イライラはコントロール不能? ワーママのための「怒りケア」

2023年09月12日10時30分

 「イライラしてつい家族に怒鳴ってしまい、自己嫌悪に陥る」―こんな悩みを抱えるワーキングマザーは多いだろう。子育て、仕事、家事に追われる現代のワーママは、日頃から疲れをため、心の余裕を失いがち。さまざまなメンタル不調を抱えるママたちに向けて、自分の疲労を自覚し、心をケアしていくためのアドバイスを40のポイントにまとめた、元自衛隊の心理カウンセラー・下園壮太氏の著書『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』より、今回は「怒りのケア」について紹介する。

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疲れていると誰でも怒りっぽくなる

 忙しい日々に追われているワーママから「本当はもっとニコニコして子どもや夫に接したいのに、怒ってばかりいて自分が嫌になる」といった声がよく聞かれます。このお悩みの本質は、「ニコニコできない、怒ってばかりいる自分ではダメだ」と思っているのに、怒ってしまう、怒りが止められない…という負のサイクルに入り込んでしまっていることです。

 人は弱ってくればくるほど、感情がたくさん出ます。誰でも疲れていれば、怒りっぽくなり、許容範囲が狭くなります。弱い自分を守ろうとするんですね。これは本能ですから、いくら理性でコントロールしようとしても無理があります。それなのに「怒ってはダメ」と押さえつけようとするから、できない自分を責めてしまうし、そのせいで消耗して、さらに怒りが大きくなっていってしまうわけです。

 子育てというハードな「戦場」で疲れているママたちが、イライラしないでいる、怒らないでいるというのは、ハッキリ言って無理があります。まずは怒ってしまう自分自身を、「仕方ないよね」「そうなるよね」と、自分で認めてあげてください。

「怒りのケア」のゴールを変えてみる

 とはいえ、子どもや家族に当たってしまうのは、本人もつらいもの。相手を傷つけて現実のトラブルにもなりがちです。そこで「怒りのケア」のゴール(目標・期待値)を変えてみましょう。このお悩みの場合、実行可能で有効な目標は、「怒りを現実のトラブルに発展させない」、すなわち「子どもや夫に当たらないようにする」ではないでしょうか。

 「怒りの感情を持たない」という目標は理想ですが、それは今は無理で、非現実的です。期待値を下げましょう。怒りが生じても、人に当たらないようにできれば、子育て戦場にあっては上出来です。そして、それならなんとか実行できそうです。方法としては、次の二つです。

〈「怒りのケア」の基本〉

(1)休む
 怒りっぽいのは、ご自身が疲れているから。この本質は無視してはいけません。睡眠を取るなどして、エネルギーを回復させます。

(2)離れる
・物理的にその場を離れる。視界から相手を消す(例:部屋を出る、トイレに行く、家を出る、など)
・物理的に離れることが難しい場合は、イメージで離れる。意識を相手からそらす(例:呼吸法を試す、集中して数を数える、アイドルやペットなど好きなものを思い浮かべる、座右の銘を口ずさむ、など)

 怒りは一瞬の瞬発力が強力。また、特定のターゲットを警戒し、そこに意識を集中させる機能があります。ターゲット(子ども、夫など)から離れる、「距離を取る」ことで、警戒が緩んで、怒りの発生率も下がります。これによって相手を傷つけることも回避できます。

 (1)(2)の方法とも、毎日の生活の中では、なかなか実践するのが難しいところもあるでしょう。でも方向性として知っておいて、その時の状況に応じた良い方法で、うまく対処していってほしいです。その場ではとっさにできないことも多いので、パッと思い出せるようにメモしたり、スマホに保存したりしておくことをお勧めします。

 重ねて言いますが、子育て戦場における「怒りのケア」の現実的ゴールは、「子どもや夫に当たらない」ことです。これを「怒りを完全にコントロールする」「いつもニコニコしているママになる」などと設定してしまうと、無理を自分に強いて、結局できない自分を責めて自信を失い、「怒り」が増大していく…という負のループに陥ってしまいます。くれぐれもご注意を!

怒りを振り返り、分析する「七つの視点」

 怒りのピークをやり過ごし(=怒りの暴発をなんとか回避し)、そのあとで気持ちや体が少し落ち着いたら、今度は、あえて今回の出来事を「分析」しておきます。分析を行っておくと、怒りが自然に収まりやすくなります。その際に、親しい人と一緒に出来事を振り返ると、うまくいきやすいものです。

 ただし、思い出してみて、まだ自分の中の怒りが強いと感じるならば、さらに落ち着くまで待ちます(冷静な分析ができるまでには、出来事や怒りの度合いによって、数時間から数日、数カ月かかる人もいます)。

 ここでは分析方法の一つとして、「七つの視点」というメソッドを紹介します。相談する相手がいないときの方法です。次の視点を使って、怒りの出来事や原因を考えてみてください。

〈七つの視点〉

(1)自分視点(私は何に一番傷ついた?/私が言ったことは正しい? 役に立っている?)

(2)相手視点(相手は何をしたかった?/相手は何か不安や不満があった?)

(3)第三者視点(ほかの人から見たら自分はどう見える?)

(4)宇宙視点(宇宙から見たら自分はどう見える?)

(5)時間視点(1カ月後、相手との関係はどうなっている?/1年前、相手との関係はどうだった?)

(6)感謝視点(相手に感謝できるとすれば、どんなこと?)

(7)ユーモア視点(この出来事を笑いのネタにするとすれば?)

 どれか一つでも気付きがあれば、もうけもの。七つ全部がうまくできなくても問題ありません。要は「分析を試みる」という手順を踏んでみることが大事なんです。段階を踏んでいくうちに、感情はやがて収まりやすくなります。怒りをいつまでも引きずって、あなた自身をむしばむことも少なくなるでしょう。感覚としては「ああスッキリした」というよりも、「思い出してもザワザワしなくなった」「どうでもよくなった」というフワッとした感じが、怒りのケアの着地点であることが多いです。

 感情を収めるには「プロセス」が必要で、「一発でスパッと解消!」「これさえやればスッキリ!」といった万能スキルは存在しません。これは感情全般について言えることです。このことを知っておいて、自分への期待値も下げておきましょう。

 下園 壮太(しもぞの・そうた) NPO法人メンタルレスキュー協会理事長、元陸上自衛隊衛生学校心理教官。陸自初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。その後、自衛隊の衛生科隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、カウンセリング、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。本邦初の試みである「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約300件以上の自殺や事故にかかわる。2015年8月退職。現在はメンタルレスキュー協会でクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、メンタルヘルス、カウンセリング、感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などについての講演・講義・トレーニングを提供。著書50冊以上。
下園壮太さん公式ホームページ

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