会津鉄道は福島県内で西若松駅(会津若松市)と会津高原尾瀬口(南会津町)との間、57.4キロを結ぶ非電化路線です。1927年に国鉄会津線として開業し、JRに引き継がれた後、1987年7月に第三セクター鉄道「会津鉄道」が開業しました。列車のほとんどがJR東の会津若松駅に乗り入れし、時には喜多方駅(喜多方市)にまで足を延ばします。また、会津高原尾瀬口駅では野岩鉄道・東武鉄道からも列車がやってきます。
冬の鉄道旅
会津若松駅からまず乗車したのは快速リレー130号。車両はAIZUマウントエクスプレスにも使用されるAT750形です。2両編成の車内はリクライニングシートが取り付けられていて、さながら特急車両風。普通運賃だけで乗れるのはなんだかお得です。会津若松駅を出発しやがて西若松駅に入るといよいよ会津鉄道線です。まずは田園地帯を走ります。雪のあまり降らない奈良県で育った私は、真っ白な銀世界にテンション上がります。外気はかなり冷えていると思いますが、列車内は暖房が効いて暖かです。また前方車両にお手洗いも取り付けられているので安心です。
芦ノ牧温泉駅(会津若松市)を出ると、列車はだんだん山の中へと入っていきます。脇の樹木に線路が守られてるのがよく分かります。列車は雪をもろともせず快適に走っています。右側を並走していた阿賀川が渓谷となり、何度も渡る鉄橋はかなり高く、眺望も絶品です。
一つ目の目的地、湯野上温泉駅(下郷町)に到着です。多くのお客さんが降りました。この駅にはいくつかの特徴があります。
まずはその駅舎です。日本でも珍しいかやぶき屋根の駅となっています。こんな雪でもしっかりと形を保っているかやぶき屋根、昔の人たちの知恵ってすごいなと思います。
そして、駅舎の中には売店があってお土産物をたくさん売っているのですが、地元で採れた野菜なども販売されています。それだけではありません、待合室にはなんといろりがあるのです。薪がくべられパチパチと音を立てながら私たちの到着を待っていたようです。薪の焼ける香りもなんとも心地よく、暖をとることができます。
さらに、駅の横では足湯も楽しめます。「親子地蔵の湯」と呼ばれており、2012年に近隣住民の健康と発展を祈願して建てられました。とても広くて、たくさんの人がお湯を楽しむことができ、寒い時期にはビニールのカーテンで風よけしてくれてるのがとってもうれしいです。ここからバスで大内宿に行ってみたいと思います。
かつて江戸時代には宿場町として栄えた大内宿は今も江戸時代の面影が残されていてかやぶき屋根の民家が街道沿いに立ち並んでおります。重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。湯野上温泉駅からバスでおよそ10分、バス停から徒歩3分ほどの距離です。
雪の大内宿はいいですね。やはり江戸時代からの景観を守っているということもあり、電柱や電線などが全くなく、もちろんですが車も来ない。雪がしんしんと降っています。屋根に積もった雪から家を守っていることを考えると、何度見てもこのかやぶきの作りは偉大だなと思います。まだ昼食にはちょっと早いということもあり、とても静かに雪の大内宿を楽しむことができました。
ちょっと早いですが昼食です。もちろんおそば、そしてねぎそば発祥のお店として知られる大和屋さんへ行きました。道から直接入るのではなく奥まったところに入り口があるのも特徴です。雪をしっかり落としてから靴を脱いで上がらせていただきます。店内はストーブでとても暖かく、雪で凍えていた体に血流が一気にめぐる感覚は、子供の頃学校から帰ってきて母親が暖かく暖房を付けて待っていてくれたことを思い出しました。なんだか泣けてきますね。
