腕時計と言えば、ぜんまいで動く機械式や通信機能が付いたスマートウオッチが注目され、電池で動くクオーツ腕時計の影は薄くなってしまったように見える。だが、クオーツは時間精度や価格など優れた点が多く、世界で根強い需要がある。クオーツ腕時計の魅力に迫ってみたい。(時事通信社経済部 隈部雅也)
日本の技術、世界に
クオーツ時計は、水晶(クオーツ)で作られた「水晶振動子」という部品を搭載した時計。水晶には電気エネルギーを与えると一定の周期で振動する性質がある。クオーツ時計はこの振動を電子回路で変換し、規則正しく時間を刻めるように作られている。
クオーツ腕時計を世界で初めて発売したのは、服部時計店(現セイコーウオッチ)だ。既に技術は開発されていたが、部品のサイズが大きく、腕時計に向かなかった。同社は小型化に挑み、1969年に「クオーツ アストロン」に結実させた。それまで主流はぜんまいを使って時を刻む機械式だった。クオーツは時間精度で大きく上回り、その後爆発的に需要を拡大させて世界市場を制した。
クオーツ腕時計の技術革新は止まらず、93年にはシチズン時計が電波を受信して時刻を修正する「電波時計」を多局受信型としては世界で初めて発売した。当初はアンテナが表面に露出した不格好なデザインだったが、2003年にフルメタルのアンテナ内蔵型を発売。当時時計の売り上げが低調だった同社が「息を吹き返す」(広報)ほどのヒット商品になった。12年にはセイコーウオッチも、全地球測位システム(GPS)衛星からの電波を活用し、世界中どこでも現在地の正確な時刻を即座に表示できる世界初の腕時計「セイコー アストロン」を実用化した。
太陽電池で充電も
機械式に対するクオーツの優位性は正確性だろう。「耐衝撃構造」の腕時計「G―SHOCK」を展開するカシオ計算機は「クオーツは時間の精度や実用性という面で価値がある」(広報)と指摘する。
価格面でも魅力がある。機械式は職人が作り上げた精巧な工芸品で、数千万円という高額品もある。クオーツは一般的に安い価格で売られている。機械式で有名なスイスでも輸出数量はクオーツが多いという。スイス時計協会FHの中野綾子東京センター所長は「機械式に比べ安価で、若い人たちが手に取りやすい製品も豊富だ」と話す。
スイスのスウォッチグループは22年3月、高級ブランド「オメガ」の機械式腕時計「スピードマスター ムーンウォッチ」のデザインを模したクオーツ腕時計「ムーンスウォッチ」を発売。価格が3万3550円(発売当時)と手頃なこともあり、同年中に販売本数が100万本を突破した。
電池が切れたら使えないというクオーツの弱点をカバーしたのが、太陽電池を搭載した商品。シチズン時計は76年、世界で初めて太陽電池搭載のアナログ式クオーツ腕時計「クリストロン ソーラーセル」を発売。同社は「(電子処理が必要な)電波、GPS、ソーラーなどの機能をプラスできるのは(電池を使う)クオーツならでは」と説明する。
デザインに多様性
スマートウオッチは、水晶振動子を使用している点でクオーツ腕時計の一種と言える。時間表示だけではなく、スマートフォンと連携して健康管理やメッセージのやりとり、買い物の決済などができ、利便性でクオーツや機械式を圧倒する。
ただ、多くのスマートウオッチが1日か2日に一度充電が必要なのに対し、一般的なクオーツ腕時計なら数年間は電池交換が不要で、太陽電池で動くタイプもある。
クオーツはデザインも多様だ。針で時刻を示すアナログ式があれば、数字で示すデジタル式もある。外観や文字盤の色、バンドの素材なども多種多様で、着ける人の個性を表現できる。シチズン時計広報は「機能だけではコモディティー(安い普及品)化してしまう」と指摘する。
個性で勝負
日本時計協会によると、クオーツ腕時計の世界生産数はコロナ禍前の19年に推定12億8600万個。10年の同14億3500万個から減少傾向にある。スマートフォン普及などが背景にあり、協会は「長期的に見れば数量減少が継続している」とみる。
ただ、個性的なデザインで比較的高価格のクオーツ腕時計の売り上げは伸びているという。カシオ計算機のクオーツ腕時計「ОCEANUS(オシアナス)」は、海や青色をテーマにしたスポーティーなデザインが特徴で、「個性を表現できる情緒的な価値がある」(広報)とアピールする。オシアナスの「OCW―S7000C」は、文字盤周りの部品に4パターンのレーザー加工で施された模様が特徴的だ。
シチズン時計でも、個性的なデザインの商品が人気を集めている。主力ブランドの「シチズン アテッサ」では、見る角度で色が変わる構造色を用いた「HAKUTO―Rコラボレーションモデル」の売れ行きが好調という。同社は「30~40代男性の需要が戻っている」と話し、クオーツ復権に期待をかけている。