政治ジャーナリスト・泉 宏
8月を迎え、炎暑の永田町から国会議員の姿が消え、「政局は夏休み状態」(自民党長老)だが、内閣支持率の続落で岸田文雄首相の政権運営は〝ジリ貧〟に陥りつつある。首相は得意の首脳外交の合間を縫った地方行脚による「聞く力」のアピールを通じ、態勢の立て直しに躍起だが、与党幹部の間では「もはや早期解散は困難」(閣僚経験者)との声が広がりつつある。
当面の焦点は内閣改造・自民役員人事の時期と内容、それを踏まえての早期解散の可能性だ。現状は、表向きは首相が思い描いていた構図で、与野党の別なく「首相の言動を注視している」(立憲民主党幹部)ようにみえる。
ただ、国民の不信拡大に歯止めがかからないマイナンバーカード問題に、首相の最側近である木原誠二官房副長官の妻が元夫の怪死事件で重要参考人となった際、木原氏が「政治的圧力をかけた」とされる疑惑が重なり、主要メディアの世論調査では内閣支持率が「政権発足以来の最低レベル」に落ち込み、これに連動する形で自民の支持率も下落。調査によっては「いわゆる『青木の法則』での政権危険水域」(自民幹部)に近づく事態となっている。
しかも日本維新の会の支持率上昇が際立ち、自民の岩盤支持層とされる保守層を奪いかねない状況だ。このため、9月中旬以降に想定される内閣改造・自民役員人事や、衆院解散の可否を巡っては、さまざまな臆測が飛び交う中、「現状が続けば首相は解散できず、来年9月の(自民総裁の)任期満了で退陣」(自民長老)との見方も出始めている。
首相、党内工作も「人事に悩む夏」に
そうした中で首相は7月中旬からほぼ連日、昼夜を問わず、与党の最高幹部や自民各派の実力者らとの個別会談を繰り返し、窮状打開に躍起だ。中東歴訪から帰国した同19日は夕方に自民の茂木敏充幹事長と面会し、夜には最大派閥・安倍派の萩生田光一政調会長と会食。翌20日は菅義偉前首相を衆院議員会館の事務所に訪ね、2人だけで約40分間、密談した。さらに24日夜は自民の遠藤利明総務会長と会食。25日には公明党の山口那津男代表と昼食を共にしながら会談した。
山口氏とはマイナンバー問題について、政府・与党間の緊密な連携を確認。ただ、注目の公明からの入閣人事を巡っては、山口氏が「首相にお任せする課題」として、会談では踏み込まなかったとされる。
一方、首相と親密な関係の遠藤氏は、25日の記者会見で「(首相とは)若干、未来の話をしたが、それがすぐ衆院解散、人事がどうのということではない」ととぼけた。自民内では、一連の会談について「人事に関する反応を探るとともに、反岸田勢力の台頭をけん制するため、懐柔と取り込みを狙ったものだ」と、したり顔で解説する向きもある。
首相はこうした政治的会談をこなす中、7月29日に66歳の誕生日を迎えた。前日の28日には、首相官邸で記者団に「多くの方々に支えられて年を重ねることができた。今年の夏は改めて政権発足の原点に戻り、現場の声、さまざまな声を聞く取り組みを進めている。こうした声を大事にしながら、結果を出すべく努力を続ける」と語った。
これに関し、首相周辺は「政界では、マイナカード問題や原発処理水放出などで『どうする文雄』が注目されるが、本人は『とにかく明るい岸田』で、政権危機を乗り切る構えだ」(岸田派幹部)と指摘する。ただ「難問は人事で、木原氏の処遇も含め、ぎりぎりまで状況を見極めざるを得ない」(同)とみており、首相にとっては「人事に悩む夏」となりそうだ。
(2023年8月15日掲載)
(時事ドットコム編集部注)「青木の法則」…自民党の青木幹雄元参院議員会長がかつて唱えた法則で、内閣支持率と政権党の支持率の合計が「50」を切ると政権維持が危うくなるとされる。