政治ジャーナリスト・泉 宏
統一地方選の後半戦(4月23日投開票)に合わせた実施が事実上、確定した衆参統一補選の中で、次期衆院選では定数減で新たな区割りとなる保守王国・山口の2、4区が、永田町で注目の的となっている。昨年7月の安倍晋三元首相(4区)の非業の死で、晋三氏が支配してきた山口県政界の権力構図が一変した結果、「下関市を主要地盤とする、長年にわたる安倍家と林家という名門政治家一家の遺恨を踏まえた〝下関戦争〟」(自民党長老)となったからだ。
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晋三氏の母で〝ゴッドマザー〟と呼ばれる洋子氏は「安倍家の選挙区を守る」と、4区補選に晋三氏の妻・昭恵氏を含めた親族からの後継擁立を目指した。しかし誰も名乗りを上げずに後継選びは頓挫し、早々に不出馬を宣言した昭恵氏が昨年末、安倍事務所の看板を外した。
ただ、晋三氏の死去で欠員となった4区の議席には次期衆院選までの間、補選の勝者が座ることになる。このため、前回衆院選で隣の3区にくら替え出馬して圧勝した林芳正外相の、再度のくら替え出馬説も浮上したが、「いくら何でも無理筋」(岸田派幹部)と立ち消えになった。
そうした中、自民党本部から対応を求められた山口県連は、年初から後継候補を公募。締め切りの今年1月19日までに複数が応募したが、昭恵氏ら安倍家が推す下関市議・吉田真次氏の擁立が決まった。ただ、吉田氏は晋三氏に近い市議でつくる議会内会派「創世下関」の会長だが、安倍後援会の中でもほぼ無名の存在。このため「新たな区割りで実施される次期衆院選までのつなぎ」との声もあるが、安倍家は「当然、次も出馬する」と口をとがらす。
「定数減」で政局絡みの思惑交錯
しかも、かねて体調不安が指摘されていた晋三氏の実弟・岸信夫前防衛相(2区)が、2月3日に議員辞職を表明。新区割りの対象となる2区も4月に補選が行われることになり、事態はさらに複雑化している。2区補選でも自民県連が候補者を公募し、2月7日に出馬表明した岸氏の長男・信千世氏を後継候補に決めた。
そもそも下関市を主舞台とする「安倍家VS林家」の覇権争いは、中選挙区時代の先々代までさかのぼる。特に、晋三氏の父・晋太郎元外相(故人)と芳正氏の父・義郎元蔵相(同)は旧1区(定数4)で闘い続け、小選挙区制への移行で下関市が現4区となった際、義郎氏が比例に回り、芳正氏は参院山口選挙区からの中央政界入りを余儀なくされた経緯がある。芳正氏は晋三氏が再登板を決めた2012年の自民総裁選に、参院議員として出馬してから衆院くら替えを目指し、岸田政権誕生直後の21年10月の衆院選で岸田派ナンバー2として3区から出馬、衆院転身を果たした。
このときの衆院選では晋三氏も4区で圧勝したが得票を減らし、陣営内で「林系の有権者が投票しなかった」との不満が出たことで、安倍、林両陣営のせめぎ合いが激化。加えて2月5日投開票の下関市議選では、林系が安倍系を圧倒したことで、新3区での林氏擁立の動きが加速しているのが実情だ。
その一方で野党は2区、4区とも補選での候補者擁立が難航。このため減員後の次期衆院選では1区・高村正大(52)、2区・岸信千世(31)、3区・林芳正(62)、4区・吉田真次(38)の自民現職4氏が三つの議席を奪い合うことが確実視される。
とはいえ、衆院選の時期やその時点での政権がどうなっているかなど、「極めて不確定要素が大きい」(自民選対)だけに、補選後も「政局絡みの神経戦が続く」(同)ことになりそうだ。
(2023年2月28日掲載)
次回「萩生田氏が安倍派会長に意欲」は3月6日(月)掲載予定
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