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もうひとつの「オペレーションF」 中国警戒で防衛費6.8兆円 長射程弾配備へ、9年連続で過去最高更新

2023年03月30日12時00分

国際観艦式に参加した海上自衛隊のイージス艦「あしがら」=2022年11月、神奈川県沖の相模湾【時事通信社】

国際観艦式に参加した海上自衛隊のイージス艦「あしがら」=2022年11月、神奈川県沖の相模湾【時事通信社】

 経済再建と防衛力強化―この相容れない問題に挑む政治家や官僚たちの姿を描いた真山仁氏の最新連載小説「オペレーションF[フォース]」。現実世界でも北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返すなど緊張感は高まっており、岸田文雄首相も防衛関連予算の倍増を打ち出した。小説の内容がいよいよ本格化していく今、物語のテーマである防衛問題について政治部の防衛省担当記者が解説する。

【目次】
 ◇5年間で43兆円
 ◇国際公約だった防衛費増
 ◇米国からトマホーク調達
 ◇ミサイル防衛で新イージス艦
 ◇無人機、宇宙・サイバー、継戦能力


 2023年度当初予算の防衛費は、前年度当初比26.3%増の6兆8219億円(米軍再編経費などを含む)となった。防衛費は11年連続で増加し、9年連続で過去最大規模を更新した。中国が台湾に武力侵攻する「台湾有事」の可能性が指摘される中、今年度予算で整備する防衛力は、中国や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮などを警戒するものになった。

真山仁『オペレーションF[フォース]』バックナンバー(※第3回まで全文公開)

5年間で43兆円

 政府は22年末に「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を見直した。3文書は、日本政府として外交・安全保障政策の基本的な考え方、整備する装備品の内容をまとめたもので、戦略文書と言われる。

北京の天安門広場で行われた中国建国70周年の軍事パレード=2019年10月、中国・北京【AFP時事】

北京の天安門広場で行われた中国建国70周年の軍事パレード=2019年10月、中国・北京【AFP時事】

 安保戦略は中国について、国際秩序への「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述。台湾海峡を巡る問題についても言及し「台湾海峡の平和と安定について国際社会で急速に懸念が高まる」と明記した。防衛政策の具体的な取り組み方針をまとめた「国家防衛戦略」では、22年8月に中国の弾道ミサイルが先島諸島の与那国島(沖縄県与那国町)に近い日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことに触れ、「地域住民にとって脅威」とした。

 活動を活発化させる中国に備えるため、今後5年間の防衛費の総額、どのような装備品を購入するのかなどを明記した「防衛力整備計画」では、27年度までの5年間の防衛費総額を約43兆円とし、現行計画に比べ約1.5倍に増額する。安保戦略には、27年度に防衛費と研究開発など関連経費と合わせ、現在の国内総生産(GDP)比2%とする目標を掲げた。このGDP比2%という数字は、NATO(北大西洋条約機構)が米英仏など加盟国に求める防衛費水準として採用しているものと同じ数値だ。

国際公約だった防衛費増

 米国は台頭する中国について、「唯一の戦略的競争相手」として軍事的に押さえ込む戦略の立場だ。ただ、中国の国防費増加のペースは速く、公表された23年国防費は1兆5537億元(日本円で約31兆円)となり、この10年間で約2.2倍、30年間では約37倍の規模になっている。このままであれば、太平洋地域の軍事バランスは25年時点で「中国優位に傾くと見込まれる」との米軍の試算もある。

日米首脳会談に臨む岸田文雄首相(右)とバイデン大統領(左)=2022年5月、東京・元赤坂の迎賓館【時事通信社】

日米首脳会談に臨む岸田文雄首相(右)とバイデン大統領(左)=2022年5月、東京・元赤坂の迎賓館【時事通信社】

 そのため、米国は同盟国である日本に防衛力増強を求めてきた。岸田文雄首相は22年5月に来日したバイデン大統領との日米首脳会談で、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意」を伝え、バイデン氏は「強い支持」で応じた。これにより、防衛費増額が国際的な公約となり、その後、政府与党内で防衛費をどの程度まで増やすべきか、またその財源はどうするのかという議論が加速することになった。

米国からトマホーク調達

 整備計画に基づく初年度予算となる23年度予算について、浜田靖一防衛相は昨年12月の記者会見で「防衛力抜本的強化元年予算だ。これで終わりではない。まさに今、スタートラインに立ったところだ」と強調した。

 23年度予算の柱になっているのが、敵のミサイル拠点など軍事施設をたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)に活用する射程1000キロ超の「スタンド・オフ・ミサイル」の配備だ。スタンド・オフ・ミサイルとは、敵の射程圏外からでも攻撃できる射程距離の長いミサイルのことを指す。

