あいの風とやま鉄道(富山市)は、富山県内の石動(いするぎ、小矢部市)―越中宮崎(朝日町)間を走る路線で、西はIRいしかわ鉄道(金沢市)、東はえちごトキめき鉄道(新潟県上越市)と直通運転をしています。北陸新幹線の開業前まではJR西日本北陸線として数多くの特急列車が往来していましたが、現在は急ぎのお客さんは新幹線に任せ、普通列車がゆっくりと走っています。距離は100.1キロと長いですが、駅数は21と少なめで、かつての国鉄路線がそうであったように駅間が長いのが特徴。富山県内の支線や私鉄線との接続駅も多く、県民の足になっています。
豊富な車種が楽しめる
あいの風とやま鉄道の主力は「521系」電車です。北陸地方ではJR線、IRいしかわ鉄道線などでも活躍していて、2両編成が基本。「521系」の3ドア車両は、関西地方の新快速で用いられている電車をイメージしていただければ分かりやすいかと思います。座席は「転換クロスシート」と呼ばれる向きの変えられるシートで、とっても座り心地が良く快適です。ワンマン運転にも対応し、運賃箱や整理券の機械も付いています。外装にも特徴があり、山側と海側とでカラーが異なります。海側はグリーンの帯で、山側は水色の帯と同社のコーポレートカラー塗装となっていてユニークです。
また、国鉄車両として活躍した「413系」もまだまだ現役です。昭和に作られた電車は、3両編成でものすごく味があります。座席は昔ながらのボックスシートとロングシートとの組み合わせ、いわゆるセミクロスシート。現在は「とやまの魅力を乗せて走るあいの風」をコンセプトにしたイベント列車「とやま絵巻」号としても走っています。鋼鉄のボディーはあいの風とやま鉄道の開業前から何十年とこの地を走ってきたすごみを感じ、ファンもたくさんいます。多くは朝の通勤・通学時間帯に運行され、日中に出会うチャンスが少ないのもファンのハートをつかむのです。
西側ではお隣のIRいしかわ鉄道から水色の「521系」電車も乗り入れています。また、東側からはえちごトキめき鉄道の「ET122形」ディーゼルカーが越中宮崎、泊(朝日町)と乗り入れていて、一見、泊駅までがえちごトキめき鉄道(?)という運行形態になっています。泊駅で同じホームに「521系」とえちごトキめき鉄道の「ET122形」とが前後に並ぶのも実に面白く、乗り換えもしやすくなっています。
ダイニング列車も充実
「高低差4000メートル」をテーマにしたダイニング列車「一万三千尺物語」も土日曜と祝日の一部を中心に運行されています。さて、少し変わったネーミングですが、「一万三千尺」とは?
富山県は北アルプスの山々と富山湾という豊かな海を持っており、その高低差を尺に直すと「一万三千尺」―これが列車名の由来になっています。この列車は、国鉄型の「413系」電車を改造、内装には富山県産の「ひみ里山杉」をふんだんに取り入れています。また座席のシートなどは濃紺のカラーのものが採用されています。まさに山と海との雰囲気が詰まった雰囲気になっています。
運行ルートは、お昼ごろに富山―泊間を折り返す「1号・富山湾鮨コース」と、夕方の高岡―黒部間で2回折り返す「2号・越中懐石コース」の二つ。
「富山湾鮨コース」は4月にリニューアルしていて、富山県鮨商生活衛生同業組合による季節感にあふれたおすしとお料理が提供されます。2号車の厨房(ちゅうぼう)にはすし職人が乗車、握りたてのおすしを堪能させてくれます。6月から運行する「越中懐石コース」は、富山県産の農産物をふんだんに使った五万石(富山市)の懐石料理が提供されるそうです。
そんなたくさんの車両が走るあいの風とやま鉄道の沿線にはたくさんの名所があります。越中宮崎駅近くにあるヒスイの原石が打ち上げられる「ヒスイ海岸」、泊駅では春に桜並木、チューリップ、菜の花が一時に楽しめる「あさひ舟川『春の四重奏』」、滑川駅(滑川市)の「ほたるいかミュージアム」、富山駅のレッサーパンダやライチョウらに会える「富山市ファミリーパーク」、生地駅(いくじ、黒部市)の非常に珍しい回転可動式の「生地中橋」など、枚挙にいとまがありません。
そんな中、私は高岡大仏に参詣すべく高岡駅(高岡市)に行ってきました。同駅はJR氷見線と城端線の列車も発着する大きな駅です。改札を出ると14個のおりんが展示されていました。指示通り番号順に鳴らすと同駅の発車メロディーになるそうです。
さて高岡大仏、駅から10分ほど歩いた住宅地の中にありました。“日本一のイケメン”と呼ばれるだけにこちらの阿弥陀如来座像は確かに美しく荘厳でした。大仏の台座に入ることができるので入ってみました。昔はこういうところの見学は省いてしまっていましたが、しっかり見学すると面白いですね。
