政治ジャーナリスト・泉 宏
岸田文雄首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、現在の「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げ、大型連休明けの5月8日からの実施を決めたことが、複雑な波紋を広げている。
【点描・永田町】前回は⇒「G7議長外交」も政権浮揚ならず
国内での感染確認から3年という節目の決断で、持論の「ウィズコロナ」による経済再生が狙い。政官界での支持は多数派で、財界も歓迎するなど、「まさに時宜を得た方針転換」(首相官邸筋)にみえるが、感染症専門家の間では「年度末前後からの大規模な『第9波』の到来」が確実視され、その際の国民の反応も含め、今後の展開は予断を許さない。
国会での与野党攻防や4月の統一地方選・衆参統一補選を乗り切り、5月の広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)を成功させて衆院解散も狙うとされる首相にとって、「国民が最も敏感なコロナ対策での〝大勝負〟」(側近)となる。しかし昨秋からの第8波で、年明けに過去最多の死者数を記録するなど、感染症専門家の多くは「対策を緩めるのは危険」(政府対策本部の幹部)と首をかしげる。一方で、ここに来ての顕著な新規感染者数の減少で、厚生労働省が「第8波は収束」と判断したことが、「首相の背中を押した」(官邸筋)のは事実だ。
首相は1月20日に加藤勝信厚労相ら関係閣僚に「移行検討」を指示し、23日の施政方針演説で「ウィズコロナへの移行」と高らかに宣言。併せてマスク着用ルールの見直しにも意欲を示し、政府は27日の対策本部で5月8日からの5類移行を決定した。4年目に入ったコロナ対策の見直しを巡っては、最新の世論調査でも国民の半数以上が支持する。
ただ「マスク外し」にはなお国民の不安が根強く、政府も結局、「マスク着用は個人の判断に委ねる」と腰砕けに。ゼロコロナ政策を大転換した中国で、感染爆発による桁外れの死者数が伝えられる中、春節(旧正月)休暇を利用しての同国からの訪日客が激増し、政府の水際対策も「効果は限定的」(政府筋)とされるため、首相は1月30日の衆院予算委員会で「(マスク着用も含め)段階的に移行する」と〝逃げの答弁〟に終始した。
ウィズコロナは「危険な賭け」
コロナ対策に苦闘した安倍、菅両政権でも、感染防止策への国民の不安・不信が内閣支持率を低下させ、政権危機につながっただけに、今回の首相の「ウィズコロナ・経済再生」という〝勝負手〟は、「リスクと背中合わせの危険な賭け」(自民党長老)でもある。ただ、首相決断の背景には「5月19日からの広島サミットで、議長役がマスク着用では世界の笑いものになる」(政府筋)との危機意識があったのは間違いない。
しかし5類に引き下げた場合、入院勧告や医療費の公費負担が法律上の根拠を失い、コロナ対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」といった対策も実施できなくなる。まさに4年目の政策大転換だが、「現場を預かる各都道府県知事の不満・不安は隠せない」(総務省幹部)のが実態だ。
そもそも首相にとって、内政での当面最大の難問がコロナ対応だった。もともと昨秋から早期転換を模索してきただけに、「年明け早々に自ら将来展望を示すことで政権浮揚につなげる狙いがあった」(官邸筋)のは明らか。ただ政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長は、首相の〝独断〟に絡めて「他者への配慮を重視すべきだ」と警告した。
年度末前後に第9波が襲来すれば、国民の反応も一変しかねないため、首相サイドも「年度末や大型連休に向け、祈るような思いで感染状況を見守るしかない」(側近)と肩をすくめるばかりだ。
(2023年2月13日掲載)
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