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ラグビー日本代表、「FB松島幸太朗」でジョセフHCが示したワールドカップへの覚悟

2023年09月06日11時00分

 ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会が9月8日、開幕する。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ率いる日本代表は自国開催の4年前に続く1次リーグ突破を狙うが、今年の実戦は6試合で1勝5敗。チーム状態を不安視する声が高まる中、大会後に退任するジョセフ氏はどんな戦略を描いているのか。2016年秋に就任してから7年、「ジョセフ・ジャパン」にとって総決算の舞台を迎える。(時事通信運動部 鈴木雄大)

山中ではなく松島

 8月15日のW杯メンバー発表で、一番のサプライズはFB山中亮平(神戸)の落選だった。松島幸太朗(東京SG)とのポジション争いに敗れ、控えとしてもFBしかできない点がマイナス評価に。19年W杯で8強入りに貢献し、その後もレギュラー格であり続けた35歳。今年の試合も極端にパフォーマンスが落ちたわけではなかった。しかし、ジョセフ氏は「FBの1番手は松島」と迷いなく言った。

 188センチの長身でロングキックが武器の山中は、陣取り合戦となれば大いに力を発揮するタイプ。一方の松島は俊足のトライゲッター。グラウンドの広い範囲を動き回り、積極的にライン攻撃に参加する。プレースタイルは対照的。2人いれば戦術の幅をもたせることができるはずだが、ジョセフ氏はあえて松島だけを選んだ。昨年までのポジション争いの経緯を振り返ると、意外な決断にも見える。

過去2大会の松島はWTB

 過去2大会のW杯では、松島はWTBとして出場。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ時代の2015年大会は、ゴールキッカーの五郎丸歩という絶対的なFBがいた。19年大会に向けて松島はFBでの出場を望んでいたが、ジョセフ氏はW杯イヤーに入るとWTBで起用し続けた。FBに座ったのは山中とウィリアム・トゥポウ(当時コカ・コーラ)。ハイパント処理の安定性を重視して長身の2人を選び、松島にはWTBとして決定力を発揮させる意図だった。起用は当たり、松島は計5トライを量産して8強入りに貢献。山中は、この大会からFBとして代表で確かな地位を確立した。

 ジョセフ氏は就任当初から「キックを織り交ぜたスマートなラグビー」を信条としていた。短いパス回しにこだわった前任者のジョーンズ氏とは違い、戦略的なキックとオープン展開を組み合わせて攻めていく。19年W杯では、素早いパス回しでアイルランドとスコットランドを撃破。一方でサモアにはキックを効果的に使って快勝した。

 バランス重視の傾向はその後も変わらなかった。松島がフランス1部リーグのクレルモンでFBとして活躍しても、代表では山中と併用。今年のW杯では起用の優先順位はつけるにしても、2人とも本大会に連れて行くものと思われていた。

日本はアタッキングラグビー

 だからこそ、山中のW杯メンバー落ちはサプライズと受け取られた。15日の会見で、ジョセフ氏は「チームの強みはスピード、スキル、フィットネス。ジャパンラグビーはボールをしっかり動かしていくアタッキングラグビーだと思っている。世界の中でもユニークで、それをやっていくことが重要だと思っている」と強調した。これまでのバランス重視から転換し、パスを駆使した高速展開のラグビーに軸足を置くということか。「山中落選」は、退路を断つというジョセフ氏の覚悟を示しているのかもしれない。

 1勝5敗と思うようなラグビーができなかった今年の実戦でも、オープン展開を重視する姿勢はのぞかせた。8月26日のイタリア戦の後半12分、17次に及ぶ連続攻撃を実らせて松島がトライを決めた。ただ、他の局面ではむやみに回すことでミスが出ていたのも事実。手の内を見せていない部分があるにせよ、本番ではもっと攻撃の精度を上げないと苦しくなる。攻撃プランを担当するブラウン・アシスタントコーチは、多彩な戦術を練り上げることで有名。松島を生かす「スペシャルプレー」も用意しているだろう。FWリーチマイケル(BL東京)は「きつい時にどれだけ自分たちのプランを遂行できるかがカギ」と覚悟を示す。

 1次リーグD組は前回準優勝のイングランドの調子が上がらず、一方でアルゼンチンとサモアが好調で混戦が予想されている。日本は10日に初出場のチリと初戦。ここで周囲の不安を打ち消すような勝利を収め、17日(日本時間18日)のイングランド戦へ勢いをつけられるか。勝負の時は迫っている。

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