消える「おつかい」もう不要?◆ジレンマ抱える親、専門家が明かす効果とは【時事ドットコム取材班】#令和の親#令和の子

2024年05月06日18時00分

 子どもの「おつかい」が日常風景から姿を消しつつある。厚生労働省の調査を見てみると、お手伝いの中に占めるおつかいの割合はここ10年で減少。初めてのおつかいに挑戦する子どもの奮闘を追ったテレビ番組は、お茶の間の共感を呼び、記者もハラハラドキドキしながら様子を見守った記憶があるが、ふと気付くと身近で子どもがおつかいをしている光景は見掛けなくなった。理由を探るため、子育て世帯に話を聞いてみた。(時事ドットコム編集部 川村碧

 【時事ドットコム取材班】

頼むのに「勇気」必要

 3月上旬の週末、親子連れでにぎわう東京ドーム近辺や公園を訪れた。40代主婦の9歳の娘は、おつかいに行ったことがないという。「交通量の多さや治安の悪化が心配で、なかなか踏み切れない」と話す。行かせたいかと聞いてみると、「やった方が良いと思う。例えば、しょうゆを買ってくるにしても、メーカーや種類がいろいろあり、どれを選ぶか自分で考えるのも大切な体験になる」とうなずいた。

 「まだ幼いので行かせたことはない」。そう話すのは1歳と3歳の娘を育てる40代の会社員女性。おつかい自体には肯定的で、「キャッシュレス化が進んで子どもが実際のお金に触れる機会が少なくなっている。お金がどう使われているのか知るきっかけになると思うので、小学生になったら挑戦させたい」と語った。

 この女性の70代母親にも話を聞くと、女性が4歳の時に初めておつかいを頼んだという。「下の子が生まれて余裕がなく、野菜を買ってきてもらった。昔に比べ、1人で歩いている子どもを見守る大人の目が減っているから、親もおつかいを頼むのに勇気がいるのではないか」と話した。

変わるお手伝い

 おつかいが日常生活から消えつつあることはデータにも表れている。2001年生まれと10年生まれを追跡調査している厚労省の21世紀出生児縦断調査(22年)で、子どもの手伝いの状況を調べたところ、10年生まれの小学6年(12歳)は、01年生まれが小6だった時と比べて、男女ともに「おつかいをする」が最も低下していたことが分かった。

 調査は、「普段、家でお手伝いをしているか」の問いに対し、「部屋やお風呂などの掃除をする」「ゴミを出す」など9項目から子ども自身が複数回答する形式。「おつかいをする」は男児が31.0%から18.8%に、女児は27.4%から17.2%に、それぞれ10ポイント以上減少した。代わりに、最も上昇したのは、「洗濯物を干したり、たたむ」だった。

 厚労省の担当者は「おつかい控え」が進んだ背景について、「保護者の防犯意識の高まりや、買い物手段の変化が背景にあるのではないか。調査を実施した22年はコロナ禍だったため、外出規制も影響していると考えられる」と話した。

「おつかい控え」なぜ?

 確かに、保護者の防犯意識の高まりは、子育て世帯への取材を通じても伝わってきた。おつかいを頼んだ経験がある親でも、「怪しい人を見分けられる小5になるまでおつかいはさせなかった」「車で連れ去られたらどうしようという不安があり、積極的には行かせにくい」など、低年齢のうちは避けていたり、日常的なおつかいはためらったりする心情がうかがえた。

 警察庁の22年の刑法犯に関する統計資料によると、12歳以下の略取誘拐・人身売買の認知件数は、13年の人口10万人当たり0.7件から22年には同1.0件に微増。23年の同庁のアンケート調査では、ここ10年で日本の治安は「悪くなったと思う」と答えた人が71.9%を占め、国民の「体感治安」の悪化も影響していそうだ。