米艦から発射される巡航ミサイル「トマホーク」=2011年3月、地中海【AFP時事】

米艦から発射される巡航ミサイル「トマホーク」=2011年3月、地中海【AFP時事】

 整備計画では27年度までの5年間で約5兆円を長射程ミサイル関連経費として想定している。

 国産の長射程ミサイル開発と平行して、既存の外国産ミサイルを購入し、配備を行う。湾岸戦争などで米軍が使用した米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得のために2113億円を計上。最大400発を購入し、26年度からの海上自衛隊のイージス艦への搭載を目指す。

 トマホークは射程約1600キロで、防衛省幹部は「購入するのは米軍も使用している最新型のものだ」と説明する。ただ、トマホークの購入単価は非公表だ。

 反撃能力の保有としてはこの他、国産で、地上の発射装置から敵の艦艇を攻撃するミサイル「12式地対艦誘導弾」の射程を1000キロ超に伸ばす能力向上型の開発に338億円、量産に939億円を充てた。これについても防衛省は26年度からの部隊での実用化を目指している。

陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の発射装置=2022年8月、鹿児島県奄美市【時事通信社】

陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の発射装置=2022年8月、鹿児島県奄美市【時事通信社】

 ただ、12式地対艦誘導弾の長射程化は現在開発中で、予定通り進む確証はない。国産ミサイル配備が遅れることも想定し、既に実用化されているトマホークの配備も決断した。

 国産の長射程ミサイルの具体的な配備先について浜田防衛相は「まだ決まっていない」と説明する。しかし、中国の軍事的活動を警戒したミサイル配備となるため、沖縄本島を含む南西諸島に配備される可能性が高い。

 また、中国の動きをにらんだ「島しょ防衛用高速滑空弾」の開発費2003億円、音速の5倍以上の速度で飛行する「極超音速誘導弾」の研究費585億円を盛り込んだ。

ミサイル防衛で新イージス艦

 防衛省の発表では、22年の北朝鮮によるミサイル発射は37回(巡航ミサイル含む)、少なくとも73発で、いずれも過去最多だった。

北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射訓練=2023年3月【朝鮮通信=時事】

北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射訓練=2023年3月【朝鮮通信=時事】

 23年度予算では「統合防空ミサイル防衛」として、新イージス艦建造などに取り組む。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替として建造する「イージス・システム搭載艦」2隻のエンジンなど構成品の取得費用として2208億円を盛り込んだ。

 イージス艦は、ミサイルなど空からの攻撃に対し、高性能のレーダーで飛行経路を分析し、標的を迎撃する能力があるイージスシステムを搭載した艦艇のことをいう。

 新イージス艦は1隻目を27年度末、2隻目を28年度末に、それぞれ就役させる方針だ。当初は、全長210メートル程度、幅40メートル程度で、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」型に匹敵する大きさで検討が進んでいた。しかし、大き過ぎて機動性に欠ける「令和の戦艦大和」との批判も出ており、防衛省幹部は「当初計画より小型化する。小型化による、必要な航行速度が確保できる」と述べ、計画変更を行う。

無人機、宇宙・サイバー、継戦能力

ウクライナ東部バフムト近郊で、ロシア側の展開を探るドローンを飛ばすウクライナ兵=2023年3月【AFP時事】

ウクライナ東部バフムト近郊で、ロシア側の展開を探るドローンを飛ばすウクライナ兵=2023年3月【AFP時事】

 ロシアのウクライナ侵攻では、ロシア、ウクライナ両軍とも多数の無人機を戦闘に投入しているとされる。防衛省幹部も「無人機は革新的なゲームチェンジャーになる」と位置付け、23年度予算では攻撃型の無人機として、ミサイルを積めるドローンなどの取得に99億円を計上した。

 宇宙領域での活動を強化するため、衛星を使って極超音速滑空兵器を宇宙から探知・追尾する技術の実証に46億円を充てる。サイバー人材を育成するため、陸上自衛隊通信学校を「陸上自衛隊システム通信・サイバー学校(仮称)」に再編する経費として2億円とした。

 部品不足を解消するため装備品の維持整備費に前年度比1.8倍の2兆355億円、弾薬の取得に同3.3倍となる8283億円を計上した。反撃能力に活用する長射程ミサイルなどの弾薬確保に必要な企業の製造ラインを強化するため1618億円、大型となる長射程ミサイルを補完するための火薬庫確保に58億円を見積もる。

 この他、老朽化した自衛隊の施設の建て替えや耐震化のため868億円を積んだ。防衛産業強化では400億円で基金を創設し、装備の海外移転を支援する。(時事通信政治部 島矢貴典)

(2023年3月30日掲載)

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