政治ジャーナリスト・泉 宏
政権発足から2度目の正月を迎えた岸田文雄首相は、今年も「戦後最大の危機」との苦闘が続く。
昨年末まで引きずった主要閣僚の〝辞任ドミノ〟によるダメージから、永田町では早期退陣説もささやかれるが、「首相は政権維持に自信満々で、さまざまな戦略を模索中」(側近)とされる。ただ、通常国会での与野党攻防や4月の統一地方選という「高いハードル」(自民党幹部)をクリアし、首相の地元・広島で5月に開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)で大きな成果を挙げられるかが、その後の政局を占うカギとなる。
【点描・永田町】前回は⇒「防衛増税」政局の裏の〝猿芝居〟
年末年始を公邸で過ごした首相は仕事始めの4日、恒例の伊勢神宮参拝後の年頭記者会見で「(今年は)覚悟を持って先送りできない問題への挑戦を続ける」と胸を張った。最重要課題に経済再生と少子化対策を挙げ、今春闘で物価上昇率を超える賃上げ水準を目指すとともに、将来的に子ども予算を倍増するための大枠を6月末までに示す方針を明らかにした。
一方で、年末にかけて自民党内の激しい対立が予想される防衛費増額に伴う増税の扱いに絡んだ衆院解散説については「今は考えていない。時の首相が最終的に判断するべきものだ」とけむに巻いた。
さらに首相は、9日から1週間の日程でG7メンバーの欧米5カ国を歴訪すると表明。特に、13日(現地時間)の米ホワイトハウスでのバイデン大統領との会談に関し、「G7議長としての腹合わせ以上の意味を持った大変重要な会談になる」と、岸田流・首脳外交への自信とその成果をアピールした。
「解散」「人事」ちらつかせて〝任期完投〟
4年8カ月の外相経験を持つ首相にとって、広島での〝G7議長外交〟は「政権浮揚のための晴れ舞台」(外務省幹部)だ。だからこそ「G7外交で内閣支持率が上向けば、解散断行のチャンス」(岸田派幹部)との思惑がにじむ。しかし、そこにたどり着くためには、内政での政治的関門を突破することが求められる。
まず首相の〝説明力〟が試されるのが、23日召集の通常国会での論戦だ。政府・与党は、過去最大規模となる114兆円超の2023年度予算案の年度内成立を目指す。
これに対し野党側は、昨年末に〝更迭〟された秋葉賢也前復興相らに関する首相の任命責任を厳しく追及する一方、防衛増税など首相が決断した重要政策を巡って徹底論戦を挑む構え。ただ、世界的な景気後退が深刻化する中、予算の早期成立には野党も抵抗しにくく、「結果的に国会の前半戦は順調に進む」(自民国対)と予想する向きもある。
そうした中、首相が強い危機感を持つのは、4月の統一選(9、23日投開票)と衆参の統一補選(23日投開票)だ。4年に1度の統一選は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が響き、自民退潮は必至。さらに衆院の千葉5区、和歌山1区、山口4区での実施が確実な衆参統一補選でも苦戦すれば、与党内の〝岸田離れ〟が急拡大する可能性がある。
その場合、「サミット花道論」が浮上しそうだが、首相は会期末解散や、時期を見極めての大幅な内閣・党役員人事の断行をちらつかせることで、政権の危機回避を狙う構えだ。
「それまでに首脳外交や物価高騰・新型コロナウイルス対策などで成果を積み上げれば、支持率も回復する」(側近)との判断から、自民総裁としての任期切れまで残り1年となる9月以降も、解散や人事をてこに求心力を維持し、取りあえず〝任期完投〟を目指すとみられるが、「前途は極めて多難」(自民長老)だ。
(2023年1月23日掲載)
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