 取材では、「日常生活で、そもそもおつかいを頼む機会が減った」「子どもに留守番を頼み、自分で買いに行った方が早い」といった意見も目立った。「まとめ買いをしていておつかいを頼む場面がない。買い忘れがあってもネットで注文すれば翌日には届く」と語ったのは、4歳の息子を育てる30代の会社員女性。仕事と子育てで多忙なため、買い物はネットスーパーを利用しているという。

 この女性のように、夫婦共働きをしている世帯は1980年の614万世帯から2022年は1262万世帯へと倍増。買い物にかける労力を減らした結果、家事の手伝いとして子どもにおつかいを頼む必要性も失われつつある。

初チャレンジに満面の笑み

 ただ、おつかいを通じて「社会に出るための練習をしてほしい」と期待する保護者は多いようで、子どもが一人で安全におつかいができる体験を提供する企業もある。映像制作事業などを手掛ける「WAGAKOTO」(東京都品川区)が運営する「はじめてちゃれんじ」は、スタッフがおつかいの様子を見守り、動画撮影をする有料サービス。申し込み人数は23年春以降伸びており、24年に入ってからは月100人を超えている。

 3月下旬、東京都足立区の歩行者天国の商店街で行われた「はじめてちゃれんじ」の様子を取材した。30代の両親が4歳の息子に頼んだのは、約150メートル離れた店でドーナツを3個買ってくること。手を振って出発した男の子は、緊張した表情を浮かべ、人混みを歩いて行った。通行人を装ったスタッフ3人が、気付かれないようにつかず離れずの距離で動画を撮影しながら、危ない場面がないか見守った。男の子は途中で小走りになりつつも、無事店に到着し「ドーナツください」と店員に注文。店頭でお金を落としてしまう一幕もあったが、見守りスタッフが声を掛け、財布に入れるのを手伝った。ドーナツの入った袋を受け取って戻り、10分ほどで体験は終わった。

 両親に袋を渡し「よくできたね!」と褒められると、男の子は満面の笑みで「楽しかった。次は野菜を買いに行ってみたい」。父親は「親が見ていないところで子どもは成長すると思うので、一度体験させてみたかった。普段は甘えん坊なので心配していたが、一人で行動し自信が付いたと思う」と語った。今回撮影した動画は編集後、家族の元に届けられるという。

体験する意味は?

 取材を通して見えてきたのは、手伝いとしてのおつかいのニーズが薄れる中、社会経験として体験させたい気持ちはありながらも、子どもの一人歩きには不安を感じているという親のジレンマだ。「おつかい体験は子どもの成長にどんな影響を与えるのだろう」。そう思い、長年子育て支援に携わる恵泉女学園大学長の大日向雅美氏に話を聞きに行った。

 大日向氏によると、子どもが得られるメリットは2つ。家族以外の人と触れ合い、褒められることで他者から見守られているという安心感を得ること、親の頼みをこなし役に立てたという「自己有用感」を感じられること―だ。

 しかし、ここ数十年で買い物環境は激変しており、住民と店員が顔の見える関係を築けたかつての商店街は消え、大型スーパーやコンビニが主流となった。大日向氏は「おつかいを通してこうしたメリットを得るのは難しい社会になった。ただ、それに代わるものがないわけではなく、例えばファミリーレストランでの注文を子どもにやってもらうといったことでも、体験の代替はできるのではないか」と提案する。

 必要性は減っても、おつかいを体験させる意義はあるのか。そう問い掛けると、「物の値段を知ったり、手持ちのお金の範囲で欲しい物を選んだりする勉強の場だと捉えれば、そうした機会をつくる意味は大きい。キャッシュレス決済は、現金がなくても買えるので買い過ぎてしまうリスクがある。商品の対価としてこれくらいの現金が必要なんだという感覚は育んであげたい」と大日向氏。「親といつも一緒に行っている慣れたお店や、定期的に開催するイベントマーケットなどで楽しみながら体験させてみるといいかもしれませんね」と語った。

 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。

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