BTS事務所で泥沼の内紛 NewJeans「母」の解任、土壇場で回避 若者が圧倒的支持なぜ?【地球コラム】

2024年05月28日

  世界的な人気を誇る男性音楽グループ「BTS」が所属する韓国の大手芸能事務所「HYBE(ハイブ)」が、背任の疑いで傘下の子会社「ADOR(アドア)」のミン・ヒジン代表を刑事告発した。HYBEからの独立を企てた疑いがあるとしている。ミン氏は、人気の女性5人組グループ「NewJeans(ニュージーンズ)」を育てた「母」と言われる有名プロデューサーで、HYBEと繰り広げた泥沼の内紛は、韓国で大きな関心を集めている。(時事通信社ソウル支局 本望由香里)

「呪術師から助言」暴露

 HYBEによるミン氏への監査実施が明らかになったのは2024年4月22日。これを受け、ミン氏が同25日に記者会見を行うことを予告すると、HYBEも報道資料を出して対抗した。「これ以上経営を任せられないほど深刻な問題が発見されたが、ミン代表が解任要求に一切応じず、ADORの経営に深刻な支障を来している」。HYBEはそう主張した。

 HYBEは、ミン氏が知人の女性呪術師から、経営権の獲得や社員の採用を巡って助言を得ていたことを暴露。この女性呪術師は2021年に「3年以内に会社を持ってこい」「3年以内にすべてのことを成し遂げるだろう」とミン氏に助言していたとされる。メンバー全員が兵役に就いたBTSを巡っても、ミン氏が呪術師に「BTSがいない方が私には良いことだから(兵役に)送ってくれ」と依頼していたことが明らかにされた。

「仕事ができる罪」

 一方、ミン氏は25日、予告通りに記者会見を開き、「経営権を奪おうとしたことはない」「HYBEが私を裏切った」とHYBEの主張に真っ向から反発した。2時間以上に及んだ会見の中でミン氏は、NewJeansをどれほど大切に育ててきたかという思いとともに、自身がいかに不当な処遇を受けてきたかを語り、HYBE経営陣に向けた不満を爆発。「私に何の罪があるのか。私には仕事ができるという罪しかない」と言い放ち、憤りと強い自負を露わにした。

 ミン氏が明かした不満の一つは、HYBE傘下にある別のガールズグループ「LE SSERAFIM(ルセラフィム)」のデビューだ。「(HYBE初の)ガールズグループを一緒につくろう」と誘われてHYBEに入ったというミン氏は、NewJeansを育成して22年にデビューさせたが、それより前にLE SSERAFIMの活動が始まった。ミン氏は「私に何の話もなかった。了解もなかった」と主張。初のガールズグループをつくるとの「約束をほごにされた」と反発した。

 矛先はHYBE傘下の別レーベルの女性グループにも向いた。ミン氏は24年3月にデビューした「ILLIT(アイリット)」について、「この子たちに罪はない」と断りを入れつつも、NewJeansのコンセプトをまねしたと主張。その上で、「個性をなぜ生かさないのか。これではみんなNewJeansになってしまう」と語り、これは「大人の問題だ」と訴えた。

着用の帽子が品切れ

 騒動の本質的な部分である「独立」について、ミン氏が正面から答えたかどうかについてはさておき、韓国の若者らはこの会見の後、圧倒的にミン氏支持へ傾いた。ミン氏は会見で、放送禁止となるののしり言葉をためらわず使用。隣席した弁護士が顔を覆う場面さえあったが、韓国の若者らは「権力に立ち向かう姿」と受け止め、社会生活を送る中での自らの不満をミン氏に投影させた。報道によると、会見でミン氏が着用していた緑色のしま模様の服や、米大リーグ・ドジャースの帽子が品切れになった。

 ミン氏の会見が社会現象をも巻き起こす一方、内紛の影響はさまざまなところに波及している。ミン氏への内部監査の実施が初めて報じられた4月22日にはHYBEの株価が8%近く急落。ミン氏の会見翌日の同26日には5%下落した。

 また、BTSのファン「ARMY(アーミー)」らは5月3日付の大手紙「中央日報」と経済紙「毎日経済新聞」に「声明文」と題した全面広告を掲載した。HYBEとADORの内紛により、BTSがうその情報や誹謗(ひぼう)中傷で被害を受けているにもかかわらず、HYBEがアーティストを保護せずに傍観していると主張。「われわれはHYBEではなく防弾少年団(BTS)を支持する」と訴えた。

解任回避もミン氏は孤立か

 所属アーティストやファンを置き去りにして繰り広げられた内紛は、法廷闘争にも発展した。HYBE側はADORの臨時株主総会を5月31日に開き、ミン氏の代表職解任を諮ろうとした。ADORの株は80%がHYBEに保有されており、総会が開かれればミン氏は解任される公算が大きいため、ミン氏はHYBEによる議決権行使の禁止を求める仮処分を裁判所に申請した。

 韓国メディアによると、ミン氏が手塩にかけて育てたNewJeansのメンバーも5月17日、裁判所に嘆願書を提出した。詳しい内容は伝えられていないものの、ミン氏を擁護する内容だったとみられる。裁判所ではこの日、ミン氏による申請の審問が行われていた。

 裁判所は総会前日の30日、ミン氏の申請を認め、HYBEの議決権行使に「待った」をかけた。裁判所は、「ミン氏が独立を模索していたことは明らかである」としつつ、独立したとしても「HYBEに対する裏切りになることはあるが、ADORに対する背任行為とすることは困難」と判断した。ただ、決定の効力はミン氏に限ったもので他の経営陣に判断の影響は及ばず、31日に開かれた株主総会でHYBEはミン氏以外の理事をさしかえた。

 ミン氏は同日記者会見し、「妥結点がうまく見つかるといい」と語り、HYBEとの和解を望む考えを表明。裁判所がミン氏の申請を認める判断を下したことについては、「荷が下りたような気持ちだ」と話した。ミン氏は4月の記者会見とは対照的に、晴れやかな笑顔を浮かべながら会見に臨んだ。ただ、同席した弁護士によると、ミン氏が今後解任される可能性は依然残る。ぎくしゃくした関係は今後も続く見通しだ。

 日本の紅白歌合戦にも出場したNewJeansと、そのファンのやきもきも続くことになる。騒動が他のアーティストやファンらに与えた影響も計り知れず、Kポップのあり方や事務所側の対応が改めて問われることになる。

(最新の動きを盛り込んで一部を加筆・修正し、5月31日にさしかえました)

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