山形鉄道はJR奥羽線や山形新幹線の駅でもある赤湯駅(あかゆ、山形県南陽市)と荒砥駅(あらと、同白鷹町)の30.5キロを結ぶ第三セクター鉄道です。JR長井線を引き継ぐ形で1988年に開業しました。「フラワー長井線」という路線名は、山形鉄道開業時に一般公募で、沿線2市2町が花の名所として知られていることにちなんで命名されたとか。
日本最古の現役鉄橋など歴史感じさせる路線
長井線自体の歴史は古く、開業は1913年で、全線開通したのが23年とちょうど100年前になります。そのため、沿線には歴史を物語るものがいくつも残っています。その一つが最上川橋梁(きょうりょう)。その名の通り最上川に架かる橋です。
この鉄橋、日本最古の現役鉄道橋なのです。1887年に東海道線の木曽川橋梁として架けられたものが、1914年に新しい木曽川橋梁が完成したのをきっかけに最上川に移設されました。英国製のこの橋梁は、土木学会の土木遺産、経済産業省の近代化産業遺産として認定されています。
列車に乗っているだけだと、何の変哲もない鉄橋のように思えるかもしれませんが、いろんな時代を見てきたのです。荘厳な雰囲気を持つこの鉄橋の鉄はいまだに堅固で山形鉄道の将来をしっかりと支えていってくれるはずです。
また、西大塚駅(川西町)も文化庁の登録有形文化財に指定されています。軽く100年以上経過した木造駅舎はいまだに現役。無人駅になってかなりの時が経過しましたが、そこには駅務を行っていた鉄道員の息吹が残っているようです。
元気と優しい気持ちをくれたうさぎ駅長
赤湯駅から二つ目の宮内駅(南陽市)は、「もっちぃ」という名のうさぎ駅長がいたことで知られています。2010年に有人化されることに伴い、新入社員のアイディアから生まれたものだそう。お餅のように真っ白な姿から「もっちぃ」と名付けられました。
フラワー長井線はうさぎと縁が深く、宮内駅から歩いて10分の熊野神社本殿裏にはうさぎの隠し彫りが三つあり、それを全部見つけると願いがかなうという三兎伝説があります。白兎駅(しろうさぎ、長井市)という名の駅もあります。
動物を飼育することも、うさぎ駅長を実現させることも容易ではありません。ある種の奇跡といっても過言ではないでしょう。当初はうさぎ駅員の「ぴーたー」と「てん」、カメの非常勤助役「かめきち」もお客様をお迎えしていましたが、長く「もっちぃ」が孤軍奮闘していました。
5月には就任13周年を記念した「もっちぃ駅長13thバースデートレイン」も走りました。「もっちぃ」にはたくさんのファンがいて、たくさん愛情が注がれていました。「もっちぃ」は人間の持つ優しい気持ちを気づかせてくれた駅長だったなと思います。動物駅長が全国で活動していますが、そのもたらす効果は経済的なものだけにとどまらず、私たち人間にとって、ものすごく大きいものだと思います。
残念ながら「もっちぃ」は6月20日、13歳で天寿を全うしました。わたしたちを笑顔にしてくれた「もっちぃ」に心から感謝したいと思います。
「スウィングガールズ」きっかけだった“方言ガイド”
先日、フラワー長井線に乗りにいってきました。途中駅から乗車したのですが、お客さんは結構乗っていました。ほとんどが観光客の方で、おそらくバスツアーの団体のお客さまでしょう。
着席して列車が出発すると、山形弁が聞こえてきました。車掌さんの声ですね。この車掌さんは、放送で使うような大きいマイクではなく携帯型を使っていました。こちらが山形鉄道名物「方言ガイド」で、山形県の観光ポスターにも載った有名人でもあります。
車窓に流れる景色を実況で解説してくださいます。時には博識な解説、時にはちょっぴり自虐的なエピソードと、お客さんの反応を見ながら、絶妙なガイドを繰り広げていました。かなりなまっていますが、それでも聞き取れないことはない絶妙なあんばいで語られていました。
基本的に団体のお客さま向けのサービスだと思いますが、われわれ一般客にも分け隔てなく解説してくれているのがありがたい。最後にグッズ販売のPRをしていましたが、お客さまもなかなか財布のひもが固いようです。それにもめげずにPRされるという涙ぐましい努力、というか、そこまでがセットで楽しんでいただこうという姿勢、何度見ても感動します。
この「方言ガイド」は、2004年公開の映画「スウィングガールズ」のヒットに伴って、ロケ地ツアーが行われた際にツアー客に向けて案内を行ったのが始まりだそう。こだわりについてお聞きしてみました。
「沿線には海や渓谷といった景観はありませんが、日本の原風景とも言える散居集落、飯豊連峰や西吾妻連峰、葉山といった山々、日本最古の現役鉄橋・最上川橋梁や、国の登録有形文化財の駅舎といった“山形鉄道ならでは”の景観をお楽しみいただき、移動のためだけではなく、乗ることを目的にしてもらえるようなガイドを心がけています」とのこと。ジーンときますね。しっかりとその気持ち、伝わっていますぞ!
