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あらゆるトラブルを想定◆最新シミュレーターでP1哨戒機を「操縦」してきた【自衛隊探訪記】

2023年11月11日08時30分

 海上自衛隊がP3C哨戒機の後継として配備を進めている国産哨戒機「P1」。そのパイロット育成のために導入された最新シミュレーターが報道公開された。上昇、左旋回、着陸ー。操縦桿(かん)を操っての訓練を体験リポートする。(時事通信社会部 釜本寛之)※末尾に動画があります。

 【自衛隊探訪記】

P1切り替え向け、乗員養成 

 訪れたのは、千葉県柏市にある海自下総航空基地。哨戒機の搭乗員を養成する教育隊があり、初期過程を終えた隊員が、パイロットや、探知機器を操る戦術航空士、ソナー士などになるための研修を受ける。

 シミュレーターは川崎重工製の「オペレーショナルフライトトレーナー」(OFT)で、価格は非公表とされている。導入はP1配備済みの厚木基地(神奈川)、鹿屋基地(鹿児島)に続き3基地目だが、新人育成用としては初めてだ。

 OFTは幅約6.9メートル、全高7.7メートル。半球と箱を組み合わせたような形状のブースが、いわゆるコックピットで、6本の脚に支えられている。脚はコックピットの操縦桿と連動しており、圧縮空気で伸び縮みしてブースの向きを変える。最大上昇角は約40度、左右の翼の傾きを示すロール角は約30度で、実機を操縦したときとほぼ同じ動きを再現できるという。

アナログからデジタルへ、進化実感

 ブースの中に入った。操縦席周囲には大小さまざまな液晶画面があり、高度などを示す計器類のデータが表示されている。主要情報を目の前の画面に表示するヘッドアップディスプレーもあった。記者はP3Cに搭乗させてもらったことがあるが、アナログな丸形のタコメーターやスイッチ類が所狭しと並んでいたP3Cからは何世代も進化した印象だ。 

 操縦席は2席並んでおり、その後方に、装置の操作や指示を出す教官用の席がある。教官席の前の画面には、レーダーや操縦席から見える風景などが映し出されている。 

 「それでは訓練を始めますね」。うながされ、左側の操縦席に座った。右隣の指導役の声に従い、シート位置を合わせてペダルに足を乗せる。装置が起動した途端、席が揺れ、ふわっと浮いているような感覚を覚えた。窓の外の景色が、まるで上空から眺めているような風景に切り替わる。エンジンの駆動音が聞こえ、振動も伝わってきた。本当に飛んでいるようだ。

自由飛行から着陸を体験するも…

 記者が臨んだのは、空港への着陸訓練だ。前方に小さく、下総基地の滑走路が見え、眼下には町並みが広がる。「まだ距離があるので、自由に操縦してみてください」との声を受け、操縦桿を動かしてみた。手前に引いて上昇し、左に旋回。恐る恐る、ゆっくりと動かしたが、それでもG(重力)を感じる。正面だけでなく左右の窓から見える風景も一体で動いた。

 着陸態勢に入った。滑走路両脇の信号灯の色、高度、傾斜はー。かつてP3C搭乗時に取材したことを思い出しながら計器を確認し、操縦桿を倒す。「上手です。そのまままっすぐで完璧ですよ」。それ本当? おだてているだけでしょ? とにかく慎重に、慎重にー。ランディングの瞬間、ドンと衝撃が突き上げた。

 後はブレーキをかけるだけのはずが、ペダルを踏めども踏めども、手応えがない。「足の置き場所を間違えていませんか?」。後部に座った教官から指摘され、ふと足元に視線を移した。よそ見だ。あれよと言う間に機首が右側によれた。慌てて立て直そうにも、とき既に遅し。機体は滑走路を飛び出す一歩手前で止まり、指導役から「残念、外れてしまいましたね」と声が掛かった。

「あり得ない」状況に備える

 後部に乗っていた教官に話を聞いた。教官は実際にP1を操縦したことがあるそうだが、「(OFTは)本当に細かな癖まで操作感覚を再現している。訓練の中心は、実機からシミュレーターに移っていく」と断言した。エンジン爆発、機器のダウン、モンスター台風の発生ー。そんな状況も訓練できることが大きいという。

 海自によると、下総基地では、毎年、将来のソナー士や整備士ら数百人が研修を受ける。そのうち35人程度が、パイロット候補生で、無事終えれば、操縦資格を示す「ウイングマーク」を得て空を飛べるようになる。候補生にとって、下総基地での訓練は最後の試練だが、実際に哨戒機に乗れば、思ってもみない危険にさらされるかもしれない。「どんなことが起きても、もっとハードな状況を経験していれば落ち着いて対応できる」。力強く語る教官の言葉に、未来のパイロットたちを預かる重みを感じた。

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