次の衆院解散・総選挙を前に、立憲民主党が共産党など他の野党との候補者一本化に苦慮している。2021年の前回衆院選では、全289小選挙区のうち7割を超える選挙区で共産、社民両党などと共闘関係を構築した。にもかかわらず、期待する成果を上げられなかったためだ。勢いに乗る日本維新の会が候補者を積極的に擁立していることも懸念材料となっており、慎重に戦略を練っているとみられる。(時事通信政治部 大沼秀樹)
「新たな55年体制」の始まりか、政治の行方は? 河野洋平、小沢一郎、細川護熙各氏に聞く
【目次】
◇勝率は28%
◇視界不良の「候補者調整」
◇維新、躍進で積極擁立
◇無党派層は維新か
◇自民100人超に危機感
勝率は28%
「応援し合うとか一緒に演説するとかではない。やるのは『候補者調整』だ」。立民の泉健太代表はこう述べ、次期衆院選に向け共産などと候補一本化を進める考えを強調する。以前は共産との協力を否定していたが、小沢一郎衆院議員ら候補一本化を求める党内の声に押され、候補者調整を進める方針にかじを切った。
泉氏が当初、野党共闘に否定的だったのは、多くの選挙区で野党一本化を実現した前回衆院選の結果が振るわなかったことが背景にある。立民、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の5党は、213選挙区で候補を一本化し、与党に挑んだ。だが、野党5党が勝ったのは59選挙区、勝率にして28%にとどまった。
視界不良の「候補者調整」
現行の選挙制度は小選挙区で1人しか当選できないため、野党候補が乱立して政権批判票が分散すれば与党を利するとされる。確かに、野党乱立となった72選挙区では、野党5党の勝率がわずか8%。神奈川13区では、一本化した立民新人の太栄志氏が現職の自民幹事長だった甘利明氏を破り、東京8区でも、立民新人の吉田晴美氏が自民の石原伸晃元幹事長を下した。
ただ、候補一本化で単純に野党票の足し算が成り立ったわけではない。21年衆院選で野党共闘が実現した213選挙区について、前々回の17年衆院選で維新を除く各野党が得た票を合算すると、52選挙区で与党を逆転するとの計算結果が出た。だが、実際に勝利したのは、29選挙区にとどまった。立民と共産が「限定的な閣外協力」で合意したことを受け、「立憲共産党」との批判を招いたことなどで一部の票が離れたとみられる。
泉氏は、候補者調整によって現時点で約50ある立民と共産の競合区の解消を目指すが、共産が選挙運動を共にしない立民の方針に反発しており、うまくいくかどうかは見通せないのが現状だ。
維新、躍進で積極擁立
こうした動きと一線を画すのは、4月の統一地方選で議席を伸ばして勢いに乗る日本維新の会。次期衆院選で「野党第1党」を目標に据え、候補者を積極的に擁立。現時点で前回衆院選の96人を上回る130人超を立てている。
前回衆院選では67選挙区で、与党、野党5党、維新の候補が事実上「三つどもえ」の争いとなった。次期衆院選の維新候補は今後もさらに増える見込みで、立民などがいくら野党候補を一本化しても、与野党一騎打ちの構図に持ち込めない選挙区は増えそうだ。
無党派層は維新か
維新はどの支持層から票を得ているのだろうか。4月の衆参5補欠選挙の時事通信の出口調査から、維新への投票行動を分析してみた。維新が制した衆院和歌山1区の調査結果を見ると、勝敗のカギを握る無党派層の66.7%が維新に投票。さらに自民支持層の29.8%、立民支持層の25.0%と、自民、立民それぞれの支持層からも一定の支持を得ていた。7月の仙台市議選では、擁立した新人5人が全員当選し、地盤の関西以外でも党勢が拡大している現実を突き付けた。
次期衆院選は野党第1党争いが焦点の一つとなるだけに、維新が立民批判を強めるのは必至。立民は共産などと候補一本化を推し進めた場合、「立憲共産党」と指摘された前回衆院選の轍(てつ)を踏みかねず、対応を難しくさせている。
自民100人超に危機感
一方、自民、公明両党間でも選挙協力を巡ってすきま風が吹く。衆院小選挙区の「10増10減」で東京の選挙区が五つ増えたことに伴い、公明は28、29区への候補擁立を主張。これに対し、自民は28区での擁立を容認しなかったため、公明は「信頼関係は地に落ちた」(石井啓一幹事長)として、一時東京での選挙協力解消を通告した。
自民は前回衆院選で、東京の25選挙区のうち、21人が公明から推薦を得た。このうち5人は次点との差が2万票以内、さらに5人が比例復活だ。公明票が1選挙区2万票と仮定すると、東京だけで10人の当選が危ぶまれる。
影響が全国に波及したと想定した場合、自民が小選挙区で勝った189人のうち、次点と2万票以上離したのは129人。2万票差以内だった60人に加え、比例復活した56人の計116人は落選の憂き目を見る可能性すらある。
自公両党は東京での選挙協力復活に向けた合意文書に署名したが、わだかまりを完全に払拭(ふっしょく)できるかは不透明。「支援者はこれまでのような選挙運動はしないだろう」(自民ベテラン)との見方もあり、与野党とも不安を抱えたまま選挙戦を迎えることになるかもしれない。