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首相がIR・万博で維新に〝秋波〟【点描・永田町】

2023年05月01日

政治ジャーナリスト・泉 宏

 岸田文雄首相がカジノを含む統合型リゾート(IR)に関する大阪府と大阪市の整備計画を認定したことが、永田町に波紋を広げている。

【点描・永田町】前回は⇒「サル発言」が巨大ブーメランに

 そもそもIR誘致は、大阪を政治的に支配している日本維新の会(地域政党「大阪維新の会」を含む)が実現を目指し、自民党大阪府連など地元の反維新勢力と対立してきたものだ。しかも首相は認定の直前、2025年大阪・関西万博に関する政府の支援強化も打ち出した。このため首相の一連の対応を巡り、政界では「露骨な維新への〝秋波〟」(自民長老)と受け止める向きも少なくない。

 首相を本部長とする政府のIR推進本部は4月14日、IR整備の第1号として大阪府・市の計画を認定した。これを受け、府・市は「大阪IR株式会社」を事業者として人工島「夢洲(ゆめしま)」での整備を進め、早ければ2029年の秋から冬にかけての開業を目指す方針だ。一方、同様に整備計画を申請していた長崎県の認定は見送られ、継続審査とされた。

 IR誘致は、2009年に当時の大阪府知事だった橋下徹氏が、大阪の経済発展を狙って構想推進を表明。以来、橋下氏が創設した大阪維新と、同党を母体とする国政政党である日本維新の政治的旗印となってきた。ただ、インバウンド(訪日客)拡大への起爆剤としての期待を集める一方、ギャンブル依存症や治安悪化への懸念も根強く、大阪府・市の住民の間では賛否が交錯してきたのが実態だ。

「成功なら維新の手柄」との疑問も

 今回の計画認定は、統一地方選の前半戦の一環として投開票され、維新が圧勝した大阪府知事・大阪市長のダブル選から、わずか5日後に行われた。もともと維新側は1月の通常国会召集前の認可を想定していたとされるが、結果的に政府は「ダブル選の結果を待って認定」(首相官邸筋)した形だ。

 その背景には、統一選の前半戦で維新の躍進が際立ち、しかも奈良県知事選では維新公認候補が初めて大阪以外で県政を奪取するという政治情勢の変化があったのは間違いない。このため「今後の国政選挙では、野党第1党の立憲民主党ではなく、維新が自民の最大のライバルになる」(同)との判断から、「ここで維新に恩を売って政権安定を狙った」(同)との見方が広がる。

 首相はIRの整備計画認定に先立ち、万博開幕までちょうど2年となる4月13日、会場となる夢洲で開かれた起工式に出席し、くわ入れを行って万博成功に向けた政府の支援強化をアピール。その上で、記者団に「国民にとって最善を追求するため、維新をはじめとする野党の皆さんの声を聴きながら国政を進めたい」と、維新との連携強化を強調してみせた。

 もともと自民と維新は、故安倍晋三元首相と菅義偉前首相が、橋下氏や今回の任期満了で政界を引退した前大阪市長の松井一郎氏と親密な関係をつくり上げ、安倍・菅政権下で維新は「事実上の与党」とみられてきた。しかし岸田政権では、首相や麻生太郎副総裁、茂木敏光幹事長は維新と〝距離〟があり、維新側も国会対応では立民と連携して与党攻撃を強めていた。

 ただ、参院憲法審査会の野党筆頭幹事だった立民・小西洋之氏のいわゆる「サル発言」で、維新は立民との共闘を白紙化したばかり。首相はその隙に付け込んで「維新の取り込みを図った」(自民幹部)ともみえるが、維新は4月23日投開票の衆院千葉5区・和歌山1区補選で自民としのぎを削った。それだけに、自民内では「万博もIRも成功すれば維新の手柄、失敗すれば政府の責任では割に合わない」(閣僚経験者)と、首相の戦略を疑問視する声も出ている。

(2023年5月1日掲載)

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