ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年7月死去)の性加害問題で、同事務所は7日、初めて記者会見した。出席したのは藤島ジュリー景子前社長(5日付で辞任)ら4人で、創業者一族を除く最古参の幹部で、社内事情に最も詳しいとされる白波瀬傑前副社長(同)の姿はなし。保険金の不正請求などを問われる中古車販売大手のビッグモーター、アメフト部員が大麻所持などの疑いで逮捕された日本大学の各会見でも、実情を最も知り得る人物は不在。組織防衛を優先しての「キーマン隠し」が、3社・法人の共通点として浮かび上がる。(時事通信解説委員長 高橋正光)
【目次】
◇質問封じ?最古参幹部は欠席
◇辞任で会見に出ず、BIG副社長も
◇薬物事件、日大は監督欠席
◇説明ゼロの田中元理事長
◇性被害者の涙
質問封じ?最古参幹部は欠席
ジャニーズ事務所の会見に出席したのは、藤島氏の他、後任の社長に就いたタレントの東山紀之、子会社社長でタレントの井ノ原快彦、顧問弁護士の木目田裕の各氏。藤島氏は、同社が設置した再発防止特別チーム(座長・林真琴前検事総長)の調査報告書を受け入れ、性加害の事実を認めて謝罪。社長を引責辞任したと発表した。
同時に、藤島氏は、被害者への救済、補償に取り組む方針を表明。補償に責任を持って当たるため、代表取締役にはとどまることを明らかにした。自身が100%保有する自社株の取り扱いに関しては、「簡単な問題ではない」と明言を避けた。
一方、後任の東山社長は「鬼畜の所業」とジャニー氏を激しく非難。「今後人生をかけて、この問題に取り組んでいく」と決意を述べた。
特別チームの報告書によると、ジャニー氏の中高生を中心にした未成年者への性加害(強制わいせつ罪等に該当し得る犯罪行為)が少なくとも40年以上繰り返され、被害が拡大した最大の原因として、ジャニー氏の「性嗜好異常」と、同氏の姉で実質的な事務所経営者であるメリー喜多川氏(21年8月死去)が、性加害を知りながら、「何等の対策も取らず、放置と隠ぺいに終始したこと」などと指摘している。
さらに、事務所が、「見て見ぬふり」に終始した「不作為」も、被害拡大の要因として挙げている。
報告書はまた、白波瀬氏の役割などに言及。「1975年に、メリー氏の声掛けで入社。同氏の指示を受け、取材対応などの宣伝業務」を担当。96年に取締役に就任、専務を経て、19年に副社長に起用された、一族以外の「最古参の幹部」。今年1月には、代表権も得た。ただ、絶大な権力を握る「ジャニー、メリー両氏の判断に反対できる立場でもなかった」としている。
こうした経歴、立場を踏まえ、特別チームは2回、白波瀬氏へのヒアリングを実施。報告書は「直接見たわけではない」ことなどを理由に、「性加害を行っていたとは考えていない」と当初供述したが、再度のヒアリングで、ジャニー氏が世話になった人の子息が最近、被害を申告したことを知り「性加害を行ったことは真実であろうと思った」と述べ、性加害の事実を認めたと記している。
その上で、報告書は、ジャニー氏死去後の体制を検証、社長の藤島氏、および副社長の白波瀬氏ら取締役は、事実の徹底調査、原因究明、再発防止、被害者への救済を行い「膿を出し切る義務を負っていた」と指摘。これらの措置を取らなかったことは、取締役としての「任務の懈怠」と断じた。藤島氏に対しては、その他の事情も考慮し、社長の辞任、同族経営の弊害除去を求めた。
藤島氏の社長辞任は、報告書を受け入れた以上、当然のこと。白波瀬氏の代表取締役副社長辞任も、妥当な判断と言えよう。しかし、同氏は会見に出席しなかった。会見では、欠席理由を聞く質問が出たが、木目田弁護士は「藤島さんが一身をもって責任を取るとのことで、出席していない」と述べるにとどめた。
報告書によれば、ヒアリングで白波瀬氏は当初、ジャニー氏の性加害を否定したが、途中で説明を変え、事実を認めた。事実を徹底解明するためにも、同氏の説明が不可欠なのは明白。会見に欠席させた藤島氏や東山社長らの判断は、説明責任を果たすより、組織防衛を優先したと見られても仕方がないだろう。
辞任で会見に出ず、BIG副社長も
保険金(事故車の修理費)の不正請求問題などを受けたビッグモーターの7月25日の記者会見は、創業者の兼重宏之社長(当時)や和泉伸二専務(現社長)らが行ったが、兼重氏の長男で経営の相当部分を任されていた宏一副社長(当時)は、辞任を理由に欠席した。これについて、SNSでは「息子隠し」との声も上がった。
