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「G7議長外交」も政権浮揚ならず【点描・永田町】

2023年02月06日

政治ジャーナリスト・泉 宏

 岸田文雄首相が年明け早々の1月9日から敢行した「G7議長外交」が、狙い通りの政権浮揚につながらなかったことで、首相周辺や政府・与党幹部の間で失望と落胆が広がっている。
 首相は7日間の欧米歴訪による首脳外交で、5月に地元・広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の成功に向け、メンバーである米・英・仏・伊・加5カ国の協力を取り付けて15日夜、鼻高々で帰国した。しかし、その後の主要メディアの世論調査では内閣支持率は最低水準のままで、政権危機脱出への手掛かりはつかめなかった。

【点描・永田町】前回は⇒波紋広げる菅氏の“岸田批判”

 その昔「80日間世界一周」という映画が大ヒットしたが、今回のG7議長外交は「7日間世界一周」という超強行日程。首脳会談などの事前設定も不透明で、「現地に着いてみなければ分からない状況が続いた」(同行記者団)という。

 松の内が明けたばかりの8日深夜、首相が羽田空港で記者団に「G7議長として欧米歴訪に臨む決意と抱負」を語ってから乗り込んだ政府専用機は、9日午前0時すぎに離陸。最初の訪問地であるフランス到着は現地時間の9日午前で、その時点でようやくマクロン大統領との会談時刻が公表されるという「やっつけ仕事」だった。

 さらにドタバタを極めたのは次のイタリア訪問で、現地時間10日正午前に到着した首相は、空港からホテルに直行してメローニ首相との会談に臨み、記者会見を済ませると空港にとんぼ返り。専用機が飛び立ったのは午後5時すぎで、滞在わずか5時間半弱という「トランジット(途中下車)訪問」となった。

肝心の日米会談も共同会見は中止に

 一方、3番目の英国訪問は趣を異にし、通常は首相官邸で行うはずの首脳会談が、世界的に知られる観光名所の世界遺産・ロンドン塔で行われた。スナク首相の「粋な計らい」(官邸筋)で、岸田首相は会談後、スナク氏の案内でロンドン塔ツアーを楽しみ、満面の笑顔で日英首脳の友好をアピールした。

 続く4番目の訪問国がカナダで、この時点で地球半周に。ただ首相はそれに先立ち、「英国から陸路でウクライナ入りし、キーウでゼレンスキー大統領との首脳会談に意欲を示したが、外交当局の『危険過ぎる』との説得で断念した」(外務省筋)とされる。このため「最後で最大の目的だったバイデン米大統領との会談のためにワシントンにたどり着いたとき、随行員はへとへとだった」(同行筋)。

 しかも首相の念願だったホワイトハウスでの日米首脳会談は、会談前のフォトセッションで両首脳のあいさつが終わった途端、取り囲んだ米メディアが一斉にバイデン氏の個人事務所から機密文書が見つかった問題で、同氏を質問攻めに。大統領は質問を無視してセッションを終わらせたが、首脳会談後の共同記者会見は「機密文書問題の追及を嫌がる米側が中止した」(官邸筋)ため、後味の悪い幕切れとなった。

 こうした一連の「G7議長外交」を受けた大手メディアの世論調査結果を見ると、内閣支持率は低迷したままで、複数の調査で最低記録を更新した。首相が昨年末に決断した「防衛力増強」「異次元の少子化対策」への期待や評価はあるものの、そのための「増税」への反発などが外交成果を帳消しにしたとみられる。

 さらに、2024年秋までの衆院解散を求める声が6割超となる中、「防衛増税」を軸とする通常国会での与野党論戦の本番は、1月30日からの衆院予算委員会。この場で首相が国民への「聞く力」や「説得力」をどう示すかが、今後の政権の命運を左右するカギとなりそうだ。

(2023年2月6日掲載)

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◆時事通信社「地方行政」より転載。地方行政のお申し込みはこちら

【次回】首相「コロナ政策大転換」の狙い は2月13日(月)掲載予定

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