高岡には「ドラえもんトラム」の名で知らている路面電車・万葉線があります。藤子・F・不二雄先生は高岡のご出身で、街のいろんなところにドラえもんがいます。高岡駅には高岡銅器製のドラえもんポストもあって、子どもの頃、何度も読んだ漫画のルーツがこの高岡にあるんだなと思うとなんだか感慨深いです。
鉄道マニアの“聖地”も
さて、富山には行かれたらぜひ訪れていただきたい喫茶店があります。富山駅から路面電車・富山地方鉄道富山市内軌道線で約10分。その名も「珈琲駅ブルートレイン」。鉄道ファンの方ならご存じかもしれません。
店内は、列車の一等車内をイメージさせるボックス席があって、そしてHOゲージの鉄道模型ジオラマが展示されています。順番に数種類の列車が店内を駆け巡ります。かつて北陸線を走っていたブルートレイン、貨物列車、はたまた最新のクルーズトレイン「トワイライトエクスプレス瑞風」まで走ります。
このほか、北陸新幹線「かがやき」の先代とも言うべき在来線特急「かがやき」車両や、私も子どもの頃に乗って育ててもらった関西線快速電車の模型などもあるではないですか! あなたの知ってる車両はいくつ展示されているでしょう? ヘッドマークや行き先方向板などマニアにとってたまらないものが所狭しと広がっています。路面電車展示コーナーもあって、かつて日本全国で走っていた路面電車模型が見られ、「路面電車の走る街」ならではの展示だと思います。
私も富山に行くたびに伺っています。メニューを見てみましょう。何と、メニューまで時刻表仕立て! ここでのオススメは何と言っても「オレンジコーヒー」です。私はコーヒーが好きで数多くの喫茶店に行っていますが、なかなかお目にかかれないメニュー。オレンジの香りのするコーヒーは他では味わうことができません。香り豊かなコーヒーを味わいながら、走る鉄道模型列車を眺めるとても至福の時…何度行っても飽きないです。
時間があったので、いろんな駅で降りてみました。その中でも越中大門駅(射水市)が印象的だったので、ここに記させていただきます。この駅は1923年(大正23年)開業と歴史があり、今でも昔の雰囲気をかなり残しています。国鉄時代にはよく見られたタイプで、大きな駅舎と長いホーム、古レールと木材を使った渡線橋もとても良い雰囲気です。
「2番のりば」と書かれたボードをよく見てみると、うっすら「快速」の文字が…。これはかつて回送列車の乗り場案内に使われていたボードを使っているということでしょう。快速列車が通っていた頃、お客様を案内してきたボードが、今は「521系」電車の乗り場案内となっている。大正から昭和、平成と経て、令和の現在、いろんな時代を見てきたのでしょう。蒸気機関車や長大な客車列車、国鉄形車両、寝台特急、急行列車、私の大好きな「419系」電車などが往来してきて、そして今、最新の「521系」電車が走っているのです。
あいの風とやま鉄道として初の新駅、高岡やぶなみ駅(高岡市)にも行ってみました。2018年にできた駅で、気のせいかまだ新しい香り。駅から街を眺めてみると、新しいロータリーには新しいプランターのお花が。お客さんに「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」とエールを送っているようでした。街自体がとても新しく、新しい住宅地が造成されています。駅前の駐輪場には、数台の自転車が止められていて、この駅が地元の方々の生活に根ざしているのだと感じました。
鉄印には奈良時代の歌が
私は現在48歳。また何年後かに訪れた時には、またこの駅も成長し、街も随分変わっているでしょう。そして、越中大門駅など前の時代を生きてきた駅のように、今後、街の成長時代を後世に語り継いでいくのだろうと思います。24年の春には北陸新幹線が敦賀まで延伸され、北陸地方全体が盛り上がることになるでしょう。さらに時代が降れば、現在自分が想像できない展開になっているかもしれません。その未来が、今よりも豊かで、よりよい社会になっていることを願いつつ、またこの路線に乗ってこの駅に降り立ちたいと思いました。
鉄印は高岡駅と富山駅で購入することができます。あいの風とやま鉄道の鉄印には万葉集の歌が記されていました。これは、会社名が奈良時代の歌人、大伴家持が詠んだ歌にある「あゆの風」が由来となっているから。「あいの風」とは、春から夏にかけて吹く北東の爽やかな風のことで、古く万葉集の時代から豊作、豊漁など「幸せを運ぶ風」として県民に親しまれています。
この「あいの風」のように県内を東西に横断し、県民に豊かさ、幸せを運び届けることができる鉄道、また、利用者との「出会い」を大切にして、県民に「愛」される鉄道を目指したいという姿勢を表しており、その由来である歌を鉄印に記した、ということ。紙は高級和風洋紙「しこくてんれい」が使用されています。
(2023年5月11日掲載)