今後も地域とタイアップした「ワイン列車」や「地酒列車」など、イベント列車を展開していく予定ということなので、目が離せないですね。
けん玉のふるさとで名人から指南
ところで、けん玉をやった思い出はありますか? 私の父がけん玉がうまくて、よく遊んでいた記憶があります。実は長井駅のある長井市は、競技用けん玉生産量が日本一で、けん玉を「市技」と定めています。今回、長井駅前にある体験施設「けん玉ひろばSPIKE(スパイク)」を訪れてみました。
なんとここには常に名人が常駐されているのです。行った日は日曜日だったので、たくさんの子どもたちも遊びにきていて、けん玉の技を磨いていました。
けん玉の技にもいろいろあって、「ろうそく」とか「もしかめ」とかの名前を聞いたことがある方も多いでしょう。私がマスターしているのは、けん先に玉を刺す「とめけん」まで。その次の難易度に相当する「飛行機」という技は、玉の方を手に持って、けん先を刺すというものですが、これがなかなかできない…。何度も失敗する姿を見かねたのか、名人がコツを教えてくださいました。「手ではなく脚と腰を使ってやるのだ」とのアドバイスを受け、30回のうち1回ぐらいはできるようになりました。
スパイクには「5連けん玉」「10連けん玉」といった皿部分と玉がそれぞれ5個、10個ある変わりけん玉もありました。4代目管理人で2018年けん玉ワールドカップ世界王者のニック・ギャラガーさんもスーパープレーを披露してくださいました。この場所には子どもたちの笑顔と、市の誇り、けん玉を後世へつなげていく希望が満ちあふれていました。
赤湯駅近くの売店で出会ったドライフルーツ
赤湯駅構内にはJR系コンビニ「ニューデイズ」があり、山形の人気駅弁「牛肉どまん中」も数種類置いてありました。もちろん「牛肉どまん中」も大好きなのですが、私が今回注目したのはニューデイズから少し離れたところにあるお土産物屋さんで売っていたリンゴのドライフルーツなのです。
薄くスライスされた山形県産リンゴを乾燥して作られたドライフルーツ。これまで食べたリンゴのドライフルーツの概念を大きく超越していました。どういうふうに表現していいか分かりませんが、とにかく味にツヤがあるのです。油で揚げられているわけでもなく最初はさっぱりしているのですが、口に含むとだんだんリンゴが蘇生されていくイメージ。しっかり蜜の味もして、それがツヤになっているんだと思います。
他にも洋梨や桃、柿のドライフルーツがあるのですが、ちょっと珍しいのがブドウ。デラウエアのドライフルーツです。レーズンとはまた違う味わいで、他では得られないものです。これらのドライフルーツは、地元企業である桜井物産の「果味ごごち」という名のシリーズ。山形県産の果物を厳選し、常温で乾燥させたもので、手間と時間がかかっていますね。お取り寄せもできますので、ぜひお試しされてはいかがでしょうか。
バラエティー豊かな鉄印、100周年の限定版も
山形鉄道の鉄印は長井駅で手に入ります。通常版は、長井線が走る自治体にちなむ花、すなわち南陽市のサクラ、長井市のアヤメ、川西町のダリヤ、白鷹町のベニバナをレールが結ぶというデザイン。まさに「フラワー長井線」ですね。2023年は全線開通100周年で、一般公募で決定した100周年のロゴマークを使用した鉄印も今年限定で販売中です。
フラワー長井線で鮎貝駅(あゆかい、白鷹町)まで乗って、「水仙まつり」にも行ってきました。車両もカラフルになっていて、サクラ、アヤメ、ダリヤ、ベニバナそれぞれのラッピング車両と、シンボル車両の「花結びより」がゆっくりコトコト走っていました。100年を祝うように咲き誇るスイセンと列車の姿が印象的でした。これまで春夏秋冬、フラワー長井線を訪れてきましたが、今度は夏の暑い時期がいいですね。照り付ける太陽の下、歴史のある鉄橋を渡りながら、名産品サクランボを食べる旅をしてみたいなと思います。
(2023年6月24日掲載)
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