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西武の大ベテラン栗山巧の真摯な準備と、支える打撃投手たち

2023年09月27日10時00分

 9月3日に40歳となったプロ野球西武の栗山巧外野手。22年目の今季は夏場から調子を上げ、ともに指名打者と代打を担う同期の中村剛也内野手と同様、シーズン終盤も鋭い打球を飛ばし続けている。2021年9月に通算2000安打を達成して名球会入り。大ベテランは今もなお、試合前の打撃練習からこだわりを持って臨み、内容を即座に反省しながら日々の実戦に向かっている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

 試合前、ホームチームは打撃練習で使うケージを二つ用意できる。西武は一方を右投げ、もう一方を左投げの打撃投手が担当し、一人につき打者4人程度に対して投げる。5球前後を打った打者が3~4回入れ替わるのが一般的だが、栗山は20球程度を続けて打つ。

 その理由を聞くと、「時間がもったいないんですよ。交代していたら、あそこで1球2球打てるので。例えば、5球目にいい感じになって交代だと、もったいない。せっかくその感覚を得るために準備しているのに、そこで交代して、またリセットして1球目からっていうのは、ちょっと僕は好きじゃない。好みの問題」と説明した。栗山と対になって打撃練習を行うことが多い外崎修汰内野手も同じやり方だ。

右の南さん、左の山下さん

 栗山にとって試合前の練習は「どういう打撃が理想的か、今何が足りていないか。補って、伸ばしていく作業」。数年来、基本的に同じ打撃投手に球を投げてもらっている。右なら南和彰(みなみ・かずあき)さん、左なら山下英(やました・すぐる)さん。42歳の南さんは04年に巨人入りし、米国の独立リーグや日本の独立リーグ石川でもプレー。38歳の山下さんも石川で投げていた。栗山は「他の打撃投手と比べてどうかという意味ではなく」と前置きした上で、「南さんと山下には、強い球を安定して放ってもらっている」と感謝する。

 南さんは「年下ですけど年齢関係なく、プロフェッショナルな選手。指名されるのはすごくありがたいことだし、光栄なこと」。同時にプレッシャーもある。「(自身の状態が)駄目な日とかは、申し訳ない気持ちでいっぱいです」とも。打者と投手。試合とは違う意味で、こちらも真剣勝負だ。山下さんは栗山の打撃に関し、「年々良くなっているような気がするんですよ。誰よりもミートがうまいと思う」と技術の高さを肌で感じ取っている。

ボール球も無駄にしない

 一人ひとりが連日100球前後を投げる打撃投手。南さんが言うように、試合で投げる投手と同様、調子の良しあしはあり、いい球を続けて投げられない日だってある。そんな時は、やはり申し訳ない気持ちになるのがこの仕事をしている人たちの心情。ただ、栗山自身は一球も無駄にしない。

 山下さんは「ちょっと荒れても、ボールになっても『見るのも練習』と言ってくれる」。栗山はこう話す。「山下は年下なので、申し訳ないという感じを出すと、なめんなと(笑)。『プロだから、ボール球でもヒットゾーンに打つぐらいの技術はある。こっちがアジャストするから関係なく投げてきて。おたくの球ぐらいは、はじき返すので』というように。冗談も含めながら」。そんな軽妙なやりとりをすることもあるそうだ。

 栗山は今年4月、プロ野球史上17人目の通算1000四球を記録。これは2000安打よりも到達した選手が少ない勲章だ。南さんは「やっぱり(練習でも)見えていますよね。投げた球がどこを通ったか、打つ打たないどちらにしても、それがストライクかボールか全て分かっているように見えます」。類いまれな選球眼の良さを練習から感じている。

練習で「強い球」を打つ

 打撃練習では変化球を要求したり、対応力を高める意図で直球と変化球をランダムに投げてもらうよう頼んだりする打者もいる。だが、栗山が打っているのは直球のみ。南さんと山下さんが投げる「強い球」を打ち続けている。最初はバントから始まり、左へ右へと強い打球を飛ばす。栗山らしい、右中間から右翼ポール寄りの方向への柵越えは、練習でも見応えがある。

 9月17日のロッテ戦。栗山は佐々木朗希投手から2打席で2安打を放った。最初の打席は153キロを痛烈にはじき返して右翼フェンス直撃のシングルヒット。次の打席では、152キロをきれいに中前へ運んだ。「球が速いのは分かっているし、背が高くて角度がある。何とかその真っすぐをしっかり打てたらなと。思った通りにいけたので、あの日に限っては良かったと思います」と振り返った。

 不惑になっても、球界を代表する速球派の直球をしっかりと捉えられている。試合前に直球を打ち続けているのも要因の一つかと問うと、「結構、微妙なところですね。難しい」。試合と練習は別との考えがあるので、はっきりした関係を簡単に認めるわけではない。ただ、「練習の中から、しっかり真っすぐをはじき返したりとか、力負けしないようにというのは、それはそういう日々の積み重ねになるかもしれない」とも言った。

試合前に映像を確認

 これまでに2100本以上の安打を積み上げていながら、いまだに研究熱心。チームは全選手の打撃練習の映像を連日録画し、個々人のタブレットに送っている。編集などに時間がかかるため、試合までに全員へ送信というのは難しい中、栗山は練習直後に確認できるように頼んでいる。「試合前に、きょうの練習内容を復習した上でゲームに臨みたい。ちょっと無理言って、僕だけ早く上げてもらっている」

 映像を整え、本人に送っているのも南さんと山下さん。南さんは「それが役立つのなら、全然(大丈夫)」。打撃投手の仕事は、自分が担当する選手への投球だけではない。ティー打撃の補助や用具の片付けなどを含めた全体の練習終了後、素早く作業に取りかかっている。

安打に直結しなくても

 栗山は「打撃練習とゲームは、比例してこない部分がある」と言う。どんな打者でも、アウトになる確率の方が高い世界。いくら練習の内容が良くても、それがヒットに直結するとは限らない。

 それでも、周囲のサポートを受けながら練習から真摯(しんし)に取り組んでいる。だからこそ、結果を残し続けられているのだろう。これまでも、きっとこれからも。「ミスター・レオ」が日々繰り返す姿勢を見て、おそらくどの世界にも、何事にも通じる準備の大切さを思う。自戒の念を込めて。

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