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最新「F35C」発艦!オスプレイで米空母「カール・ビンソン」へ【自衛隊探訪記】

2023年11月20日11時30分

 海上自衛隊の大規模演習の一環で行われた海自と米国、オーストラリア、カナダ各国海軍との合同会見を取材する機会があり、会場となった米空母「カール・ビンソン」に乗艦した。米空母への乗艦は「ロナルド・レーガン」に続き2回目で、今回は空母仕様の輸送機「オスプレイ」で甲板へ向かった。前半でオスプレイ内の様子を、後半でカール・ビンソン艦載機の発艦訓練などをリポートする。(時事通信社会部 釜本寛之)※末尾に動画があります。

 【自衛隊探訪記】

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空母用オスプレイは特別仕様 

 2023年11月11日午前6時すぎ。集合場所の海自の厚木航空基地は急な冷え込みに襲われ、薄手のコートを着ていてもかなり肌寒い。基地は米海軍との共用で、米側のセキュリティーチェックも受けて中に入る。 

 ロナルド・レーガンへは、ここから年代物の輸送機「C2グレイハウンド」で向かったが、今回利用したのは新型の「CMV22オスプレイ」だ。オスプレイは陸上自衛隊にもあるが、空母で利用する米海軍型は燃料タンクが増設されており、航続距離は約1.5倍。陸地と洋上の空母とを往復することを想定したもので、通信機能なども強化されているという。 

 カール・ビンソンの現在地はレーガンのときと同様、秘密だったが、「向こうに着いたら暖かいよ」「飛行時間は約2時間」とのこと。オスプレイの最高速度(約500キロ)から、1000キロ弱南方の太平洋上と見当を付けた。

 後方は、やはり開けっ放し 

 安全に関する説明を受け、サバイバルキットなどが付いた救命胴衣とヘルメットを着用した。ヘルメットはゴーグルや防音用のイヤーカバーが一体となったタイプ。滑走路上では、プロペラがほこりなどを舞い上げるため、ゴーグルを外さないよう注意された。後部ハッチからオスプレイに乗り込む。暖房が効いていて暖かい。4点式のシートベルトを着けると、すぐに機体が動き始めた。 

 座席は横並びで、報道陣は機体左右に分かれ、向かい合わせに座った。搭乗員から「加速で肩がぶつかるから、けんかしないようお気に入りの人の隣に座ってね」とユーモラスな説明を受けたが、その言葉通り、ヘリコプターモードから航空機モードに変わって速度が増した途端、隣の記者がぐっと寄りかかってきた。 

 陸自オスプレイは後方の警戒監視などのため、後部ハッチを半分開けたまま飛行していたが、艦載型も同様にハッチを半開きにしていた。上昇中は基地の滑走路や町並みが真下に見え、かなり怖い。雲を抜け、海上に出た辺りで水平飛行に移った。このまま高度1000フィート(約300メートル)くらいを飛ぶという。 

 困ったのは強烈な冷気だ。開けっ放しのハッチから容赦なく外気が入ってきて、暖房はほとんど意味をなさない。保温下着を着てこなかったことを後悔しつつ回りを見ると、米軍関係者は膝にジャケットなどを掛けていた。

着艦直前に急旋回「事故かと思った」 

 約2時間後、搭乗員が作業を始め、機内がにわかに騒がしくなった。ハッチの向こうに、どこかの国の艦艇が見える。高度が下がり始め、雲の下に出ると、吹き込んでくる空気が急に暖かくなった。

 あれがカール・ビンソンかな? カメラを取り出した瞬間、急旋回しながら降下を始めた。ハッチから見える景色が斜めになり、飛ぶように流れていく。体は重力加速度(G)で座席に押しつけられた。構えたカメラはまるで鉄アレイのように重くなり、撮影どころでない。 

 少し時間を置き、もう一度急旋回した。その後、垂直離着陸モードに変わったのか、速度が落ちた。だんだんと甲板が近づいてくる。着艦。報道陣の何人かは酔ってしまったようだ。青い顔でぐったりしており、「事故かと思って覚悟した」とこぼす記者もいた。 

 急旋回は航空機モードの速度を速やかに落とすための動作で、「普通の飛行」だそうだ。戦闘機なども、着陸ぎりぎりまで速度を維持し、空港直近で急旋回して一気に減速するという。

ビュッフェで昼食、名物はクッキー!?

