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トランプ氏が強いのはなぜか? Z世代の“バイデン離れ”鮮明に 三牧聖子・同志社大学大学院准教授

 大統領選が8カ月後に迫った現在、民主党と共和党の候補は、現職大統領のバイデン氏と前大統領のトランプ氏にほぼ絞られてきた。各種の世論調査では、バイデン氏に対し、トランプ氏がややリードしている。1月末のNBCの世論調査によれば、トランプ氏は不法移民対策や経済政策、犯罪対策など、有権者の関心が高い問題についてバイデン氏より信任されている。とりわけ同調査でバイデン氏に圧倒的な差(35ポイント)をつけたのは、メキシコとの国境付近の不法移民対策だった。

 バイデン政権が発足した2021年以降、国境付近の不法越境者は増加を続け、再選を目指すバイデン氏の大きな課題となっている。2020年大統領選時には、「私の政権下ではもう1フィートの壁も造らせない」と明言したバイデン氏だったが、厳しい世論を背景に、昨年10月、トランプ政権時代に進められたメキシコ国境沿いの壁建設を再開すると表明した。

トランプ氏が支持される理由

 トランプ氏よりもバイデン氏が信任されているのは、「民主主義の擁護」などの価値をめぐる項目だ。バイデン氏は、2021年1月6日、大統領選に不正があったと信じるトランプ支持者たちが起こした議会議事堂襲撃事件に何度も言及し、自分こそが「民主主義の擁護者」だと訴えてきた。しかし今、民主党支持者の中から、「バイデンこそが民主主義を踏みにじっている」との怒りの声があがっている。中東パレスチナ自治区ガザで今も続くイスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘について、バイデン氏があまりにイスラエル寄りの政策をとり、民意を踏みにじっているという批判だ。

 昨年10月7日、ガザを拠点とするハマスの越境攻撃を受けたイスラエルは、「ハマス壊滅」を掲げて、ガザ全土で大々的な軍事行動を展開してきた。2月末、パレスチナ人の犠牲者は3万人に達し、ガザに居住する人口の4分の1にあたる57万人超がほぼ飢餓状態という、極度の人道危機となっている。ガザでの犠牲が増えるにつれ、イスラエルの軍事行動を口でけん制するだけで、巨額の軍事支援を続けるバイデン氏のイスラエル政策への不支持は増え続けている。即時停戦を求める世論も過半数となっているが、バイデン政権は国連で停戦決議を拒否権で何度も葬り去ってきた。「トランプから民主主義を守る」と自負してきたバイデン氏だが、ガザ危機について民意を反映した外交を展開しているとは言い難い。

 ガザ対策を誤れば、バイデン氏の再選戦略は大きく狂うことになるかもしれない。2月27日にミシガン州で行われた民主党の予備選は、そう予感させるものだった。現職大統領としてバイデン氏は圧勝したが、13.3%にあたる10万人超が「支持者なし(uncommitted)」に投票した。2020年の予備選では「支持者なし」票は約2万票だったことを考えても、明らかに多い。

アラブ系中心にZ世代がいら立ち

 この背景には、予備選に先立ち、アラブ系アメリカ人を中心に、バイデン氏のイスラエル政策に抗議の意思を示すために「支持者なし」に投票しようというキャンペーンが展開されてきたことがある。10月7日以降、ガザのパレスチナ人の犠牲が甚大なものになってもイスラエル支持の姿勢を変えないバイデン氏への批判から、アラブ系のバイデン支持は急落してきた。とりわけ21万人超のアラブ系が集住するミシガン州では、アラブ系が投票行動において結束すれば、大きな影響を与えうる。

 2020年大統領選でバイデン氏が同州でトランプ氏を破った時、その差は15万4000票にすぎなかった。2016年大統領選でトランプ氏がクリントン氏を破った際、その差はわずか1万1000票弱だった。今回の「支持者なし」投票運動は、バイデン氏を落選させようとする運動ではなく、あくまでバイデン氏に対してイスラエル政策の修正を迫る運動だが、キャンペーンを中心的に担った一人、ディアボーンのハムード市長は、もしこの結果を見てもバイデン氏が停戦へのイニシアチブを発揮せず、イスラエルへの軍事支援を続けるようであれば、11月の大統領戦の本戦でも「支持者なし」運動を行う意向を示している。

 この運動の強力な推進力となったのは、アラブ系のZ世代(1990年代半ば~2010年代序盤ごろ生まれ)の若者たちだった。パレスチナ人の命が軽んじられる現状に抗議し、停戦を求める傾向はアラブ系だけではなく、若者に広く見られる。18歳から29歳の有権者の7割超がバイデン氏のガザ政策に不支持を表明してきた。現在、オランダのハーグにある国際司法裁判所では、イスラエルがガザで展開してきた軍事行動が「ジェノサイド」にあたるかどうかの審理が行われているが、アメリカ市民の3割、若者だと5割近くがイスラエルの軍事行動は「ジェノサイド」だと判断している。

 Z世代は、国内外の人権問題に非常に敏感で、アメリカが戦争や人権侵害に加担しないことを強く求める世代だ。彼らの中にはバイデン氏を「ジェノサイドへの加担者」と批判する向きも確実に生まれてきている。2020年大統領選で、バイデン氏は若者層に圧倒的に支持され、この年代の支持率でトランプ氏に20ポイント超の大差をつけたが、10月7日後のいくつかの世論調査で、トランプ氏がこの世代の支持率でバイデン氏を逆転した。2024年大統領選では、バイデン氏はアラブ系の支持も若者層の支持も自明視できない状況に置かれている。

「民主主義を守る」ための「支持者なし」

 今回のミシガン州予備選で「支持者なし」に投票したアラブ系市民や若者たちが、大統領選の本戦でトランプ氏に投票する可能性は低い。しかし、相当数が選挙当日に家にとどまり、投票に行かないだけでも、とりわけミシガン州のような接戦州ではバイデン氏には大きな打撃となる。ミシガン州で展開された「支持者なし」投票キャンペーンには、同州選出のパレスチナ系議員ラシダ・タリーブ氏も加わったが、彼女は、「支持者なし」キャンペーンは、ガザ即時停戦を求める民意をバイデン氏に届け、「アメリカの民主主義を守る」ためのものだと主張している。

「トランプからアメリカの民主主義を守る」と掲げてきたバイデン氏だが、ガザ危機対応をめぐって、身内の民主党やその支持者から寄せられる「民の声を聴け」という声にどう応えるか。これは単なる道義的な問いではなく、大統領戦の帰結も左右する問いになっていくかもしれない。2024年の大統領選では、4000万を超えるZ世代が投票年齢に達し、その半数近くが有色人だ。「多様性」を標榜してきた民主党だが、ますます多様化する次世代が求める新しい政治外交への期待に応えられるのか。岐路に立たされている。

◇  ◇  ◇

三牧 聖子(みまき・せいこ)1981年、東京都出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了後、早稲田大学助手、米ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所アカデミックアソシエイト、関西外国語大学助教、高崎経済大学准教授などを経て2022年4月から現職。専門は国際関係論、米国外交史。主な著書に『戦争違法化運動の時代ー「危機の20年」のアメリカ国際関係思想』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)など。
(2024年3月7日掲載)
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