普段私はそばをいただく際は大体冷たいものにするのですが、やはりこの寒さということもあり温かいおそばを注文。ワクワクしながら待っていると、一杯のおそばにネギが1本付いてきました。店員さんに聞くとこのネギにおそばを引っ掛けて食するのだとか。うまくできるのかなと思ってやってみました。ずずずずず。なるほどこのネギの曲がったところが大事なんですね。時折ネギをかじって薬味にするというなんという一石二鳥。ここは遠慮なくやってみました。軟らかいそばとネギの辛みが絶妙に絡み合っておいしいです。あっという間に平らげてしまいました。ネギもバランスよく食べようとしたのですが、後半、緑の部分がちょっと残ってしまいバランスが崩れてしまったのが悔やまれます。次回はネギとおそばとを同時に食べ終えたいです。
「ゆっくりしていってくださいね」と言う店員さんの温かい言葉に甘え、次のバスの時間までゆっくりさせていただきました。
「幻の温泉郷」芦ノ牧温泉
湯野上温泉までバスで戻り、会津若松行きの列車で少し戻ることにします。今度はクロスシート車の1両編成の列車でした。先ほども通った鉄橋から見る阿賀川はやはり絶景、何度見ても美しいです。
15分ほどで芦ノ牧温泉駅到着。この駅にも特徴があります。「ねこが働く駅」としても知られているのです。
私が前回この駅を訪れたのは、「鉄道ダイヤ情報」という雑誌向けの紀行文を書くためでした。この時には、先代の名誉ねこ駅長の「ばす」から業務を引き継いだ二代目の「らぶ」が私を迎えてくれました。
しかし「らぶ」も2022年の10月に永眠してしまったとのこと。駅内には祭壇が設けられ多くの献花やメッセージが届いていました。なにか胸にこみ上げてきました。駅舎内には鉄道グッズだけではなくネコのキャラクターグッズも販売されています。
駅の外に出てみると会津鉄道神社があり、その横にはかつて会津鉄道線を走っていたトロッコ列車AT300形が展示されています。JR東キハ30形という車両を改造したもので、何と言っても外つり式の扉が注目。私の心をめちゃくちゃ熱くします。これはぜひご覧いただきたい。このほか、ホームにはハート型のモニュメントもあり記念撮影もでき、全く飽きない駅です。
今回この芦ノ牧温泉駅で下車したのは、駅を楽しむ他にも理由がありました。それは駅名の由来にもなっている芦ノ牧温泉に癒やされに行くことです。駅前から直通のバスは無いのですが、5分ほど歩くと、芦ノ牧温泉行きのバスが通るバス停「上三寄(かみみより)」があります。この上三寄という名前はこの駅が会津鉄道のものになる前の駅名で、バス停に名残が残っているのです。駅の窓口近くにはバスの時刻表の案内や簡単な地図が備え付けられており、駅員さんに分かりやすく説明していただきました。
時間通りバスがやってきました。芦ノ牧温泉行のバスは旧道経由、新道経由があるようで、私が乗ったのは旧道経由でした。途中までは広い国道を通っていたのですが、ある場所から細い道に入るとそこからは一部会津鉄道線と並走しつつ、どんどん山道に入っていきます。右手からは阿賀川の渓谷がとても遠くに見え、この旧道の過酷さが分かりますね。
途中、バス停でない場所でも下車できるというシステムもあって使ってみたいとも思いましたが、今回は先を急ぎます。15分ほどで旅館やホテルがたくさんあるエリアに到着しました。芦ノ牧温泉にはバス停が三つあるのですが、芦ノ牧温泉車庫前で下車するのがお勧め。およそ中央に位置するバス停には屋根付きの待合室があり、雪をしのぐことができます。
公式ホームページによると芦ノ牧温泉の開設は千数百年前と非常に古く、行き着くことが困難だったため「幻の温泉郷」としても伝えられてきたとのこと。確かに。
阿賀川の渓谷に沿ってたくさんの温泉宿泊施設が建っていますが、今回は日帰り温泉を利用します。日帰り温泉が可能な場所はいくつかありますが、最もバス停から近い丸峰さんを選びました。とても広いロビー、そして落ち着いた雰囲気のフロントはさすが。とても高級感が漂っています。私の訪れた日は、日帰り入浴はひのき風呂でした。ひのき風呂の温度は少し高めで、しっかりとした入浴感があります。ひのき風呂からは窓ごしに渓谷の向こう側の山肌が臨め、雪を冠した木々を眺めることができます。備え付けのシャンプーもありますが、好みのシャンプーを選ぶことも可能で、私は「40歳以上の方向け」を利用。まだ雪はちょっとちらついてますね。次のバスの時間もあり限られた時間ですがしっかりあったまろっと。
