政治ジャーナリスト・泉 宏
3月28日の2023年度予算成立に合わせ、永田町で強い解散風が吹き始めた。内外で評価された岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問や、その直前の日韓首脳会談への評価などで内閣支持率が上昇したことで、与党内から「解散断行のチャンス到来」(自民党幹部)との声が噴出したからだ。ただ「火のない所に煙は立たない」(閣僚経験者)とはいうものの、さまざまな発信元からみて「自民党内の権力闘争を背景とした〝権謀術数〟の類い」(自民長老)との見方も少なくない。
【点描・永田町】前回は⇒首相「キーウ電撃訪問」の舞台裏
早期解散を巡る与党内の複雑な構図の象徴となったのが、予算成立直後の首相と山口那津男・公明党代表とのやりとりだ。予算成立時の恒例となっている首相の各党あいさつ回りの際、大勢の記者団の前で山口氏が「解散じゃありませんね?」と真剣な表情で迫り、首相も一瞬苦笑した上で「統一地方選と衆参補選です」と答えた。そもそも、公明党は「統一選に合わせた衆院選だけでなく、早期解散自体に反対の立場」(幹部)であるため、山口氏はあえて衆人環視の中で首相をけん制してみせたのが実態だ。
21年10月の岸田政権発足直後に事実上の任期満了選挙が実施されてから、まだ1年半。昨年末には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題も絡んでの相次ぐ閣僚辞任劇などで内閣支持率が大幅に下落し、「解散どころか政権維持すら危ぶまれる状況」(自民幹部)に追い込まれた。このため通常国会召集(1月23日)の時点では、与党内も含めて「解散は今秋以降」(同)との声が支配的だった。しかし、首相が独断的に敢行したウクライナ電撃訪問で流れが一変。主要メディアの世論調査で支持率が5ポイント前後上昇し、一部では支持が不支持を逆転した。とはいえ、統一選で自民が苦戦すればまた情勢は変わり、今回の解散風も「単なる春一番に終わる」(同)可能性がある。
会期末の内閣不信任巡る攻防に注目
そもそも今後の政治日程を踏まえると、来年9月の自民党総裁選までに解散するチャンスは、以下の通りとみられている。まず最も早いのは、5月下旬の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後から通常国会の会期末(6月21日)まで。その後は、①秋の臨時国会冒頭②臨時国会の会期末③24年1月の通常国会冒頭④25年度予算の成立時⑤通常国会の会期末──という六つのケースだ。ただ首相が解散しないまま、総裁の任期満了を迎える可能性も否定できず、「すべてはその時の政治状況と首相の決断次第」(首相官邸筋)になる。
そこで当面最大の注目点は、今国会中の解散の有無だ。これまでの解散パターンも踏まえると、最も可能性が高いのは「会期末に野党が内閣不信任決議案を提出し、首相が解散を断行するケース」(自民長老)とみる向きが多い。もちろん、野党第1党の立憲民主党は「首相の独善的政権運営に対し、会期末に不信任案を突き付けるのは当然だ」と肩を怒らす。しかし同じ野党でも、日本維新の会や国民民主党が共同提案者になるかは極めて微妙だ。23年度予算成立時に立民が参院で検討した高市早苗経済安全保障担当相の問責決議案提出も、維新などの同調が得られず、「幕引きに利用される」(幹部)との慎重論もあって断念したとされる。その理屈で言えば、会期末の不信任案も提出する必然性は薄れる。
そもそも10 増10減に伴う新たな区割りでの衆院選への準備を巡っては、野党が圧倒的に出遅れているのが実態だ。自民は「いつでも選挙ができる」(幹部)と自信満々。首相が繰り返す「今、衆院解散は考えていない」との発言が本音かどうかは別にして、「結果的に夏前の解散はない」(自民長老)との声も広がる。
(2023年4月17日掲載)
次回 サル発言が「巨大ブーメラン」に は4月24日(月)掲載予定