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【点描・永田町】維新「鈴木氏除名」で〝腰砕け〟

2023年10月30日

政治ジャーナリスト・泉 宏

 ロシアのウクライナ侵攻後に初めて国会議員として訪ロし、現地でのロシア寄りの言動を批判された日本維新の会の国会議員団副代表・鈴木宗男参院議員が10日、同党が決めた除名処分に対し、機先を制して自ら離党届を提出して処分を発動させなかったことが、政界に波紋を広げている。

〔写真特集〕参議院議員・鈴木宗男氏

 維新の馬場伸幸代表は、党役員会で決定した除名処分を鈴木氏に直接伝達する席上、鈴木氏がその場で書いた離党届を受理し、あっさりと処分を撤回した。これについて、同党の若手らからは「海千山千の鈴木氏の〝肩透かし戦術〟に腰砕けとなった馬場執行部の統治能力が問われる」との不満や批判が相次いでおり、馬場氏らの政治的ダメージは避けられそうもない。

 今回の騒動は、鈴木氏が10月1~5日の日程でロシアに渡航し、その際に現地メディアへ寄せたビデオメッセージで「ロシアの勝利を確信している」などと発言した上、訪ロについての事前届け出という党内手続きを怠ったことから、維新の国会議員団が「重大な規律違反だ」と問題視したことが発端となった。6日には、維新共同代表の吉村洋文大阪府知事が「党の考え方とは明らかに違う。厳しい処分をすべきだ」と声を上げ、藤田文武幹事長も「ロシア政府に利用される発言や行動は非難の対象になる。結果の重大性は免れない」と指弾。これを受け、同党は10日昼の持ち回り常任役員会で鈴木氏の除名処分を決定し、馬場、藤田両氏が午後に国会内で鈴木氏と面談した。

 ただ、鈴木氏が「透明性確保」を理由に記者団を引き連れ、弁護士の同席も求めたため、協議は冒頭から紛糾。馬場氏が「党内の話し合い」を理由に記者団を締め出したが、すぐさま鈴木氏が離党届を書き、馬場氏もその場で受理を決めたため、「離党した議員への処分はできない」との理由で除名処分の発動は見送られた。


〝進撃〟も「そろそろ足踏み」

 これにより鈴木氏は無所属となるが、記者団に「ロシアの友人として活動を続ける」と明言。一方、藤田氏は「馬場代表や私も鈴木議員の経歴や功績には敬意を払ってきた。『自分から退きたい』との申し出を受理し、党を離れていただくということで結論とした」と説明した。鈴木氏はロシアのウクライナ侵攻について「一にも二にも『停戦』が重要。長引けば犠牲になるのは子ども、女性、お年寄りだ。国力の差からロシアが負けるはずがない」などと持論を繰り返したが、これは党の創業者である橋下徹元大阪市長の主張と軌を一にする。

 鈴木氏は地元・北海道での政治活動について「誰を応援しても自由だ」としながら、次期衆院選では維新の候補者支援に含みを持たせた。ただ「道内に30万票近い支持票を持つ」(自民党選対)とされる鈴木氏が反維新色を強めれば、影響は大きいだけに「維新寄りの発言も同党を揺さぶる一環」(同)との見方もある。

 鈴木氏は自民党衆院議員の時代から日ロ交渉に深く関わり、今回の訪ロも長年築いたロシア側との多様なパイプを活用して実現させた。このため、馬場氏があっさりと矛を収めたことについても「鈴木氏と馬場氏では政治家としての格が違う」(自民長老)との声が多く、馬場執行部の軽量ぶりを露呈した格好だ。

 各種世論調査での次期衆院選の比例代表投票先で野党第1党の立憲民主党を上回り、保守層からの期待はなお根強い維新だが、2025年大阪・関西万博の会場建設費倍増など「身を切る改革」という看板が揺らぎ始めており、「〝維新の進撃〟もそろそろ足踏み」との厳しい声も出始めている。

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◆時事通信社「地方行政」より転載。地方行政のお申し込みはこちら

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