就職活動の一環として盛んに行われるインターンシップ(就業体験)。民間企業が主流だが、実は国会議員や地方議員の事務所でも実施されており、永田町ではスーツ姿の大学生をよく見かける。NPO法人「ドットジェイピー」(東京都千代田区)は25年にわたり、議員インターンの仲介事業を通して若者の政治参加に取り組んできた。「議員インターンは政治に興味を持ってもらう入り口だ」と語る創設者の佐藤大吾理事長(49)に話を聞いた。(時事通信政治部 眞田和宏)
【目次】
◇参加した学生は4万人超
◇政治に対するイメージが変わる
◇卒業生200人が議員に
◇若者の投票率なぜ低い
◇投票したい人がいない→「じゃあ俺が出る」
参加した学生は4万人超
〈ドットジェイピーは1998年創設。大学生を対象に、夏休みなどに国会議員や地方議員の事務所で2カ月間、生の経験を積める機会を提供してきた。参加した学生は今年3月時点で延べ4万2263人に上る〉
―議員インターンの活動内容は。
議員本人でないとできないこと以外、だいたい全部やらせてもらっている。事務所にもよるが、大きく三つのカテゴリーがある。
一つ目は政党の部会への代理出席、国会図書館での調べ物といった政策立案に関することだ。二つ目は選挙区活動で、国政報告会の企画・運営、ポスター張りのお願いなどを行う。三つ目が事務作業だ。与党か野党か、その議員が選挙に強いのかどうかなどで、三つのカテゴリーに濃淡は出てくる。
―学生にとって何が魅力か。
企業へのインターンもまだ全員が行くわけではない中で、議員事務所にインターンに行くということ自体、珍しい体験だ。
また、実際に政治の現場で何が起きているのか、メディアを通さず一次情報として自分の目で見ることができ、自分の発言に根拠ができる。首相を批判したり、「政治は駄目」と言ったりする人は多いが、人の話の受け売りではなく自分で見て感じたことを根拠にして、批判するなら批判したらどうかと学生には言っている。
―参加者はもともと政治に関心が高いのか。
それは全然違う。議員や政治の世界に進路として興味があるのは、参加者のうち5%くらいだ。行政や公務員になりたいという人が20%で、50%程度は民間企業志望だ。これは議員事務所に興味があるというより、インターンの機会を求めている人が多いと捉えている。
政治に対するイメージが変わる
―インターンを受け入れる議員側の反応は。
学生を受け入れるのは手間がかかることだ。だが、政治を志した以上、後進の育成に協力するのは自分の責務だと言ってくれる方が多い。また、若者と継続的に接点を持てるのは大切な公聴の機会になると言われる。議員になると大学生と接点はなくなるようで、10代や20代と継続的に接点を持ててありがたい、という声が届いている。
―インターン参加の前後で学生の政治に対する意識は変わるのか。
25年間ずっと意識調査をやっている。政治に対するイメージは、参加前は「悪い」「どちらかと言えば悪い」の比率が半数以上だ。一方でインターンを経験した後に同じ質問をすると、「良い」「どちらかと言えば良い」が逆に半分を超える。昨年度は「良い」「どちらかと言えば良い」と答えた人が、参加前後で25%から55.8%に上がった。
若い人たちは、大いに誤解した状態で政治を捉えているということだ。不祥事がしょっちゅう起こっているわけでもないこと、多くの法案が(与野党で)対立せずに成立していることに、インターンに参加して初めて気が付く。
そして、議員が朝早くから夜遅くまでずっと仕事をしていることも初めて知る。ある学生は「思ったよりちゃんとしていました」と言っていた。
それだけ政治に対する期待値が低いということでもある。それが実態を見ることで、政治という仕事のダイナミズムに触れ、面白い仕事だというポジティブな印象になる。
卒業生200人が議員に
〈ドットジェイピーの意識調査では、インターンを経験すると「選挙に必ず行く」と回答する割合も向上する。一方、2021年の衆院選では、全体の投票率が55.93%だったのに対して20代36.50%、30代47.12%と、50%を超えた40代以降と比べて若者の投票率は低い。22年参院選でも同様の傾向だった〉
―現状で若年層の投票率は低い。
20代、30代の投票率を高めたいと思い、98年にドットジェイピーを立ち上げたが、その頃から投票率は上がってこない。20代が30代の投票率を上回ったことは一度もないし、30代の投票率が40代の投票率を上回ったことは一度もない。そこはわれわれの力が及ばないところだと反省しきりだ。
ただ、参加した学生が年を重ね、創設当時20歳だった学生が45歳になっている。4万を超す卒業生のうち、200人を超える人が実際に議員になった。創設時は、いわゆる「地盤、看板、かばん」がない状態で議員という職業を選択するのはなかなか現実的ではなかった。そこに対して、いくばくか門を開くことができたと考えている。
立候補は複合的な要因だろうが、インターンがきっかけだったとよく言われる。インターンを終えた後も同窓会のような形で議員との関係が続くことがあり、その中で議員にならないかと声が掛かることもあるようだ。
若者の投票率なぜ低い
―低い投票率の要因や打開策は。
「政治に興味がない」や「政治を諦めている」ということで投票率が低いわけではない。もっとシンプルに、候補者に「知り合い」がいないからだと思っている。なじみが感じられないということだ。
議員インターンに参加すると、少なくとも1人の議員と知り合い、そこを通じて知り合いが増える。インターンを通して知り合った政治や行政の関係者と意見交換もできる。
インターンは選挙や政治に向き合う最初の「窓」だと思っている。インターンに参加すると、興味・関心を持つ取っ掛かりが生まれる。多くの若者はその窓が一つもない状態になっている。
私は議会の年齢構成比を問題視しており、国民の年齢構成比と相似形になるのが理想的だと考えている。また、若い人の投票率を上げるには、若い候補者を増やさないといけない。友だちの友だちが立候補しているくらい身近になれば、興味も持ちやすくなる。
投票したい人がいない→「じゃあ俺が出る」
―政治側に求めることは。
立候補できる年齢を18歳に引き下げることだ。選挙権年齢は18歳に引き下げられたのに、被選挙権年齢が25歳などのままになっている理由は全くない。誰にも入れたくないという積極的な否定の気持ちがある場合、「じゃあ俺が出る」という選択肢がなければならない。あとはインターネット投票の実現だ。そろそろ国会できちんと議論してほしい。
―日本政治の将来をどう見ているか。
私は悲観していない。私たちの団体のことで言うと、インターンを経験した人が議員になると、次のインターンを受け入れてくれる確率が高まる。それがずっと連鎖することで、若者が政治や行政と早々に接点を持つことができる。
それが学校教育にも影響を与え、企業インターンのように議員事務所や行政でのインターンが単位になるとなれば、参加する人はもっと増えていく。そうすると、時間はかかるが、投票率が上がり、立候補する人も増えていくと思う。
議員インターンは興味を持ってもらう入り口だ。入り口に立って、疑問に思うこと、憤りを感じることもあると思う。そこから行動が始まる。
◇ ◇ ◇
佐藤 大吾氏(さとう・だいご)73年生まれ。大阪府出身。大阪大法学部中退。在学中に起業し、98年にドットジェイピーを創設。英国発の世界最大の寄付サイト「JustGiving」を日本に誘致するなど寄付文化の醸成にも取り組む。