 カール・ビンソン甲板には戦闘機やヘリがずらりと並んでいた。ロナルド・レーガンとの違いは、最新鋭戦闘機「F35」があること。艦載型の「F35C」の主翼と尾翼は、自衛隊も保有する「F35A」や、近く導入する「F35B」より大きく、途中で折りたためるようになっている。 

 艦内のニュースセンターが報道陣の控室だった。本格的なスタジオで、艦長メッセージや行事などを紹介する自主製作ニュースを放映しているという。階段や扉をいくつも抜け、海自の自衛艦隊司令官や米第7艦隊司令官、オーストラリア、カナダ各海軍の代表者の共同会見場となった格納庫へ向かった。

 会見後は艦内食堂で昼食だ。代金は6ドル85セント。日本円で1000円を超える。ビュッフェ形式で、料理はバラエティー豊か。フライドチキンは、握り拳くらいの大きさがあった。ボリュームは米兵仕様かと思ったが、周囲のテーブルを見回せば、控えめな乗組員が大半。たっぷりの生野菜の上にチキンを一つ乗せただけの乗組員もいた。ただ、デザートはしっかり食べるよう。コーナーには行列ができており、女性乗組員から「この船はクッキーが名物なのよ」と勧められた。 

爆音と風圧、一拍遅れて熱と焦げたにおい

 昼食を終え、改めてヘルメットと緊急用のベストを身に着けた。発着艦訓練の取材だ。ベストの背部には穴が開いており、米担当者から「興奮して機体に近づきすぎると、穴をつかんで引き戻すからね」と声を掛けられた。 

 甲板では、艦載機の発艦が始まっていた。ロナルド・レーガンの甲板取材では、記者説明のため、1機1機間隔を取りながら発艦していたが、カール・ビンソンでは「FA18スーパーホーネット」や「EA18Gグラウラー」が二つのカタパルトを交互に利用し、短い間隔で飛び立っていく。 

 F35Cの番だ。エンジン音が大きい。カタパルトの準備が整うと、機体は一瞬で加速し、上空かなたへ。耳栓とヘルメットのイヤーカバーがあっても響く爆音と、体があおられるほどの風圧。一拍置いて、エンジンの熱と焦げたような臭いが押し寄せた。 

 この後、後部甲板に移動して着艦の様子を取材したが、この間、カール・ビンソンのすぐ隣を海自の護衛艦「ひゅうが」が航行していた。全長約200メートルの「空母型」の船体は海自では大型でも、米空母と並ぶと小さく見える。ひゅうがより大きい護衛艦「いずも」と「かが」は「F35B」の運用に向け改装中だ。

オスプレイが垂直離陸しなかった理由

 4時間余りの取材時間はあっという間に過ぎ、再びオスプレイがエンジンを回し始めた。救命胴衣を着け、機内へ。今回の取材は共同会見がカール・ビンソンで行われたことに伴うもの。ロナルド・レーガンでは可能だった艦内取材ができないまま帰路に就く。 

 シートに座りベルトを着けた。輸送機C2グレイハウントで移動したレーガン取材からの帰路と違い、カタパルトは使わない。オスプレイは垂直離着陸可能。ソフトな離艦を予想していたが、通常の飛行機のように急加速して浮き上がった。カタパルトほどではないが、かなりのGで、横の人と肩がぶつかった。しばらくして、半開きの後部ハッチの向こうに遠ざかるカール・ビンソンが見えた。 

 発艦時の急加速の理由はー。厚木基地に戻ってからの質問に、米軍の女性パイロットは豪快に笑いながら答えた。「人数が多くて重いときは勢いつけて飛び立った方が、燃料のロスが少ないの。いいフライトだったでしょ、楽しめた?」

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