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【中国ウオッチ】前外相の愛人問題、拡大か◇元香港出先機関トップも失脚

2024年06月25日13時00分

 中国外相を在任わずか7カ月で解任された秦剛氏の愛人問題が再び注目されている。この女性の記者としての活動を支援していたといわれる中国政府香港出先機関の元トップも失脚。さらに、地位がより高い有力者が関与していた可能性も浮上している。(時事通信解説委員 西村哲也)

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左遷先も解任

 秦氏は2022年12月、駐米大使から外相に抜てきされた。異例の3期目に入った習近平政権の目玉人事だったが、昨年7月に更迭された。香港の中国政府系放送局フェニックス・テレビの報道番組キャスターだったA記者(中国本土出身)との愛人関係が一因になったとのうわさもあった。A記者は昨年4月、米国で生んだ赤ん坊を連れて帰国してから消息不明。当局に拘束されたとみられる。

 その後、A記者について確たる情報はなかったが、2012~17年に中国政府在香港連絡弁公室(中連弁)の主任(閣僚級)を務めた張暁明氏が今年3月から6月にかけて、国政諮問機関である人民政治協商会議(政協)の副秘書長(事務局次長)を解任された上、政協常務委員も辞めさせられた。インターネットなどで「A記者と緊密な関係だったため失脚した」との説が流れた。

 女性記者の出世を後押し

 張氏は、かつて国務院(内閣)香港マカオ事務弁公室主任として香港政策を主導した廖暉氏の元秘書。廖暉氏は、毛沢東時代に対日外交や香港政策で大きな役割を果たした廖承志氏(東京の日中友好会館に銅像がある)の息子である。その秘書だった張氏は中国政府有数の香港通で、中連弁勤務の後、同事務弁公室主任に就任した。

 英国の植民地だった香港は江沢民国家主席時代の1997年、中国に返還されたため、共産党・政府の香港担当部門は江派の牙城となり、廖暉氏や張氏はその主要メンバーだった。張氏は居丈高な言動が多く、香港では評判が悪かったが、それは習政権の方針を反映したものだったので、中国側で問題になることはなかった。

 しかし、香港で2019年、犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正に対する民主派デモが盛り上がり、香港政府は条例改正案の撤回に追い込まれた。このような一国二制度に関わる重要な立法は中国側の承認を得ていたはずなので、習政権にとっても大失態となった。

 その後、香港マカオ事務弁公室の組織改革に伴って、張氏は同弁公室副主任とされ、22年には政協の副秘書長へ事実上左遷された。もともと、習政権では「外様」だった上、香港政策で大きなミスをしたのだから、当然の人事だろう。

 ただ、儀礼的な仕事しかない政協からも追い出されたのは意外な展開だった。このため、香港絡みということもあって、A記者との関係が取り沙汰されたようだが、香港のテレビ業界関係者は「張氏がA記者の後ろ盾だったのは事実」と語る。

 記者として経験が浅かったA記者が要人インタビューなど重要な仕事を任されたのは、張氏が中連弁主任として、フェニックス・テレビに重用を求めたからだったという。A記者は安倍晋三首相や秦剛駐米大使(いずれも当時)、キッシンジャー元米国務長官ら各国要人とインタビューして、同テレビの看板記者となった。香港の中国政府系メディアにとって、中連弁の指示は絶対的命令なのだ。

 閣僚級以上の大物関与?

 A記者に関する謎はまだ残る。フェニックス・テレビ在籍中の16~17年、何か大きな業績を上げたわけでもないのに、母校の英ケンブリッジ大学の構内に「×××ガーデン(花園)」と自分の名前を冠したエリアを設けたり、イタリア政府から勲章を授与されたりしたことだ。いずれも、金を積めば手に入るというものではなく、中国政府(外務省)の強い後押しがあったと思われる。

 秦氏は当時、外務省儀典局長という中堅幹部にすぎず、民間人に対する異例の支援を在外公館に命じる、もしくは関係国の在中国大使館に働き掛けることができる立場にはなかった。張氏は閣僚級だったが、香港担当であり、外務省とは関係がなかった。

 そのようなことができたのは、外交部門では外相やその上司に当たる外交担当の国務委員(上級閣僚)しかいない。外交部門以外から影響力を行使したとすれば、政権の最高幹部である党政治局常務委員クラスの超大物であろうが、今のところ、ネット上のうわさでも、それらしき人物の名前は全く出ていない。

 当時外相だった王毅氏は秦外相の解任後、再び外相となっているので、少なくとも王氏はA記者の問題に関与していなかったと言ってよいだろう。

 前出の香港のテレビ業界関係者は「A記者と近かった高官は(秦、張の両氏だけではなく)たくさんいる」と述べた。実際のところ、A記者が高官たちとどのような関係にあったのかは分からない。中国の権力闘争では、汚職疑惑に女性問題を絡めて「腐敗分子」をたたく手法が多用されており、A記者もその種のストーリーづくりに利用されている可能性は否定できない。

(2024年6月25日)

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