政治ジャーナリスト・泉 宏
統一地方選の後半戦と同時実施となった衆参5補選(4月23日投開票)は、自民党が4勝1敗で「勝利」し、表向きは岸田文雄首相による早期解散断行論が加速したかにみえる。しかし、選挙結果を分析すると「勝ったのは日本維新の会で、自民は実質的には敗北」(選挙アナリスト)との見方が多く、与党内には解散先送り論が広がる。
その一方で、統一選と補選を無難に乗り切った首相に対し、自民内における反岸田勢力の旗頭とされる二階俊博元幹事長、高市早苗経済安全保障担当相が、地元の補選や知事選で予想外の敗北を喫したことで「党内の権力構図は、結果的に〝岸田1強〟が確立」(長老)した格好となり、2024年9月の総裁選に向けた政局運営も、当面は首相が主導権を握ることになりそうだ。
発足後1年半を経過した岸田政権の「中間評価」ともなった補選(衆院=千葉5区・和歌山1区・山口2区・同4区、参院=大分選挙区)は、自民が千葉、山口、大分の計4選挙区で、維新が和歌山で勝利した。自民は議席を失っていた参院大分の奪還で「勝ち越し」(選対幹部)となり、党執行部は「政権に前向きの評価」(茂木敏充幹事長)と胸を張った。
ただ安倍晋三元首相の死去に伴う山口4区以外は、いずれも大接戦。加えて、二階氏が支配してきた保守王国・和歌山で維新の女性候補に敗れるという結果が、自民内で「次期衆院選への不安を拡大させた」(選対)ことは否定できない。
〝弔い選挙〟となった山口4区も、安倍氏の後継候補の得票数は過去の実績から半減。体調不安で政界引退を決断した岸信夫前防衛相の後継者として、山口2区から出馬した長男・信千世氏は圧勝どころか、わずか6000票差という薄氷の勝利だった。さらに野党候補が乱立した千葉5区、与野党の一騎打ちとなった参院大分も「当選確実が報じられたのは深夜から未明」という状況で、「投票率が少しでも上がっていれば負けていた」(自民選対)というのが実態だ。
〝政敵失速〟で「とにかく明るい岸田」に
このため、首相も選挙結果を受けて「重要政策課題をしっかりやり抜けという叱咤(し った) 激励と受け止めている」とした上で、衆院解散については「今、考えていない」と従来通りの慎重発言を繰り返している。
自民内では当初、「補選を4勝1敗で勝ち越せば、早期解散の環境が整う」(長老)との声が多かったが、選挙後は「得票状況とその内容を見れば、自民は敗北だ。今国会での解散断行はリスクが大きい」(選対幹部)との危機感が広がった。
二階氏は和歌山県連会長として子飼いの元職を擁立し、国民民主党衆院議員から昨年11月の同県知事選に出馬、当選した岸本周平氏とも手を結んで万全の態勢で臨んだが、維新の女性候補に「完敗」。二階氏は開票後の自民陣営での記者会見で一切コメントせず、逃げるように立ち去った。
高市氏を巡っては、統一選の前半戦として行われた奈良県知事選で自民県連の推薦候補が敗北したものの、県連会長としての責任を回避し続けたことで「総裁候補としての資質が問われる」(安倍派幹部)との批判が噴出している。
ライバルの失速を横目に、首相は地元・広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、大型連休中にアフリカ4カ国とシンガポールを歴訪し、連休最終日の5月7日には韓国を訪問して日韓首脳会談を行うなど、精力的に外交を展開。その後は13日放映の民放バラエティー番組に出演するなど、人気お笑いタレントのような「とにかく明るい岸田」(側近)ばかりが際立つ日々を送っている。
(2023年5月22日掲載)
次回 「立民VS維新」の野党第1党争い 5月29日(月)掲載予定
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