農産物に紐付いたデジタル資産「NFT(非代替性トークン)」を販売し、町おこしや持続可能な農業生産につなげようという試みが全国にじわりと広がりつつある。購入者はファンクラブのようなコミュニティーを形成し、産地や生産者を応援。継続的なつながりを持つ関係人口の創出は、人口減少・高齢化といった地方や農業が抱える課題を解決する切り札となるか。(時事通信経済部編集委員 織田晋太郎)
デジタルで地方創生
デジタルを活用した地方創生プロジェクトを手掛けるMeTown(ミータウン、東京)は1月、北海道夕張市の特産、夕張メロンのファンを増やすため、デジタル会員証となるNFTアートを888個限定で売り出した。購入者は、夕張メロン1玉を届けてもらえるほか、JA夕張市公認の夕張メロン「デジタルアンバサダー」としてコミュニティーに参加することができる。
MeTownの田中一弘代表は「従来の消費者と産地という関係ではなく、一緒に地域を盛り上げていくメンバーとして地域に参加する」とアンバサダーの役割を説明する。価格は暗号資産(仮想通貨)で0.07ETH(イーサリアム)か、日本円で1万4000円で、約300個を販売した。
NFTは、唯一無二の存在であることが証明されたデジタル資産。暗号資産の基盤技術であるブロックチェーン(分散型台帳)で、価値の移転が記録されるため、複製や改ざんが困難とされる。
全国的には、ニシキゴイをモチーフにしたNFTアートを発行し、「デジタル村民」と呼ぶコミュニティーを形成した新潟県・旧山古志村の取り組みが知られる。田中氏はこの事例から着想を得て、出身地である北海道の地域産品を生かした地方創生プロジェクトに乗り出した。
ソーシャルメディアで夕張メロンを宣伝するなどファンの輪を広げる取り組みに対しては、コミュニティー内でポイントを付与し、NFTを管理するウォレット(電子財布)に、こうした貢献の記録が刻まれる。田中氏は「個人のデジタル上のアイデンティティーを証明するものになる」とNFTを活用する意義を語る。
持続可能な農業生産へ
NFTを使って「もうかる農業」を目指す動きもある。農業コンサルティングを手掛ける農情人(千葉県船橋市)は、農産物とブロックチェーン技術を組み合わせる方法を考案する「Metagri(メタグリ)研究所」を開設した。
昨年6月のスイカを皮切りに、トマトやシャインマスカットなどの農産物と連携したNFTを発行してきた。農産物の価格だけを単純比較すると、相場に比べて2~3倍高いが、限定NFTアートや農園体験などをセットにすることで付加価値を高める戦略だ。
沖縄県・石垣島でマンゴーを生産する「かわみつ農園」とのプロジェクトでは、NFT所有者に対し、収穫前の作物への命名権、農園のオンライン観光への参加、さらに自宅にマンゴー2キロが届くまでの体験を提供。自ら価格を後決めできるようにしたところ、平均2万円程度と仕入れ価格の2倍の値が付いた。
農情人の甲斐雄一郎社長は「消費者が『食べる』以外の価値を見いだすと、農産物の価格が上がるスパイラルをつくることができる」と強調する。コミュニティーで顔の見える関係性を築くことができれば、適正価格への理解も進みやすくなるという。
将来的には、オンライン上の仮想空間「メタバース」にマルシェ(市場)を開設し、NFT取引による農産物市場を実現したい考えだ。甲斐氏は「消費者と生産者が支え合わなければ、農業に持続可能性はない」と指摘している。
(2023年9月6日掲載)