政治ジャーナリスト・泉 宏
自民党の各派閥は、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット、5月19~21 日)の前に政治資金パーティーを開催した。毎年恒例だが、今回は早ければ夏にも想定される次期衆院選に向けての態勢固めと資金確保が目的だ。統一地方選・衆参5補選を乗り切った岸田文雄政権に対し、各派は一様に支持をアピール。これを受け同党は、表向きは「総主流態勢」となり、当面の党内運営も〝岸田1強〟の構図だが、水面下での主導権争いはなお続く見通しだ。
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自民内では安倍(100人)、麻生(55人)、茂木(54人)、岸田(46人)、二階(42人)、森山(8人)の6派と、谷垣グループ(他派所属も含めて18人)が活動を続けている。さらに旧石破派や、菅義偉前首相を支持する無派閥議員を軸とする菅グループも含め、政局の節目で合従連衡の動きを見せてきた。現状では首相を支える岸田、麻生、茂木3派と谷垣グループが政権中枢を構成する。党・内閣の要職を占める圧倒的な最大派閥の安倍派も、党運営では「主流派」の立場だ。
一方、反岸田勢力の旗頭と目される菅氏、二階俊博元幹事長がそれぞれ率いる菅グループと二階派、二階氏と気脈を通じる森山裕選対委員長が会長を務める森山派、それに旧石破派が「非主流」と位置付けられている。
しかし一連の派閥パーティーでは、各派の領袖(りょうしゅう)や幹部がそろって「一致結束して岸田政権を支える」などと繰り返し、首相もサミット前日のためにビデオ参加となった麻生派以外にはすべて顔を出し、それぞれの派閥との連携強化や協力要請に腐心した。ただ、各パーティーなどでの首相の言動を「5月の大型連休以降、政局運営の主導権を確保できた自信から、解散権と人事権をちらつかせて、各実力者や派閥幹部を抑え込もうとしている」(自民長老)とみる向きも少なくない。
「ど真ん中」「屋台骨」連呼に空々しさ
その一方で、各派パーティーで見せた所属議員らの表情には複雑さが目立った。そもそも開催形式もばらばらで、岸田、茂木両派はコロナ禍前のような大宴会場での立食形式としたが、二階、森山両派はセミナー形式を採用。岸田派の前日に同派と同じ東京プリンスホテルでの開催となった安倍派は、着席形式で幹部や来賓のあいさつのみ、提供したのもペットボトルのお茶1本だけにとどめ、わずか40分ほどで終了した。大枚の会費を支払った参加者の多くは「やらずぶったくりでの資金集めにあきれた」などと不満をあらわにした。
各パーティーでの焦点は、やはり首相や各派の領袖、政府・与党幹部のあいさつだ。特に政界関係者は安倍、岸田両派での各実力者の言動に注目したが、安倍派ではあいさつした全員が故安倍晋三元首相の業績をたたえる一方、1カ月余り先の命日での後継会長選びも絡めた微妙な発言が飛び交ったが、今も同派に強い影響力を持つ森喜朗元首相はあいさつもせずに途中退席。その際の会長候補たちの反応も含め、最大派閥の内情の複雑さを浮き彫りにした。
翌日の岸田派では、派閥領袖の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、森山氏らが首相の登場前から来賓席で談笑していたが、菅氏や二階氏は欠席した。来賓あいさつでは、首相の「後見役」の麻生氏が真っ先に登壇して祝辞を述べたが、党4役の茂木、森山両氏と遠藤利明総務会長、萩生田光一政調会長は一緒に登壇し、茂木氏が代表する形であいさつするなど「扱いの差」(長老)も。来賓の全員が岸田政権支持で、「ど真ん中」「屋台骨」を連呼したが、議員席では苦笑が絶えず、「総主流態勢の空々しさ」(同)は隠せなかった。
(2023年6月5日掲載)
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