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「防衛増税」政局の裏の〝猿芝居〟【点描・永田町】

2023年01月02日

政治ジャーナリスト・泉 宏

 野党の政権追及が尻すぼみに終わった臨時国会の最終盤に、岸田文雄首相が「独断専行」で打ち出した「巨額防衛費の財源を増税で賄う」との方針が、国民や野党だけでなく自民党内でも大炎上し、党内政局の様相を呈した。結果的に決着先送りの「妥協案」によって短期で収束したが、その舞台裏を探ると、「最大派閥・安倍派内の覇権争い」(自民長老)が浮き彫りとなり、「政局を装った手の込んだ〝猿芝居〟」(同)との冷ややかな見方も広がる。

【点描・永田町】前回は⇒「自公国連立」説流布に疑心暗鬼

 永田町を騒がせた「防衛増税」政局のきっかけは、首相が臨時国会の会期末を前に、唐突に打ち出した相次ぐ〝独断決定〟だ。まず、2022年度第2次補正予算の成立を受け、12月5日に23~27年度の5年間の防衛費総額を約43兆円とするよう関係閣僚に指示。続いて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法に会期内成立のめどがついた同8日には、27年度以降に必要となる年4兆円の防衛費増加分のうち1兆円強を増税で確保する一方、23年度は増税せず、所得税については増税を行わない方針を表明した。

 これを受け自民党税制調査会(宮沢洋一会長)は、直ちに法人税、たばこ税、復興特別所得税(復興税)を増税の対象とする内部協議を開始。37年までの時限措置だった復興税の活用では、上乗せ分の1.1%を復興財源、1.0%を防衛財源に振り分ける案を打ち出した。課税期間を延長することで復興財源の総額は確保するとの理屈だが、これが党内外の猛反発を招いた。本来なら38年になくなるはずの上乗せ分が延長される一方、1.0%分の使途を防衛費に限定(防衛特定財源化)すれば事実上、防衛費増額のための所得増税となるからだ。

安倍氏〝遺児〟たちのアピール合戦

 同案が表沙汰になると、野党では立憲民主党の安住淳国対委員長が「被災地に対する背信行為」と猛批判、日本維新の会の馬場伸幸代表は「あまりにもひどい発想」と酷評した。政府・与党内でも、自民の萩生田光一政調会長が「当面、国債発行も選択肢」と異論を述べ、高市早苗経済安全保障担当相はツイッターに「真意が理解できない」と書き込んだ。西村康稔経済産業相も「このタイミングでの増税は慎重にあるべきだ」と批判した。3氏は、いずれも故安倍晋三元首相の「腹心」を自任する内閣・党の要職者で、高市氏は「罷免も覚悟」とまで踏み込んで党内の安倍派議員の造反を誘発。その時点で「防衛増税」政局となった。

 ただ首相の最側近である宮沢氏が、15日に「防衛増税の無期限延期」とも解釈できる妥協案を示すと、状況は一変。論議の舞台となった税調会合は約2時間で宮沢氏に対応を一任し、騒ぎは沈静化した。妥協案は、増税対象として法人・所得・たばこの3税を列挙する一方、増税時期を「24年以降の適切な時期」として、最終決定を先送りしたのがポイントだ。

 16日には与党が23年度税制改正大綱を、政府が安保関連3文書の改定を相次いで機関決定し、政府・与党内の混乱はわずか1週間余で収束。首相は16日夜の記者会見で「国家・国民を守り抜く使命を果たす」と大見えを切り、自らの決断の正当性をアピールした。

 一連の経過を振り返ると、首相の「防衛増税」を攻撃したのはいわゆる〝安倍チルドレン〟ばかりで、「首相がかねて用意の妥協案で譲歩すると、あっという間に退散した」(岸田派若手)のが実態だ。「結局、安倍氏を信奉する〝遺児〟たちのアピール合戦」(同)に終わった格好で、永田町では「安倍派の内紛を利用した首相らの狡猾(こうかつ)なガス抜き作戦」(自民長老)との皮肉な見方も広がる。

(2023年1月2日掲載)

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