同社はその後、公共物の街路樹を、除草剤を散布して枯らした疑惑も浮上。不正請求疑惑で金融庁が立ち入り検査に入り、街路樹関連では、神奈川県警が器物損壊の疑いで、県内の3店舗を捜索したことも伝えられた。
一連の不正疑惑の背景として、過剰なノルマ、コンプライアンスの欠如が指摘された。会見後には、現役社員や元社員から、宏一氏による複数のパワハラ事案が告発され、各メディアで報じられた。宏一氏は、社の経営実態を最も知る「キーマン」であり、会見に出席していれば、一連の疑惑への関与、認識などについて、繰り返しただされていただろう。
宏一氏を会見に出さなかった兼重氏の判断は、顧客への説明責任より、息子を守ることを優先した結果に見える。
薬物事件、日大は監督欠席
脱税(所得税法違反)事件を起こした田中英寿元理事長との決別を宣言した日大で、アメフト部員が大麻などを所持した疑いで逮捕される事件が発生。大学は8月8日に記者会見を開いた。
出席したのは、林真理子理事長、酒井健夫学長、元検事の沢田康広副学長の3人。大学側からは、(1)保護者からの情報提供を受け、部員への聞き取り調査を昨年11月に実施。部員1人から「大麻と思われる物を7月ごろに吸った」との申告があり、警察関係者に相談したが、「立証困難」との回答があり、厳重注意にとどめた(2)警視庁からの情報提供を受け、7月に寮で持ち物検査を実施し、植物片などの不審物を発見。「大麻であれば自首させたい」との判断から、12日間、警視庁に連絡せずに大学本部で保管していた―ことなどが明かされた。これにより、大学による「事件の隠ぺい」との疑念が一気に広がった。
そもそも、昨年11月に使用の自己申告がありながら、厳重注意にとどめた判断を含め、事案の詳細を一番知っているのは、日々部員と接触する中村敏英監督に他ならない。監督が会見に出てこなかったことは、極めて不自然と言える。これについて、青山学院大学の原晋駅伝監督は取材に「監督は現場の責任者。会見に出席しなかったのはおかしい」と疑問を呈している。
大学側はその後、「個人の犯罪」と判断して、無期限活動停止の処分を解除し、リーグ戦への参加を連盟に申請。その矢先の8月22日に、別の部員の関与の疑いが強まり、同部の学生寮が2度目の家宅捜索を受けた。大学側は再度、同部を活動停止としたが、現在まで、中村監督による公の場での説明はない。
日大は同月24日、事件対応を検証する第三者委員会を設置、文部科学省から今月15日までに、調査結果を報告するよう求められている。結果がまとまれば、林理事長ら大学側は会見を開き、結果を公表するだろう。その場に監督が出席し、説明するのか。あるいは欠席して「監督隠し」を継続するのか。注目が集まる。
説明ゼロの田中元理事長
田中元理事長の犯罪(脱税)は、国民が憲法30条(納税の義務)を履行、納めた税金から多額の補助金(私学助成金、2020年度で約90億円、現在は不支給)を受ける学校法人のトップを長年務めながら、自身は納税の義務を完全には果たさず、税金をごまかしていたというものだ。学生、教職員、卒業生のみならず、納税者たる国民に対しても説明が必要なことは論を待たないだろう。
側近の元理事の背任容疑の関係先として、自宅や理事長室が東京地検特捜部の家宅捜索を受けたのが21年9月。同年11月には自身が所得税法違反容疑で逮捕。同12月に約5200万円の所得税を免れたとして起訴された。22年4月に、懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の有罪判決が確定している。
こうした経緯を経て、今日に至っているが、田中元理事長はただの一度も、自身の事件について、公の場で説明していない。今回のアメフト部員による事件への林理事長らの対応を見て、田中体制下のガバナンス不全、説明軽視の体質は、体制が代わっても改善が遅々として進んでいない印象を持つ人も多いだろう。
性被害者の涙
7日の記者会見で、藤島氏は、現場で活躍する事務所のタレントへの正当な評価を訴え、涙を流した。もちろん、競争が激しい芸能界にあって、多くのタレントは、努力を重ねて、スターの地位を勝ち取った。ジャニー氏の事件と何ら関係のないタレントが、活動の場を奪われるのは理不尽だ。その点で、藤島氏の訴えは正しい。
同時に、スターの座を勝ち取った人の何十倍、何百倍の元ジャニーズジュニアが、ジャニー氏の性加害により夢を諦め、涙を流した。現在も、涙を流し続けているかもしれない。会見で補償、救済を約束した藤島氏は、被害者の涙を忘れないでほしい。