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「洋上風力汚職」疑惑の深い闇【点描・永田町】

2023年09月18日22時20分

政治ジャーナリスト・泉 宏

 自民党随一の脱原発論者で知られた秋本真利衆院議員(48)=比例南関東、8月5日に離党=が「洋上風力発電汚職」疑惑で、東京地検特捜部の家宅捜索などを受けてから既に1カ月余。議員会館事務所での多額の現金受け取りなどで「逮捕は秒読み」(司法関係者)とされ、支持率低迷に苦しむ岸田文雄首相にとって、この「秋本事件」が政権危機を拡大させる可能性が大きい。

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 その一方で、首相や麻生太郎副総裁ら自民最高幹部の間には「他人ごとの雰囲気」(自民長老)もにじむ。秋本議員が「『父は菅義偉、兄は河野太郎』と公言するなど、菅、河野両氏との親密さで知られる」(同)ことに加え、政権運営を巡る首相と両氏のあつれきが目立ってきたからだ。そもそも「特捜部が秋本議員を捜査対象としたのは前通常国会の直後」(司法関係者)とされ、政治家絡みの捜査だけに「ひそかに首相官邸に報告され、捜査の進展には自民内の権力闘争も絡んでいる」(同)とのうがった見方も広がる。

 特捜部は8月4日、風力発電事業を手掛ける「日本風力開発」(東京)側からの収賄疑惑で、秋本議員の議員会館事務所や千葉市内の自宅マンション、地元事務所を家宅捜索するなど強制捜査に着手。翌5日には数千万円単位の贈賄の疑いで、同社の塚脇正幸・前社長(9月1日付で辞任)の自宅も捜索した。秋本議員は洋上風力発電事業への参入を目指す同社が有利になるような国会質問を行っており、特捜部は多額の資金提供が国会議員としての職務に関する賄賂に当たるとして、捜査に踏み切ったとされる。

自民の〝闇試合〟も絡む?

 当の秋本議員は、強制捜査直前の8月3日夜に海外出張から帰国。捜査当日の4日には外務政務官を辞任したが、この間も疑惑についての釈明はせず、雲隠れしたままだ。これに対し、自民の茂木敏充幹事長は「今回の件は極めて遺憾で、秋本議員は説明責任を果たし、事案の解明に努めてほしい」と突き放すコメントを繰り返した。

 秋本議員は自民所属であるにもかかわらず、2012年12月の初当選時から脱原発を掲げて注目された人物だ。その後も当選を重ね(現在4期目)、17年8月から国土交通政務官として洋上風力発電の普及に向け、再エネ海域利用法の制定を後押ししたことなどが今回の疑惑につながった。

 一方、日本風力開発が秋本議員への贈賄容疑で強制捜査を受けた時点では、塚脇前社長の担当弁護士が「秋本議員側に賄賂を贈った疑いがあるという指摘は全く事実と違う」などと強く主張。しかし秋本議員が約4年前にも塚脇前社長から別途、3000万円を受け取っていたことなどが発覚すると、塚脇前社長は特捜部の任意の事情聴取に対し、一転して贈賄を認め、担当弁護士は辞任した。

 ここに来て、司法関係者は「特捜部は臨時国会召集前の9月中旬にも想定される内閣改造・自民党役員人事をにらみながら、秋本議員を逮捕する可能性が高い」と読む。秋本議員が逮捕を受けて議員辞職した場合、比例南関東で次点だった木村哲也元衆院議員(54)=千葉4区=が繰り上げ当選する見通しだが、自民幹部は「木村氏も菅グループの一員なのが興味深い」と指摘する。

 こうした事情が、自民内で「『秋本事件』は〝菅・河野案件〟」(麻生派幹部)との声が上がる理由で、当の菅、河野両氏はこれまで口を閉ざしているが、「秋本議員が逮捕された途端、自民内の権力闘争絡みの〝闇試合〟が始まる」(自民長老)との見方も出始めている。(9月6日記)

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◆時事通信社「地方行政」より転載。地方行政のお申し込みはこちら

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