ポカポカになった体とサラサラになった髪で帰りのバスに乗り込むと、旧道経由のバスには下校中の小学生が乗っていました。とても元気ですね。私の小学生時代はもう40年ほど前なんですね。きちんとバスの運転手さんに「ありがとうございました」と言ってから下車していきました。しっかり遊んでいっぱい食べて大きくなってね。そんなことを思いながら子どもたちを見送りました。
名物「お座トロ展望列車」
芦ノ牧温泉からはリレー156号に乗り東京・浅草を目指します。会津田島駅(南会津町)で乗り換えますが、同駅には売店があってお土産品やお菓子が所狭しと並んでいます。ここからは、東京までの直通特急があってお客さんでにぎやかです。東武鉄道の最新の特急リバティーが浅草からお客さん乗せてやってきました。折り返し浅草行きになるとのこと。用意ができるまでわれわれは待合室で改札を待ちます。
発車5分ほど前に改札が始まりました。3両編成の特急「リバティ会津156」号は、定刻通り会津田島駅を出発。この山奥から浅草まで1本の線路がつながっているというのはなんとも不思議な、というかなんとも立派な、鉄道というものへの畏敬の念を改めて抱きました。
ここでちょっと耳を澄ましたいのは、名物の「短尺レール」の音色。普通のレールよりも短いレールが採用され車輪の音が、「ガタンゴトン」ではなく「ガタンガタン」なのです。お分かりいただけるでしょうか??
会津高原尾瀬口駅からは野岩鉄道線に入り、新藤原駅(栃木県日光市)からは東武鉄道線となり、やがて列車は新しいホームが使用開始になった東京スカイツリー駅を経て浅草駅に到着します。つい3時間前までは雪にまみれていたのですが、浅草駅にはもちろん雪はなく、少し体感温度もあったかく、冬の会津旅はこれにて終着駅。気温は寒かったですが、何かと暖まった鉄道旅でした。
会津鉄道には観光列車も走っています。その名も「お座トロ展望列車」。お座敷車両とトロッコ車両、そして展望車が一緒になった列車です。なんという的確なネーミングなんでしょう。渓谷風景を行く窓のないトロッコ列車で浴びる風は絶品です。また気の合う仲間と机を囲み談笑するお座敷席もいいですね。そして床がやや高くなったハイデッカー部分の展望席にはリクライニングシートがあります。そして最前部には、前面展望できるゾーンがあり運転手さんと同じ目線で線路を眺めることができるのです。2両編成で三つの選択肢を持つこの列車は他にはありません。
長いトンネルをいくつか通過するいう特徴を生かし、トンネルの壁にアニメーションを映写するシステムも搭載されていてこれはナイスアイデアですね。
この列車は毎日運行しているわけではないので、ホームページなどで運行日をチェックしていただければと思います。時刻も利用しやすい時間帯に設定されているのでお勧めです。
会津鉄道の鉄印は
会津鉄道の鉄印は会津田島駅で入手できます。私が行った時は「お座トロ展望列車」が描かれた台紙に「会津鉄道」の文字。2023年1月1日からは新バージョンとなり、四季の見どころを行く会津鉄道の雄姿が映されたカラー台紙に「会津線」の文字が入ります。春の桜と会津鉄道の車両、夏の青々とした新緑を走る会津鉄道の750系、秋の紅葉を抜ける「お座トロ展望列車」、真冬の豪雪を貫くラッセル車の4種があります。恰好いいですね。
今回は冬の会津鉄道旅となりましたが、春には湯野上温泉駅や芦ノ牧温泉駅で桜が咲き乱れます。初夏には田んぼに稲が植えられ、暑い夏は青々と勢いづく樹々、秋になると紅葉した山々、四季によって味わい方がたくさんある路線です。また冬には訪れにくいのですが、断崖が塔のように立ち並ぶ「塔のへつり」(下郷町)など見ごたえのある景勝地もたくさんあり、じっくり歩いて楽しみたいです。会津のさくら肉(馬肉)やソースかつ丼、ふがたくさん浮かび具沢山の汁料理「こづゆ」も味わい深いです。会津若松でいただいたグルメ写真もアップしますので、ぜひ旅のご参考に!
(2023年1月26日掲載)