今季からサッカー女子のプロリーグ、WEリーグに参戦したセレッソ大阪ヤンマーレディース。チームには2010年の発足時から在籍する選手がいる。MF古沢留衣(26)とFW玉桜ことの(25)。2人にこれまでの歩みを振り返ってもらった。(時事通信大阪支社編集部 須藤駿)
16人の中学1年生で
ともに奈良県香芝市出身の古沢と玉桜は小学4年生から同じチームでプレーしてきた。Jリーグに所属するセレッソ大阪が女子のチームを設立すると知ると、中学入学前に他のチームメートとともに入団テストを受けにいった。
「(当時)奈良県に中学生の女子チームは二つしかなくて。奈良県はサッカーのレベルが高い方ではないので、力試しに」と古沢。2人はテストに合格。10年4月に創設されたC大阪レディースU15の1期生となった。
1期生は中学1年生16人。当初は練習拠点も定まっておらず、大阪市、堺市、兵庫県尼崎市を転々とした。1年目は同じ中学年代のチームとの対戦でもなかなか勝てなかった。「小学生上がりで体もできていない子どもなのに、中3までいるチームと戦わなくちゃいけなくて」(玉桜)
1期生にはGKを本職とする選手は不在で、交代で回していたという。古沢は「何でGKを取らなかったんだろう。GK(をやること)だけは嫌だった」と当時を思い出して苦笑いする。
若い陣容、厳しさ味わう
翌11年の2期生、12年の3期生も中学1年生のみ。順調に力をつけ、13年に日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の下部にあたるチャレンジリーグに昇格したが、16チーム中13位に終わった。20代の選手が多いチームもある中で、最年長が古沢、玉桜ら高校1年生という極めて若い陣容で戦うのは厳しかった。「(それまで)90分の試合をしたことがなくて未知の世界だった。それまで戦ってきた同年代とは体格、筋力が全然違ってきつかった。今考えたらどうやって戦ってたんだろう…」と玉桜。
14年は開幕から11試合勝ちなし。古沢は「あれだけは覚えている。悔しい思いが残っている」。翌年からなでしこリーグとチャレンジリーグの間になでしこリーグ2部ができることが決まっていたが、14位で2部には上がれず、実質的には「3部降格」となった。
年齢とともに成長
それでも「リーグに慣れてきて、余裕を持って戦えるようになっていった」(玉桜)。メンバーの年齢が上がるにつれて、チームは成長した。16年になでしこリーグ2部に上がり、18年には初めて同1部に昇格。18年こそ1シーズンでの降格となったものの、20年の再昇格以降は1部の座を守ってきた。
1期生の2人は入団以来ずっとチーム最年長。メンバーを引っ張らなければならないという重圧を感じることはなかったという。「学年は関係ない環境で、上下関係もない。みんなで頑張ろうとやってきた」と古沢。
3年目のWEリーグ参戦
WEリーグは21年に発足したが、クラブは高校生や大学生の選手が多いことなどを理由に参入を見送り。アマチュアのなでしこリーグで戦い続けることを選択した。主力選手は大量流出したものの、同年度の皇后杯全日本女子選手権では過去最高のベスト4になった。
22年、参入への環境が整ったとして、WEリーグへ加入申請した。これが承認されてリーグ発足3年目の今季から参戦することになった。「プロリーグでやれるのは選手全員にとって一つの目標だった。WEリーグとなでしこリーグではレベルが違うので、より高いレベルでやれるのは自分自身もチームも成長につながる」と古沢は喜びを語る。
古沢は今季について「優勝と言いたいところだが、甘くないので、チームで5位以内を目標としている。私はちょっとでも貢献できるように頑張っていきたい」。クラブは25―26シーズンでの優勝を目指している。
「少しでも多くの方に見に来ていただけるサッカーができたら」とは玉桜。昨季のWEリーグの1試合平均入場者数は1401人だが、クラブは今季1試合平均3000人の集客を目標としている。
