会員限定記事会員限定記事

低迷野党に終止符を打てるか? 立民と維新「呉越同舟」の本気度を探る

2023年03月26日

「1強多弱」に変わりなし

 岸田文雄首相は就任から1年半、衆参の両方の選挙を乗り切ったのに、漂流状態が続く。内閣支持率は2023年3月実施の時事通信の世論調査で29.9%だった。22年10月以来、連続6カ月の20%台だ。やや持ち直したものの、国民の岸田離れは止まっていない。

 といっても、現在の岸田政権の迷走は自滅・失点型で、野党側の攻勢・得点の成果と受け止める人は少ない。23年3月の時事調査で、各党の支持率は、野党第1党の立憲民主党が3.5%、第2党の日本維新の会は2.9%である。安倍晋三内閣時代の13年から約10年に及ぶ「自民党1強・弱体野党」という与野党の構図に変わりはない。

 立民の泉健太代表はインタビューで、21年10月の衆院選を振り返って「焼け野原」と自己分析し、22年7月の参院選も「負けた以上は零点」と断定した。「『野党第1党』と言われるが、複数の野党の群雄割拠の中での『比較第1党』」と自ら評した。

 1強下だが、実際には今も「政権交代可能な政党政治」の実現を望む有権者は少なくない。野党第1党の党首として、その期待に応えるために積極的に取り組む姿勢をアピールするのかと思ったら、野党第1党と呼ばれるのも重荷で迷惑、と言わんばかりである。現在48歳の泉代表は、将来を見据えて、今は力を蓄える時、と長期戦略に立っているのかもしれないが、それでは「名ばかりの党首か」という一部の冷評を覆すのは困難だろう。

立憲民主党・泉健太代表インタビュー

野党再編への期待感

 野党第2党の維新は、21年衆院選で41議席、22年参院選で12議席を獲得して躍進を印象づけた。馬場伸幸代表を23年1月に取材した際、「党の目標は」と尋ねると、「次の衆院選で野党第1党に」と明快に言い切った。「自民党とも立憲民主党とも是々非々で」と述べ、基本方針は不変と強調したが、国民民主党の前原誠司代表代行は取材に答えて、「馬場維新」について、「馬場代表は現実路線。岸田政権で『野党』の道を明確にしている」と解説し、「『非自民党・非共産党』の中道保守改革の緩やかなかたまりを」と期待感を示した。

 22年8月まで、立民と維新は双方とも認める「水と油」の関係だったが、周知のとおり、22年9月の臨時国会の開会から突然、「国会共闘」に踏み切った。両党は8項目で合意し、合意事項の多くを実現して、23年1月からの通常国会でも共闘を継続している。とはいえ、国会運営に限った限定的共闘であるのは疑いない。

 泉代表は「明確に呉越同舟だと言っている。連携して、自民党に強いプレッシャーを与えて政策の転換を促す」と説明した。維新はどうか。「憲法改正に懸けるわが党の本気度を見せるために自ら党の憲法調査会長を兼任した」と唱える馬場代表は、「立民は態度が変わってきた。岡田克也幹事長と安住淳国会対策委員長の体制になって、国会で憲法審査会を開くことに否定的ではなくなった」と評価し、立民との共闘を決めた理由の第一は「改憲議論の容認と推進」と力説している。泉代表は憲法問題について、「国民にとって必要性がある段階に至っていない」と「改憲不要」を明言した。文字どおり呉越同舟の限定共闘だが、同床異夢は明白で、両党連携の自然消滅を予想する声もある。

連立政権につながる可能性

 今後の共闘について、破談・解消という展開ではなく、さらに連携強化が進み、国会共闘にとどまらず、衆参の国政選挙での「選挙共闘」、さらに連立政権を視野に入れた「政権共闘」に進む展望はあるかどうか。選挙共闘については、泉、馬場の両代表とも口をそろえて「それは無理」と言う。ただし、両代表と近い前原氏は「あうんの呼吸で、水面下の選挙協力の調整を」と促している。その先の政権共闘では、泉代表は「先のことは誰も読めない」、馬場代表は「それはケース・バイ・ケース」と、それぞれ含みのある言葉を口にした。「一寸先はやみ」の政治の世界では、何が起こるか分からない。

 この場面で、立民と維新が「呉越同舟・同床異夢」を承知で連携に乗り出した計算はどこにあるのか。大胆に推理すると、「焼け野原」の立民の本音は、何よりも選挙での維新票の取り込みではないか。党勢拡大中の維新は、全国に無党派の維新支持層を抱えながら、候補擁立ができない選挙区が多数ある。そこでの選挙協力が立民の隠れた狙いと映る。

 一方の維新の着眼は、もちろん改憲作戦だろう。改憲挑戦には「衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成」という憲法上の国会発議要件の壁がある。現在、国会の改憲容認勢力は自民党、維新、公明党、国民民主党などだが、容認勢力ながら改憲に消極姿勢が見える公明党を除くと、衆議院では3党で発議要件ぎりぎり、参議院で14議席の不足という状況だ。維新とすれば、立民の中に潜在する「隠れ改憲派」の取り込み、いざとなれば改憲問題が引き金の立民の分裂、改憲勢力の総結集というシナリオを想定している可能性もある。

 改憲問題をわきに置いて、「政権交代可能な政党政治」という点に着目すると、1強の自民党に対抗するには、どうやって野党の大きなかたまりを生み出すかという「野党結集」がいつも中心テーマとなる。群雄割拠の野党の合従連衡という政党の組み合わせの議論ばかりに注目が集まるが、それよりも重要なのは民意の動向である。

新型の「緩やかな多党政治」

 確かに1強との対決では、野党結集によって生まれる「大野党」との「2強体制」に持ち込まなければ、「政権交代可能な政治」は絵に描いたもちに終わるという主張も有力だ。それでも政党側の思惑による民意軽視の「大野党」構想は成功しないと見る。

 日本の民意は現在、大きくとらえると、政治体制や国際的な同盟関係の在り方などの大きな枠組みの選択では合意点が多く、他方で個別の政策課題では、価値観の多様化で、民意も多様化の傾向が強い。だとすれば、現在の日本社会に最も適合する政党政治は、大きな枠組みで一致する3党以上の複数の政党が、個別の政策課題で互いに協力あるいは対抗し、連携によって多数を構成する勢力がケースに応じて政権を担うという構造ではないか。「伝統的な2大政党政治」よりも新型の「緩やかな多党政治」、2極よりも3極が民意の反映に有効となる場合が多い。

 3極だと、基本路線は「伝統的な保守・中道改革保守・リベラル」という選択肢が考えられるが、民意が変化すれば、より新しい図式が現実的となるに違いない。野党の新生と政党政治の再生のカギは、旧来型の発想と思考を超えて、民意に沿った「新しい野党」を創造し、その路線と政策、つまり「軸と旗」を国民に提示できるかどうかである。

 現在の日本政治は約10年ぶりの自民党弱体化という状況で、野党にとっては久しぶりの好機だ。「緩やかな多党政治」の形に持ち込み、「新しい野党」で1強打破の潮流を作り出すことができれば、政党政治は再生のスタートを切る。誰がその担い手となるか。

「焼け野原」からの再出発 立憲民主党・泉健太代表インタビュー

〔写真特集〕新党結成、政界再編の歴史

(2023年3月26日掲載)

令和の「空洞首相」は政権危機をどう乗り切るか? 2023年の政局を読む 塩田潮

【塩田潮の政局ナビ】記事一覧

塩田潮の政局ナビ バックナンバー

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