米メジャーリーグ・サッカー(MLS)のロサンゼルス・ギャラクシーに移籍したDF吉田麻也が、デビュー戦で輝きを放った。8月26日、ホームタウンの米カリフォルニア州カーソンで行われたシカゴ・ファイア戦。移籍後初出場となった試合にセンターバックでフル出場し、先制点に絡むなど3―0の勝利に貢献した。「チームとしても、個人としてもいい形で入れた」。長く欧州でプレーを続け、米デビューの直前に35歳となった元日本代表主将の新天地での挑戦が始まった。(時事通信ロサンゼルス特派員 峯岸弘行)
試合終了の瞬間を迎えると、吉田はホッとしたように笑みを浮かべた。デビュー戦でフル出場し、チームは快勝。「90分を戦う試合からかなり遠ざかっていたので、体力面や試合の感覚というのは多少不安があった。なるべくシンプルにプレーしようと心掛けた」と振り返った。
守備の要として最後まで得点を許さなかった。相手FWがスピードに乗って攻め込んできても、冷静に対応。高さを生かしてクリアする場面もあり、攻撃の芽を摘んだ。味方がピンチを招いた後にはジェスチャーを交え、大きな声で意見を伝える熱い姿勢も。若い選手が多い中で、経験豊富なベテランが存在感を発揮した。
「話してくれるし、聞いてくれる」
CKやゴールにつながりそうなFKでは、常にゴール前で待ち構えた。前半29分のFKは相手選手とヘディングで競り合い、こぼれ球をボイドが決めて先制。「セットプレーはここ数日(練習で)かなり時間を要してやっていたので、チャンスはあると思っていた。僕のところにはマークがちゃんとついていたけど、(味方が)うまく合わせてくれた」とうなずいた。
バニー監督は「いいデビュー戦だった。マヤを迎えられてうれしい」と評価。守備で連係するGKボンドは「きょうのプレーは最高だった。素晴らしい経験があり、チームにいい影響を及ぼしてくれる。彼は話してくれるし、聞いてくれる」と笑顔で語った。
終盤のミスを減らすために
試合後の記者会見に登場すると、「英語、イタリア語、ドイツ語、日本語。どれでも大丈夫です」。欧州のリーグを渡り歩いた経験を踏まえ、ユーモアも交えた英語による第一声。それが地元メディアの表情を緩ませた。その後も英語で「しっかりと準備できた」「初戦というのは、いつも簡単ではない」「最後に90分プレーしてからは3カ月以上経過していた」「相手にレッドカードが出てからプレーしやすくなった」などと自分の言葉で的確に伝えた。
ロサンゼルス・ギャラクシーに加入するにあたり、映像でチーム状況を確認してきた。「終盤に失点する傾向にあった。あとは、ゲームを支配しているんだけど追加点を取れなくて、自分たちのミスから崩れてしまうところが多くあった」。いかに終盤のミスを減らしていくかがテーマ。「大人のサッカーというか、より巧みなサッカーで試合を締めないといけない。そこを監督に求められていると思うので、改善していきたい」。リーダーシップを発揮し、守備陣を引っ張っていく考えだ。
審判の傾向「学んでいかないと」
6月にドイツ1部リーグのシャルケを退団し、勝負の舞台を欧州から米国に移した。これまでとの違いはいくつもあるが、吉田が真っ先に挙げたのは判定。「審判の違いは特に大きくて、イタリアに近いと思う。結構笛を吹く傾向にある。ディフェンスなので気をつけないといけない」と肌で感じた。
世界を舞台に戦ってきただけに、「きょうの審判は代表戦でも何度かやっているので、よく知っていた」という。ただ、「基準が若干違うのかなと思った。気をつけないといけないし、学んでいかないといけない」とMLSの審判について分析した。
新たな環境に胸躍らせて
四大スポーツ(アメリカンフットボール=NFL、バスケットボール=NBA、野球=MLB、アイスホッケー=NHL)に比べれば、米国でのMLSの人気はまだ、そこまで高くないかもしれない。ただ、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(36)がインテル・マイアミに加入するなど注目度は上がっている。ロサンゼルス・ギャラクシーの本拠地には2万人近くの熱狂的なファンが集まり、吉田への歓声も大きい。
Jリーグ1部(J1)の名古屋から21歳でオランダ1部リーグのVVVフェンロに移籍。その後イングランド・プレミアリーグのサウサンプトン、イタリア1部のサンプドリア、そしてシャルケでプレーしてきた。10年以上の経験を積んだ欧州サッカーからMLSへ。「雰囲気はやっぱり欧州とは違う。それはそれで別のものと捉えて、こういうものを経験しに来ていると思っている。チームごとに色があると思うので、アウェーに行くのが楽しみ」と新たな環境に胸を躍らせている。
日本代表復帰にも意欲
吉田は日本代表としてワールドカップ(W杯)に3大会連続出場。1次リーグでドイツ、スペインの強豪を撃破する快進撃を見せた昨年のW杯カタール大会では主将を務めた。その後、代表からは離れているが、ロサンゼルス・ギャラクシーの入団会見では代表復帰に意欲を示した。米国はカナダ、メキシコと共に2026年W杯を開催する。MLSで経験を積むことは、次回のW杯出場にプラスに働くこともあるはずだ。
MLSデビュー戦に続き、8月30日はアウェーのサンノゼ・アースクエークス戦でフル出場。チームは3―2で逆転勝ちした。0―0の引き分けだった9月2日のホームでのヒューストン・ダイナモ戦でもフル出場。チーム加入後は2勝1分けとほぼ順調に推移しているが、取り組むべき課題もたくさんある。「チームメートのことや、チームのやりたいサッカーをもっと理解しないといけない。リーグの特徴も、もっともっと理解していかないといけない」。慣れないこと、難しいこともあるはず。それでも吉田の表情は明るく、新たな船出を楽しんでいるようにも見える。