究極の育成型クラブ
JリーグのC大阪が若手の育成で定評があるように、C大阪ヤンマーもかねて「究極の育成型クラブ」を掲げてきた。基本的に他クラブからの補強を行わず、中学生や高校生で加入したメンバーを育ててきた。現在でも原則としては高校年代までしかチームや下部組織に入団できず、それより上の年齢で入れるのはかつて所属していた選手の復帰のみ。現所属選手も、インドネシア出身のザーラ・ムズダリファを除いた全員が高校生までにこのクラブもしくはチームの下部組織でプレー経験がある。チームの平均年齢は約21歳と今でも若い。「仲の良さは生え抜きならではなのかな。チームの戦術もスムーズに共有できる」と古沢は良さを語る。
監督が代わる度に戦術は変わってきたが、走力を重視することはチーム発足当時から変わっていないという。「中学時代からずっと、週に1回はひたすら走るだけのメニュー。どぎつい練習で、頑張ろうという一体感がここで生まれる」(古沢)
ともに歩いてきた2人
2人は今季で在籍14年目のシーズン。古沢は「人生の半分(以上)がセレッソ。スタッフよりもベテラン」と笑う。2人とも順調なサッカー人生だったわけではない。古沢は試合にほとんど絡めないシーズンがあり、玉桜は膝の前十字靱帯(じんたい)を3度けがした。それでもサッカーを愛する気持ちは揺るがなかった。古沢は「サッカーは人生。青春も、何もかもささげた」。玉桜は「サッカーをしていたからこそ見られた景色があった。私はコミュニケーションを取るのが得意な方ではないが、年齢、言語に関係なくいろんな人とつながれるのがサッカー」と語る。
古沢と玉桜は自分たちの関係を、冗談で「腐れ縁」と話す。小学生時代からずっといい距離感を保っていて、大きなけんかをしたこともないという。古沢が「(玉桜は)けがで丸々3年間ぐらいサッカーができない時間があったが、乗り越えた。私にはできないことで尊敬の気持ちを持っている。1期生、同い年として負けたくない気持ち」と言えば、玉桜は「(古沢は)常に元気で、ロッカーに入ってくる前から声が聞こえてくる。でも、しんどい時でもそんな感じなので元気をもらえる」。2人はこれからも支え合っていく。
セレッソ大阪ヤンマーレディース 2010年にセレッソ大阪レディースU15として設立。12年にセレッソ大阪レディースに改称し、13年にセレッソ大阪堺レディースと改めた。同年に日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)下部にあたるチャレンジリーグに参入。18年に初めてなでしこリーグ1部に昇格した。今年、ヤンマーホールディングスが命名権を取得し、現チーム名に。今季3シーズン目を迎えるWEリーグに参戦した。最高成績は21年のなでしこリーグ1部3位。現在の拠点は大阪市内。日本代表経験者の宝田沙織(リンシェピング)、林穂之香(ウェストハム)、北村菜々美(日テレ・東京V)、浜野まいか(チェルシー)もかつて在籍した。今シーズンから鳥居塚伸人氏が監督を務める。現チームの主将は脇阪麗奈。
古沢 留衣(ふるさわ・るい) 小学2年生のときに、兄と姉の影響で競技を始める。体の強さを生かしたプレーが持ち味。クラブでの一番の思い出は15年度の全日本U18選手権で優勝したこと。趣味はゴルフ。中学と高校の保健体育の免許を持っている。ポジションは守備的MF。1997年4月11日生まれ。155センチ、47キロ。奈良県香芝市出身。
玉桜 ことの(たまざくら・ことの) 小学2年生のときに姉の影響で競技を始める。背後への飛び出しを得意とする。クラブでの生活で一番印象に残っているのは、18年に初めてなでしこリーグ1部に昇格したときに通用しなかったこと。U20日本代表に選ばれた経験がある。寝ることが好き。中学と高校の保健体育の免許を持っている。ポジションはFW。1998年2月17日生まれ。152センチ、40キロ。奈良県香芝市出身。