあると感じます。

 ―ペットロスに悩んでいる方や、周囲の人たちにアドバイスをお願いします。

 まずは自分自身の心と体を労わりながら、無理をせず過ごしてほしいです。悲しみを抱えきれなくなったときには、周囲の信頼できる人に話を聞いてもらうことで、つらさが和らぐこともあります。ペットロスのサポートに取り組む団体も増えてきました。大きな悲しみを抱えた時は、もっと誰かを頼っていいと思います。

 つらい気持ちを打ち明けられた人は、相手の思いを変えようとせず、ゆっくり耳を傾けることを心がけてほしいです。飼い主さんにとって、ペットと過ごした時間は宝物のように感じるもの。いつか温かく思い出せる日が来ることを祈っています。

時事コム取材班 バックナンバー

話題のニュース

オリジナル記事

(旬の話題を掘り下げました)
ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