海上自衛隊が報道公開した米国製の大型無人航空機「MQ9Bシーガーディアン」。海自は「P3C」や「P1」といった有人哨戒機が担う警戒監視任務を無人機で代替できるかテスト中だ。海洋国家日本の警戒監視の現場はどうなっているのか。P3Cを取り上げた前稿に続き、本稿ではシーガーディアンをリポートする。(時事通信社会部 釜本寛之)
【姉妹編】不審船「におい」で分かる?!P3C哨戒機に乗ってみた◆警戒監視の今(上)
世界に先駆け、日本で飛行
2023年6月下旬、訪れたのは青森県八戸市の海自八戸航空基地。海自はシーガーディアン1機を5月から計2000時間の契約で借り受け、性能をチェックしている。海上保安庁が先にパトロールなどへの運用を始めた機体も同基地にあり、合わせて3機が配備されている。
シーガーディアンは米国のジェネラル・アトミクス(GA)社が開発した。米国や英国はまだ導入を検討している段階で、同機を海洋監視に運用するのは日本だけだ。米軍などが保有する同じGA社の「MQ9Aリーパー」や米税関などが運用する「スカイガーディアン」と似ているが、関係者によると、監視に特化した同機は、より高度なセンサー類やカメラを積んでおり、探知性能は「高校生と大学生くらい違う」そうだ。
近未来的なオペレーションルーム
シーガーディアンの操縦や作戦運用を行うオペレーションルームは、機体を収容する格納庫の一角にある。大型のコンテナのような外観で、海自と海保の部屋が二つ並んでいる。
許可を得て海自のオペレーションルームに入った。公開は初めてという。中には複数のモニターがセットになったパソコンがずらりと並び、席は、GA社の運用スタッフと、運用スタッフに動作をリクエストしたり、映像を確認したりする海自の2グループに分かれていた。壁には大型モニターが複数設置され、近未来的な雰囲気だ。
「富士山頂からふもとの車番が見える」
大型モニターには地図や貨物船が映しだされている。シーガーディアンはこの日朝から飛行しており、カメラがとらえた映像が生中継で流れているという。
映像は非常に鮮明で、船の識別番号や船籍の文字もはっきり読めた。どのくらいの距離から撮影しているのか聞いて、絶句した。「だいたい15海里くらいですね」。1海里は1852メートル。およそ27.7キロメートルも先だ。
GA社の触れ込みは「富士山頂からふもとの車のナンバーが読み取れる」というもの。実際のところ、どうなのか。海自の担当者に聞くと、性能確認中で詳しくは言えないとしつつ、「少なくとも車種は分かりますね」と答えた。
ワンクリックでモード切り替え
GA社の女性オペレーターが操作する端末のモニターには、三陸沖の地図と、機体の現在地を示す光の点や、船を示す三角形の印が映っている。レーダーの探知範囲を表す扇形に入った三角形をクリックすると、映像が瞬時に船に切り替わった。ボタンを押すたび、点のようだった船影が画面いっぱいに大きくなっていく。漁船だ。
「人の目」による監視でも、10~20キロ先の船を見つけることは可能というが、詳しく撮影するには毎回急降下して接近する必要がある。その点、シーガーディアンは360度の撮影が可能で、ワンクリックで次々と船を確認できる。船は撮られていることに気付くことすらないだろう。
しばらくすると、画面が白黒になった。赤外線モードへの切り替えだ。最初は白飛びして見えにくかったが、すぐ鮮明な赤外線画像に変わった。機首下にあるカメラドームには、複数種の光学ズームカメラや赤外線カメラが内蔵されており、場面に応じて使い分けるという。「夜間や霧でもこれと同じくらい見えますよ」との言葉に、思わずうなった。
交代制で24時間監視も
シーガーディアンの運用クルーは計8人。操縦は機体を動かすメインパイロットと機器を操るサブの2人体制で、さらに各センサーごとに専門のオペレーターがいる。操縦席はカーテンで仕切られたブースの中にあり、メインパイロットのパソコンには、スティック状のコントローラーが付いていた。オペレーターとパイロットはマイクでやりとりしながら、飛行ルートや監視対象を決める。
基地から目視できる範囲では、ラジコンのように直接操縦もできるが、主には、機体先端部のカメラの映像を見ながら操縦する。衝突回避用レーダーも搭載しているほか、基地のアンテナ以外にも衛星回線を複数用意しており、制御不能といった事態や事故を防ぐ二重三重の備えがあるという。
監視用のカメラで撮影した映像はほぼリアルタイムで基地に送信される。八戸基地だけでなく、防衛省や自衛艦隊司令部など複数で同時共有し、GA社の船舶データベースで照会することもできるという。一度に最長約4500キロを飛行でき、24時間ぶっ通しの監視も可能だ。その場合でも、クルーは交制で操縦を引き継ぐことができる。海自の担当者は「10人以上が半日超乗務する哨戒機と比べ負担は小さい。何より、万が一の事故でも人命もノウハウも失われない」と話した。
真っ白な機体、さらなる機能充実も
午後4時すぎ、約8時間の飛行を終えた機体が戻ってくるというので、滑走路脇に移動した。格納庫前には少しずつ向きを変えるアンテナがあった。アンテナの先にシーガーディアンが飛んでいるのだという。
滑走路に近づいたシーガーディアンは、すぐに減速し、ふわりと着陸。ゆっくりと格納庫前まで移動した。機体後部のプロペラは一つだけ。作動音はするものの、P3C哨戒機やヘリコプターに比べると静かだ。
全長約12メートル、幅約24メートルの機体は、試験運用中のため、所属を示す塗装もない。何も描かれていない真っ白な機首は、愛らしくもあるが、少し不気味な雰囲気も漂う。機体の上下や翼の下にある突起はすべて、センサーやアンテナ。最新技術が詰め込まれているが、潜水艦を探知するソノブイなど、さらに機能を充実させる検討も進んでいるという。
海自の未来に、無人機は
取材を終えた後、八戸基地の幹部と懇談する時間があった。幹部はP3C哨戒機の元乗員。シーガーディアンを見て「ついにここまで来たか」と衝撃を受けたという。
若者人口の減少などで、隊員確保は自衛隊の大きな課題。幹部は「使えるものは何でも使う。でないと、回らない時代が来る」と割り切った様子で話しつつ、「潜水艦の探知や迎撃など、隊員の優れた技術はまだまだ使いどころがありますから」と自信をにじませた。
試験運用は24年9月まで。海自はその結果を基に導入の是非を判断し、導入する場合は25年中に機種を選定する方針だ。