子育ての際の欠かせないツールとなっている動画視聴。乳幼児でも安心して見せられる動画の種類は豊富で、食事の準備や在宅勤務中など、動画は親の強い味方になってくれる。スマートフォンなら外出先でも手軽に見せられる。だけど、子守り代わりに動画を見せることには、「育児が動画任せになっていないか」と、罪悪感や後ろめたさが胸の奥にくすぶる。便利だが、親にとってはモヤモヤも付きまとうツール。上手に付き合っていくにはどうすればいいのだろう。各方面の専門家に話を聞いた。(時事通信経済部・早川奈里)
「依存しないか心配」
3歳の娘を育てている千葉県の30代会社員女性は、刃物があるキッチンに子どもが入らないよう、夕食の準備の間にタブレット端末で動画を見せている。お気に入りのキャラクターが登場する動画がお気に入りで、料理が完成して動画を止めようとすると「もっと見たい」と激しくだだをこねることも。「動画に合わせて歌う様子はかわいい」と目を細めつつ、動画を見せ続けることには「依存しないか心配」とこぼす。
5歳の子どもを持つ会社員男性は1日15分程度と決め、仕事や家事の最中など必要な時に最低限の視聴にとどめさせている。「動画を長時間見せることには抵抗がある」と話し、「時間を区切るなど自覚的、積極的な配慮が必要」と話す。
動画視聴サービス「Amazonプライムビデオ」で動画を1歳半の子どもに見せているという別の会社員男性は「本当は見せたくない」と話す。絵本や知育玩具を活用したいとの思いもあるが、「共働きで時間に追われることが多く、家事の最中など動画を見せざるを得ない状況がある」という。
デジタルマーケティング支援会社DearOne(ディアワン、東京)のアプリ市場分析サービス「SmaRepo(スマレポ)」の今年6月の統計データによると、「YouTube Kids」や「Amazon Kids+」といった子ども向け動画アプリの利用時間は、朝方と夜6時から8時ごろに大きく上昇する。出勤前や退勤・帰宅後など、親が慌ただしく過ごしている時間帯の利用が多いことをうかがわせる。
動画アプリ、続々
共働き家庭の増加に加え、近年は新型コロナウイルスによる外出自粛で「おうち時間」が増えたこともあり、子ども向けの動画視聴アプリは増加。上記の「YouTube Kids」や「Amazon Kids+」などは、暴力表現を含むものなど子どもにふさわしくない動画の閲覧を制限したり、視聴できる時間をあらかじめ設定できたりと、親の不安解消に応えるようなさまざま機能を用意している。
2021年にサービスを開始した動画アプリ「Meecha!(ミーチャ、現こどもちゃれんじTV)」の立ち上げを担当したベネッセコーポレーションの田中雄一郎さんは「動画は言葉がわからなくても目で見てキャラクターの動作や指示が分かり、子どもは多くの知識を得られる」と、動画が持つ教育的な側面の大きさをを指摘する。だが、「兄弟や友だちとの社会性を持った遊びも大切だ」とも強調し、「こうした学びの機会が失われないよう、動画視聴を制限することは必要だ」と話す。
「こどもちゃれんじTV」は長時間視聴を避けるため、一定時間を超えるとアラームで知らせる機能を付けた。アラームは10分刻みで設定できる。田中さんは「幼児は(視聴制限を)すぐに納得できないケースもあるが、『あと1回ね』『ここまで見たら続きはあした』など、親子でコミュニケーションしながら家庭ごとのルールを考えられるようにした」。また、提供する動画の一部は、登場するキャラクターが子どもに向かって手拍子などの動作を呼び掛けるなど、子どもが画面を凝視し続けない工夫をしているそうだ。
目への負担に注意、心がけることは
ベネッセの調査研究機関、ベネッセ教育総合研究所は、子どもと動画などメディアとの接し方についての調査結果をまとめ、ウェブ上で公開している。外遊びなど、他の活動とのバランスを考え、視聴時間は1回30分程度、1日当たり最長でも1~2時間未満を推奨。また、目の負担を軽減するため、視聴時は明るい場所で、スマホなどの小さい画面よりもテレビなどなるべく大きな画面で見ることを勧めている。
乳幼児の発達メカニズムに詳しい東京大学大学院情報学環の開一夫教授は、「子どもにとって動画視聴の善し悪しの分析は、データを取得する研究者側のバイアスが掛かりやすい」と、一概に善悪は判断できないと説明する。ただ、親の関心は動画内容が子どもにとって有益かどうかに向かうことが多いが、「肝心なのは、親子が一緒に動画を視聴する時間を少しでも作ること」だと話す。
子どもが選ぶ動画を通じ、親は「子どもの好き嫌いや関心、変化を知ることができ、いろいろな遊びのきっかけにもなる」。動画視聴の是非や内容より、視聴の仕方に気を付けたり、工夫したりすることのほうが大切との考えを示した。
おもちゃ遊びに誘うには
受け身になりがちな動画視聴だけではなく、おもちゃでも遊んでリアルな体験を積んでほしいと思う親も多いはず。でも、おもちゃ遊びより、動画に夢中になってしまう子どもにはどう接したらいいのだろう。日本知育玩具協会の知育玩具マイスター、出口博也さんは「おもちゃを与えるだけではなく、具体的にどう遊ぶのかを大人が一緒に遊んで伝えることが大切」と話す。親が「手伝って」などと呼び掛けて子どもに挑戦させ、達成感につなげることで、次第に子ども自ら夢中になって遊ぶようになるという。
出口さん自身も、以前は長男(4)が「ユーチューブ」で長時間動画を見たがることに頭を悩ませていたが、今では動画を見ることはなくなった。子どもにとって良いおもちゃとは、「発達段階や興味に沿っているか、子どもの想像力を広げ、実現したいことをかなえられるかどうか」。子どもが興味を示さないのは、遊び方が分からなかったり、まだそのおもちゃで遊ぶ発達段階に達していない可能性もあるそうだ。
例えば人形は、「親に世話してもらった経験を子どもが再現する相手」なので、世話をしてもらう経験を重ねて自分も誰かをお世話したい、と子どもが考えるようになる時間が必要だという。人形を選ぶ時は、笑っているようにも泣いているようにも見えるものがいろいろな場面を再現できるため良いそうだ。
同協会では保育士や親を対象に、おもちゃ選びや使い方、適切な与え方を学ぶ講座を首都圏やオンラインで開いている。藤田篤代表理事は「おもちゃは『ごほうび』ではなく、知的好奇心を高める教科書」だと指摘し、「おもちゃを通じて、子どもの興味や変化をキャッチできるようになると、親も楽しくなるはず」と話している。
「与えっぱなし」に反省
2歳になる筆者の娘が毎日動画を見たがるようになり、他の家庭の様子を友人・知人に聞いてみたところ、同じようにモヤモヤを抱えている家庭が多いことに気付いたことが取材のきっかけだった。動画ばかりでおもちゃに誘導しようとしても遊んでくれないと頭を抱えていたが、動画もおもちゃも「与えっぱなし」になっていたのかも、と今では反省している。
親世代は、子どもがテレビにかじりついてばかりと悩んでいたようだが、動画アプリなどに置き換わっただけだと考えると、今も昔も悩みは同じだったのかもしれない。「一緒に楽しむ」を実践しようと、取材後、家事をしながら娘がよく動画で見ている童謡を歌ったところ、娘も嬉しそうに歌いだし踊りまで見せてくれた。
動画との付き合い方はまだ手探りだが、限られた時間の中でも工夫次第でコミュニケーションを深めることはできそうだと気づかされた。(了)